第41話 歓迎、駐屯地!
「着いたであります。ここが駐屯地でありますよ」
「うんそうだね、たしかにそうなんだけども」
凱龍国ラーゼルトの国境付近を守る聖鱗騎士団。
その一員であるロロッカさんに保護された僕達は、ひとまずその騎士団の本拠地たる駐屯地へと赴く事にした。
……なのだけど。
今、僕はたくさんの騎士・兵士達に魔杖や銃を向けられています。
もはや逃げる事も叶わないくらいの人数に、四方八方から。
「キサマァ! まさか単機特攻かッ!?」
「皇国のヴァルフェルが何をするつもりだぁ!?」
「カチコミとはいい度胸してるじゃねぇかあああん!?」
しかも相当な殺意が籠められているようです。
もう今にも炎弾やら銃弾がぶっ放されそうで僕、気が気じゃないんですけど。
「待ってくださいであります! 彼は――
でもそんな彼等との間にすかさずロロッカさんが立ち塞がってくれた。
相変わらずのいい人っぷりでとても嬉しい!
この際なので名前の間違いは置いとくとして。
「お前、ロロッカか!?」
「なぜそんなのを連れて来た!?」
「彼は……
「なんだと……!? 自らドゥゲザァーを!?」
「そもそもメソなのかネソなのか、どっちなんだ!?」
それとよくわからないけど、ドゥギャザーというものをすると彼等は戸惑うらしい。
おかげで駐屯地の人々は一気に混乱の渦中へ。
向けられていた銃口たちがブレブレになるほど、ザワついた空気が周囲を取り込み始めた。
「皆、鎮まれッ!!」
けどその時、突如として上がった大声が喧騒を吹き飛ばす。
とても威厳を感じさせるほどの力強い怒鳴り声が。
そうして皆が一斉に振り向いた先には、一人の男が立っていたんだ。
背が高くて筋肉質だけど、スマートさをも感じさせる体格の人が。
そんな男が近づいて来るにつれ、容姿もハッキリと見えてきた。
厳しさと優しさが同居したような、僅かに上がった口角。
揺れる程に長い、薄青くてクセのある毛髪。
それでいて目つきが鋭く、僕の心に刺さりそう。
その雰囲気はどことなくアールデュー隊長に似ている気がする。
「白昼堂々我々の前に姿を晒した、という事は何かしらワケがあるのだろう? ならばここはひとまず私が引き受けよう。皆は持ち場に戻ってくれ」
いや、アールデュー隊長よりもずっと紳士的、かな?
続いて放たれた声は落ち着きをともなったもので。
色々と疑念もありそうなのに、たった一言で周囲の人々を退かさせてしまった。
ものすごい統率力だと思う。
「助かったであります団長殿!」
「ロロッカ、君は相変わらずやる事が派手でいけないな。せめて一報くらいは入れて欲しかったのだが?」
「も、申し訳ないであります。実は通信機がさきほど破損してしまいまして……」
「……またか。まぁいい、事情はともあれ彼に害意がないのであれば話を訊かねばなるまい? なら向こうの本陣で話し合うとしよう」
「団長を狙ったスパイかもしれませんぜ?」
「ならこうして乗り込むより、肩の大型砲で遠くから隊ごと丸焼きにした方が効率がいい。それに、もし何かしてくるようなら私自身の力で乗り越えてみせるさ」
おまけに自信も溢れ出てくるかのようだ。
ヴァルフェルを前にしてもなおこの自信……。
となるとこの人はおそらく、〝英雄級〟なのだろう。
英雄級とは、単独でも獣魔と渡り合えるくらい強い人の事だ。
まだヴァルフェルが無かった時代には彼等の存在が人類の要だったという。
つまり人でありながらヴァルフェル並みの戦闘力を有しているってワケ。
でもやっぱり生身の人間だから疲れるし消耗もする。
なのでどうしても数で押してくる獣魔には勝てず、先の大戦で多くの英雄達が失われてしまった。
悲しい歴史だったと思う。
この人はその生き残りなのだろう。
よく見れば体中に生々しい傷痕も残っているし。
国を守る為に、必死に激戦を繰り広げてきたのだろうね。仲間達から厚い信頼を得られるくらいに。
そんな人がなんで国の一外縁部を守っているのかはわからないけれども。
「確かに僕は元皇国兵ですが、今はそんな害意なんてありません。僕はただ安住の地を求めているだけなんです」
「戦闘兵器たるヴァルフェルが安寧を求める、か……フッ、なかなかに興をそそるじゃないか。退屈していた所だ、面白そうな話を聞かせてもらうとしよう」
「楽しみであります」
「ロロッカ、君は自分の任務に戻れ。途中で放り投げて来たのだから最初からだ」
「えっえーーーっ!?」
その団長の命令にはロロッカさんも逆らえないみたい。
だからかショックで叫び終えると、ガクリと肩を落としながら去っていってしまった。
悲壮感漂う背中を前にして、僕もなんだか罪悪感を覚えてならないよ。
けど団長さんはロロッカさんに気も留めず、奥へと歩み始めていて。
「さて、自己紹介がまだだったな。私の名はレクサル=エーヴァ=ギュント。ラーゼルト北部外縁を守る聖鱗騎士団の団長を務めている」
更にはこうして丁寧な口ぶりで自己紹介までしてくれた。
僕に振り向いて手招きしつつ。
なので今は大人しくレクサルさんについていく事に。
それでほんの少し歩き、陣営の奥までやってきたのだけども。
駐屯地の雰囲気はまるで野戦キャンプ地だ。
丸太と布を合わせただけの砦と外壁は旧時代を
まるで過去に来てしまったかのような錯覚に見舞われるくらいに。
これじゃ本当に野蛮人の住処だよ。
ラーゼルトの人達は本当にこんな文明レベルなのだろうか?
――そんな疑問がよぎるほどに原始的だったんだ。
「僕の名は――」
「ああ、さっき私も聞いていて知っているから自己紹介は不要だ」
そんな中にあったボロテントの一つへ僕を案内すると、レクサルさんが振り向く。
二コリとした笑みを向けつつ、腕を組みながら。
「たしかネソ君かメソ君だったか――それとも、レコ=ミルーイ君だったかな?」
だけどこの時、レクサルさんの健やかそうだった笑みに不敵さが帯びる。
どうやら僕は偽装の天才なんかじゃなかったみたいだ。
それどころかこの人、僕の事を最初から見抜いていたのかもしれない……!
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