第121話 ……
「アールデューさん、シャーリヤさん、詳細な状況を教えてください!」
子ども達との別れを済ませた僕はさっそく入口前広場へとやってきた。
場には既に戦闘員が十数人集まっており、対応を相談し合っていたようだ。
そしてその中には銃を携えるアールデューさんとシャーリヤさんの姿も。
「てめぇ! なんで来やがった!?」
「君は私達の意図に気付かないほどバカなのか!?」
けどそんな二人へとこう声を掛けたら、逆にこんな怒号が返って来た。
まぁ二人の親切心を無碍にしたのだから怒るのも当然だよね。
とはいえ僕を追い立てるような事まではしなかった。
場にいる半数が僕の登場でむしろ喜びを見せていたから。
今のデュラレンツの戦力はどうやら本当にこれだけらしい。
たった一七名の戦闘員と、同等数の人用銃器や剣盾のみ。
いずれも古株ばかりで、年寄りの方が多いという感じだ。
皆きっともう引く事なんてできないくらい戦い続けてきた人達なのだろう。
死ぬ覚悟さえとっくに決めて。
「子ども達との別れはもう済ませましたから、安心してください」
「馬鹿野郎……そこまでする義理はないだろうが」
「いえ、そういう訳にはいかない。この戦いには何かツィグさんの意図を感じましたから。だから僕は来る事にしたんです」
「ツィグの意図、だと……?」
でもね、僕はそんな人達でも守りたいと思うよ。
誰もがここにいる間、丁寧に真摯に応えてずっとお世話になった人達だから。
「えぇ、逃げる時間を与えるためなら宣戦布告でもすればいいのに、それすらしない。ずっとだんまりで、それはまるで『何も言えない』と言っているようじゃないですか」
「それは……」
「そして並べられた機体は少なからず僕と因縁がある。だからこれはおそらく、ツィグさんが仕組んだ僕との私闘なのだと思います」
「「「なっ!?」」」
「なのでむしろ、皆さんの方が戦う必要無いんですよ」
だから僕はあえて意図をバラし、彼等に撤退をうながす。
無駄な血を流させないために、彼等が戦ってきた意味を無駄にしないために。
この戦いはもはや皇国とは何の関係も無いのだと。
そう伝えられた事を理解した数人が武器を降ろし、無言でこの場を去っていく。
きっと僕の意図を汲んだのと、もう戦う意味を感じなくなったから。
そして残った誰しもがそんな人達をとがめるような事はしなかった。
「皆さんもすぐにこの場から退避を」
「いいや、嫌だね」
「なぜです!? 死ぬかもしれないのに!」
「意図なんか知った事か。いいかレコ、てめぇが覚悟決めたって言うなら、俺達も腹を括るぜ。例え無駄だってかまいやしねぇ」
「私達はただ戦いたいのではない。未来の礎となりたくて戦っている生粋の変人なのだよ。そんな生き甲斐とも言える理由があるから、君と共に行きたいとも願う。その生き方をどうか奪わないで欲しい」
「アールデューさん、シャーリヤさん……」
きっと彼等も僕と一緒なんだ。
例え望まれた存在でなくとも関係は無い。
すべてをやりきった今だからこそ、華々しく散りたいだけなのだと。
「そうは言うがシャーリヤ、手が震えてるぞ?」
「当たり前だ。怖くない訳がな――あっ」
「なら二人で行こう。それならもう怖い物なんてないだろ?」
「アールデュー……フフッ、そうだな」
そんな最後に向けて、皆が思い思いに言葉を交わす。
アールデューさんもシャーリヤさんと手を繋ぎ、遂にはその唇で想いをも繋いでいたよ。
けどそんな束の間のひと時もすぐに終わり、皆の視線が僕へと向けられる。
誰しももう後悔は無いと言わんばかりの真っ直ぐな瞳を向けて。
「……よし、俺達はもういいぜ。タイミングはレコに任せる」
「わかりました。それでは、いきます!」
「「「おおーッ!!!」」」
後はもう思うがままにただ猛々しかった。
僕の一言に皆が奮い、雄叫びを上げて武器を高々と上げていたのだから。
ゆえに僕達は燃え盛る入口を突き抜け、外へと躍り出た。
未だ待ち続けていた複数のヴァルフェル達へと向け、一斉に。
たちまち向こうからも銃弾が飛び交い、炎が爆ぜて土が舞う。
そのあおりをもらい、一人、また一人と力尽きて倒れていく。
それは決してアールデューさんやシャーリヤさんも例外ではない。
あっという間に誰もが動かなくなっていた。
それほどまでに徹底的で、冷酷で、躊躇いさえない攻撃だったから。
まるで機械兵の恐ろしさを垣間見せるかのように。
「皆……くッ!! だけど僕は、僕はそう簡単にやられはしないッ!!」
だから僕はもうすべてを破壊するつもりで魔法を放つ。
空へ飛び、滑空しながら空気の矢で二機のヴァルフェルの中核を貫いた。
それでも相手の攻撃は機械的に行われ続ける。
ただ僕を追って向きだけを変え、弾丸を撃ち続けるだけという形で。
一切避けようともせず。
「そんな物で僕を止められると思うな! 僕は、僕はッ!!」
そんな敵の中心地から岩石を隆起させ、一挙にして体勢を崩させる。
さらには岩の龍を構築させ、次々と機械兵を噛み砕き、すり潰してやった。
無数の弾丸を受け続け、左腕を弾けさせるその中で。
「僕は廻骸のヴァルフェルッ!! どんな悪意も見逃さず、いくらやられても何度も蘇って人々の心を守り続ける、機械の守護神だあああーーーーーーッッッ!!!!!」
そう叫ぶ中で岩龍が弾け、溶岩として周囲のヴァルフェル達を焼いた。
瞬時にして溶かし、その動きを止めさせる程の熱量をもって。
そうしてすべてが止まった、その時だった。
突如、僕の視界が真白に染まる。
光が溢れて何もかもが消えていく。
腕も、脚も、身体も、溶けて、消えていく。
そう、そしてその末に、僕の意識さえも――
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