第50話 みんな僕を利用しようとする

「えーてりんくをせんさー経由でつないだから、レコの意思ひとつでじゆうにうごかせるとおもう。ためしにやってみて」


 ユニリースが何かを提案したと思ったら、とんでもない事をやり遂げた。

 なんと破壊したはずの敵を操ったと言うのだから驚きだ。


 確かに、対象の機体は偽魂器を破壊しただけだからほぼ無傷。

 多少動きに不自然さはあったけれど、動く分には問題無いらしい。


 それで言われた通りにその機体へ意思を向けてみる。

 すると――


「ほ、本当に動いたであります!」


 なんとちゃんと動いて見せたのだ。

 皇国名物・ドンドラ踊りでしっかりと!


 ……なんでそんなのを覚えていたのかはこの際置いといて。


「せんさー経由だからうごきはおそいけど、囮にはつかえる」

「うん、これなら銃も放てるだろうし申し分ないよ。さっすがユニリースだ!」

「えっへん!」


 なんにせよこれで事実上の戦力アップだ。

 固定砲台が一つ増えたようなものでとても心強い。


 そこで僕ももう一機から精霊機銃と大盾をいただく事に。

 ついでに盾裏へ、さっきくすねた剣の柄を溶接して携帯。

 即席だけど、これで一応は対ヴァルフェル戦の準備万端だ。


 先にどれだけの数の敵が潜んでいるかもわからない。

 その為にも万を期しておかないとね。


 それで僕達は再び峰へと向けて進み始めた。

 何が起きてもいいようにと、ユニリースをコンテナへ戻して慎重に。

 ロロッカさんももう覚悟を決めたようで、剣を片手に緊張しながら付いてくる。


 こうして僕達はとうとう山頂へと到達。

 そのまま山頂中央にある盆地へと向けて慎重に近づいていく。


 本来はそこに凱龍王の住まう玉座施設があるらしい。

 なので少しだけ期待しつつ、ゆっくりと覗き込んでみたのだけれども。


 この時、僕達の視界に予想だにもしなかった光景が映り込んだんだ。


「そんな……凱龍王が拘束されているであります!」

「あれが、凱龍王……!?」


 そう、あろうことか凱龍王らしき巨龍が大地に拘束されていたんだ。

 無数の光鎖らしきもので繋がれて楔を打たれ、身動きできないくらいに。


 そして拘束を行ったのはおそらく、近くに群れるヴァルフェル達。


 それは皆が凱龍王を囲みながら見上げていたから。

 まるで情けない王の成れ果てた姿を憐れみ蔑むかのように。


「いったいなぜ凱龍王は抵抗しない!? ヴァルフェル相手でも勝てるんじゃないの!?」

「おそらく凱龍王は戦えないであります……相手が自国民であるのと、獣魔との戦いで相応に疲弊しているでありますから」

「そ、そんな!? なのになんで彼等は自分達の王を拘束なんて――ま、まさかッ!?」


 でもここで僕は気付いたんだ。

 彼等がなぜ凱龍王を拘束したのか、その理由に。


「間違い無い、彼等はラーゼルトから寝返ろうとしているんだ。おそらくは皇国に。そこで凱龍王を捕らえて何かするつもりなんだと思う。殺すか、あるいはどこかへ連れて行くか……!」

「そんな不届きな! 同じラーゼルト人とは思えない所業でありますよ!」


 その動機まではわからない。

 皇国と手を結ぶつもりなのか、何かを取引するつもりなのか。


 だから先の二機は、僕を〝皇国の使者〟と勘違いしていたんだ。

 でなければああも不用意に近づいてくる訳がない。


 そうとれる言動をしていたからこそ、今やっと確信を持てた。


「あ、ならもしかしてレクサル団長はその兆候を察知していた……?」

「多分ね。あの人は抜け目なさそうだから何かしらの情報を得ていたんだと思う。だから状況をかき回すために無関係な僕をあえてけしかけたんだ。まぁ奴等が僕を使者と勘違いしたのまでは偶然だろうけど」

「確かに、聖鱗騎士団が動けば簡単に察知されるであります。我が騎士団はラーゼルトでも屈指の精鋭部隊なので注目されているでありますよ」


 さしずめ、レクサルさん達はそのあおりで左遷されたんだろう。

 計画の邪魔にならないようにと入念に。

 それで動くに動けなくなってしまった。


 でもそこで偶然にも僕が現れたってワケ。

 だからあの人は言ったんだ。僕の事を「天啓の君」って。


 この不利な状況を打破してくれるかもしれない不確定要素として。


「まったく、誰も彼も僕の事を利用しようとしてさ……本当に参っちゃうよ」

「リコ殿……」


 まさか他国にまで来て、また良いように使われるなんて思っても見なかった。

 僕は相変わらず厄介ごとに巻き込まれる体質みたいだ。

 ほんと飽き飽きしちゃうな、こっちの都合も知らないでさ。


「――けど、今回は悪くない」


 ただ、頼られてるっていう事だけはわかる。

 彼等もまた困っていて助けて欲しいんだってね。


 そういう事だったら助けるのだって吝かじゃないさ!

 なんたって僕は人助けが何よりも大好きだからね!


「で、では!?」

「ああ、やってやろう。僕達だけでこの状況を打破するんだ!」


 こうなったら巻き込まれついでだ。

 いっそ凱龍王を取り囲んだ奴等も存分にかき回してやる!

 自ら進んで国を裏切るような連中なんて知った事じゃない!


 ゆえに僕は戦闘モードへ移行しつつ立ち上がった。

 お供の無魂ヴァルフェルを引き連れ、奴等へ姿を晒すようにして。


 ロロッカさんには悪いけど、ここは僕達二人でやらせてもらうとしよう。

 相手も騎士級ヴァルフェルなら、そう簡単にはいかないだろうから。


 それでも不思議と、敗ける気はしないけどね。

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