第51話 凱龍王を救い出せ!

「敵機は全部で十四。いずれも精霊機銃と大楯装備のスタンダートモデルだな。反応速度は既に計測済み。これなら僕でもなんとかなるさ!」


 自国民によって拘束された凱龍王。

 白銀の鱗と黄金の装飾角で象られたその姿はまさしく王か神か。

 それでいて翼を広げた姿は、ヴァルフェルが対比的に米粒と見えるほど雄大。

 なのにその力を発揮できずにいる姿のなんと嘆かわしい事か。


 だからこそ僕が解放しよう。

 レクサルさん達がそう願い、託してくれたのならば。


 僕は冷鉄肌のヴァルフェルだけど、そんな想いを無碍にするほど冷淡じゃない!


「ロロッカさんはレクサルさんに逐一報告を。僕は奴等を、討つ!」

「おおお気を付けて!」


 ゆえに僕はまず回り込むようにして走り出す。

 僚機を盆地の傾斜へ向けて真っ直ぐ歩ませながら。


 そうして僚機が精霊機銃を敵中心へ放った事で戦いが始まった。


 ファイアバレットが内一機をかすって巻き込み爆発。

 照準も少しずれているのか、直撃には至らなかったけれど。

 そこで敵機達が僚機に気付いて応戦し始める。


 でも動揺は隠せていない。

 なにせ友軍機からの攻撃だからね。

 躊躇と戸惑いで機体の動きが散漫だぞ!


 そこで僕は別の所から思い切って盆地の坂を一気に降りる。

 それも大楯の裏に乗り、斜面を高速滑走する事によって。


「オートバランサー正常、地面の起伏データ照合完了、これなら転ぶ事もない! このまま一気に突き抜けるッ!」


 幸い、地面は黒土を含むしっとりとした砂利肌だ。

 滑る分には申し分ない抵抗力で、走るよりもずっと速く降りられる!


 おかげであっという間に斜面中腹まで滑り降りる事ができた。

 そこでようやく敵機達が気付いたようで、こちらへと弾丸が飛んで来る。


 でも僕はもう止められないぞ!

 弾道計測は済んでいるから、そう簡単に当たってやるわけにはいかない!


 すかさず盾を踏み込み、エッジを利かせて滑走軌道を変える。

 そうして爆風をやり過ごし、反撃で相手を撃ち抜く。


 一機目、二機目――近くの敵を続けざまに撃破だ。


 どうやら相手は騎士といってもそれほど射撃能力が高くないらしい。

 弾道計算もなっちゃいないし、経験値フィードバックも足りていない。

 明らかな実力不足だ。


 そして僕の機体は、彼等のさらに上の第四世代機『ディクォール』。

 全ての性能において上回っているなら、さばききる事だってできるはずだ!


 引き続き、三機目を撃破。

 榴弾砲を直撃させ、胴体を融解・爆発四散させる。


 そこで奴等も照準に慣れたのか、射撃精度が上がってきたようだ。

 僕の滑走軌道を先読みした一撃が飛んで来た。


 しかし僕はそれを、斜面を大きく飛び跳ねて躱す。

 背中の重光波砲にエネルギーを充填させた状態で。


 滑走時は不規則的で撃てなかったけど、跳躍時なら話は別。

 既に跳躍軌道は計算済みで、射撃のタイミングは今が最適だ!

 よってこの時、僕の肩から重光波が解き放たれる。


 敵二機および光鎖を数本断ち切るように薙ぎ払いながら。


 そうして着地し、今度は盾を構えつつ走って突撃。

 僚機と共に射撃を繰り返して更に二機撃墜、これでもう半分の七機だ。


 ただここでもう僚機が限界を迎えたらしい。

 斜面の向こうで爆発に巻き込まれて弾け飛ぶ姿が見えたから。

 遠隔操作ってだけでここまで鈍重になるものなんだな。


 けど僕はあんな人形とは違う。

 強い意思があるからこそ、そう簡単には倒れやしない!


 その証拠に、僕は既に数発の熱榴弾を受けても平気だった。

 大楯が意外に強固で結構使える代物だったおかげで。


 もちろん、そのまま受けていた訳じゃない。

 盾を最適角度に傾け、弾や爆風を受け流したのさ。

 更にはその爆風を逆に利用し、飛び跳ねるようにして駆け抜けていく。

 機械だからこそできる精密動作だ。


 そうして一気に距離を詰め、敵の一機との近接距離クロスレンジへ突入。

 相手の剣による縦斬りを身をよじらせて躱し、首根っこを掴んで引き千切ってやった。


 続いてそのままそいつの背中を掴み取り、もう一機へと向けて投げ付ける。

 そのまま視界を遮った所でファイアバレットをブチ込み、二機同時破壊だ。


 あとは放り上げていた盾を再び掴んで再進撃へ。

 お手玉みたいに武器を換装するのはなかなかに面白かったよ。


『馬鹿なッ!? なぜ同じ精霊機銃であれほどの出力差があるッ!?』

『あの動きはなんなんだッ!? どうしてあそこまで動けるゥ!?』

『奴は使者ではないのか!? 皇国の奴等は何をしているのだッ!?』


 それと、ここまで来た事でようやく通信を傍受する事ができた。


 奴等め、相当焦ってるみたいだ。

 なにせあっという間に残り五機になってしまったからね。

 最新鋭機もこれじゃ無しさ!


 大暴れしちゃって背中のユニリースは少し心配だけど、本人は大丈夫だって言ってくれていた。

 厚手の毛布があるから大体の衝撃を吸収できるんだって。


 だから遠慮する事なくこうして戦う事ができるんだ。

 理解ある家族がいるっていいよね!


 さぁておかげで大詰めだ!

 残りも排除して凱龍王を救い出すぞ!

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