第88話 レコの体の問題を解決するには

「魔力結晶のこびりつきなんて初めてのケースなんですから、解決策なんてある訳ないじゃないですか」

「えぇ~……そこを何とか!」

「無茶言わんといてください!」


 工房の技術班にこんな相談したのは、会議で僕の事が話題に上がったから。

 シャーリヤさんが僕の状態に気付いた事がきっかけとなって。


 実は例の魔力結晶こびりつきの進行が以前よりも速くなっていた。

 歩かなくなったのもあるし、なんだか魔力濃度もより濃くなった気がして。


 それで思い切って専門家である技術班の方に対策案を聞いてみたのだけど、やっぱりダメだった。


「まぁともかく、調べるだけ調べてみますか。そこに座ってください。装甲を開いて内部を見てみますので」

「お願いします」


 ここの施設はなんでも、皇国に負けないくらい設備が充実しているらしい。

 さすがヴァルフェル開発を主導したデュラレンツなだけあって、ノウハウ自体はそれなりに高いようだ。

 なんでも生産設備さえあるらしく、小規模だけど量産も一応は可能だとか。


 ただし開発能力は既に技術の頭打ちが訪れているそう。

 なのでその一歩先を行っている皇国から技術を盗まないといけない状態だ。


 特に第四世代機ディクオールは前世代機との隔たりが大きい高発展型。

 さすが皇帝の名を受け継いだだけあって、最終決戦兵器にふさわしい高性能量産機となっているから、追従するのがやっとなんだって。

 皮肉にもそんな機体が皇国の暴力性を示す事になってしまったのが残念でならない。


 それでも修理くらいはできるそうなので、こうして身を委ねてみたのだけど。


「装甲板、開きますよ――ってうわ、なんだこれ!」

「え、なんだこれ!?」

「中もすごい事になってますよ! まるで潤滑油グリスみたいに半結晶がこびりついている! すごいなこれ、ドロッドロだし次から次へと溢れて来るぞ」


 いざ機構部を開いてもらったら、いきなり透明質のジェル状液体がどばばって溢れて床に流れ落ちたんだ。

 それで内部を覗いてみれば、もう機構部がヌメヌメのテラテラでとんでもない事になっていた。


「おう、さっそくやってんな――ってなんだこりゃあ!」

「あ、シシム工房長さん」

「おいおい、あまり汚すんじゃねぇぞ!?」

「不可抗力ですよぉ……」


 そんな中にキュッ友のおじさん、工房長シシムさんがやってくる。

 当然のごとく、僕の惨状を前にして驚きを隠せないようだけど。


「状態はどうだ?」

「これなら修理するより別の機体に切り換えた方がいいですね。それでも時間の問題ですけど」

「対策はできんのか?」

「案が思いつきません。まずは原因から究明しないと――」

「ぷらんならあるよ」

「「えっ!?」」

「あれ、ユニリース!?」


 するといつの間にやらユニリースもが僕達の足元に立っていた。

 それも技術班へと自慢のコンソールをかかげながら。


「これみて」

「これは一体?」

「あたしが考えたレコのふぃにしんぐぷらん。ここに解決策もかいてある」

「どれ、ちょいと見せてみな……ふむふむ――ッ!? こ、こりゃあ……!?」

「こ、これ、ヴァルフェルの設計図じゃないですか!?」


 そんなコンソールを見始めた途端、シシムさんと技術班の人が突如として驚き始めていて。

 そこまですごいものが書かれていると、僕もとても気になるんですけど。


「これはすごいぞ、技術革新なんて所じゃない……! 基礎ゴーレムフレームをリキッドストレーション機構に切り替えて流動式にし、蓄積魔力を攪拌かくはんしているんだ。これなら確かに魔力が濃縮される心配は無い」

「それだけじゃねぇ、それが魔力循環機構にも作用して反応速度の向上さえ可能だろうよ。実現できれば、の話だが」

「できるようにもうせっけいおわってる。ずめんどおりにつくってくれればだいじょぶ」

「おいおい、とんでもねぇ嬢ちゃんだな。コイツを造れってか。ヴァルフェル一台まるごとオーダーメイドたぁ思いきるじゃねぇか」

「ただ面白い話ではありますがね」

「違いねぇ」


 ユニリースはどうやら僕の身体にふさわしい機体を開発してくれたらしい。

 あれだけ集中してコンソールいじっていたのはきっとこの為だったのだろうね。

 一時は遊んでいるのかとも思っていたけれど、違ったんだなぁ……。

 ユニリースはやっぱり僕の自慢の子だ。


「――だが、忖度なんざ要らんからここはハッキリ言わせてもらうが……見立てだと、コイツは欠陥機だ」

「えっ?」

「確かに性能はとんでもねぇ。現状が第四世代なら、こいつはいわば――第六世代と言っても過言じゃねぇくらいだ」

「第六!? 一個飛ばすくらいすごいんですか!?」

「おう。だがな、高出力機器のオンパレードに制御系のわからん新技術の数々。おまけに言えばなんだ、肩と足に計四つの小型エアレール出力装置までついてやがる。こんな事しちゃお前、とても人間なんかが扱える訳ねぇだろ」

「それ、一体どういう事なんです?」

「エアレールってのは本来、二本でも超大型機を支えられるくらい丈夫だ。もしそんなのを四つも制御してみろ、扱いにしくじればレールそのものに潰されるか引き千切られておしまいよぉ。いくら補助システムがあったってそこまで精密な制御は不可能だぜ」

「ひ、ひぃぃ……」


 ただその自慢のユニリースさん、とんでもないシロモノを開発してしまったみたい。

 専門家であるシシムさんからこんな意見が飛び出してしまうくらいなので、僕はもうそれだけで戦々恐々だよ。


 けどそれでもユニリースは地団駄をして返していたけれど。


「レコならできるの! そうけいさんしたの!」

「わ、わかった、わかったから落ち着けって嬢ちゃん……」

「けどこれ、理屈じゃ本当に理解できないですよ? だってこれ全体出力値が高過ぎて、ざっくりでもバッテリーが一時間保てばいい方じゃないかい?」

「だいじょうぶだもん。レコならもんだいないもん……ぶぇ」

「ああっ、責めてる訳じゃないんです! だからごめんね、泣かないで!」

「修羅場にも見えるし、ほほえましくも見えるのがなんともはや」


 専門技術の話になると僕はてんで弱いので蚊帳の外。

 とはいえ相手も大人だから、ちゃんと子どもの扱いはできるみたいで良かったよ。

 肝心の話の内容は少し――結構不安があるけどね。


 とはいえユニリースの事だからきっと考えがあるのだろう。

 彼女ならそういった話で嘘は付かないし、間違う事も無いと思うから。


 そこで僕はシシムさん達にお願いして、ユニリースが開発した新型ヴァルフェルの製造に着手してもらう事となったんだ。

 彼等もなんだか乗り気にみえるくらい張り切っていたしね。


 果たして一体どんな機体ができあがるのだろうか。

 ちょっと怖さもあるけど、楽しみにして待つとしようかな。

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