第27話 弔い合戦だ!

「君、無事か!? 生きているなら壁を蹴って!」


 今、僕を狙っているのは最低三機のヴァルフェル。

 奴等の凶弾に掛かってダンゼルさんは逝ってしまった。

 クッ、こんな事になるなら雇われなければ良かったんだ……!


 けど今は過ぎた事を悔やむ余裕なんて無い。

 僕達だけでも乗り越えないと、あの人の死を嘆く者がいなくなってしまう!


 幸い、背中からドンドンと音と振動が響いて来た。

 よかった、コンテナちゃんは無事らしい。


 なら後はこの包囲網をどうやって切り抜けるか、だ!


『ウッフフ、やっぱりこのチャンネルのまま、あの戦いのままだったわね』

「ッ!?」


 けどそんな時、僕の受信機に声が届く。

 それも聞いた事のある艶声が。


 嘘だ……そんな、まさか!?


『見つけたわよ、アールゥ。やっぱり貴方、まだそのにいたのね?』

「そ、そうだ、この声は間違い無い――ナイツオブライゼス、レティネ=ジ=クリプトフ特務隊長……!」


 そう、まさかのあのレティネ隊長だ。

 アールデュー隊長、ツィグ隊長と肩を並べる三大騎士の一人!


 その一人が今、僕を取り囲んでいるーーーッ!?


 どうして隊長級が!?

 なんで僕を追う!?

 どう考えてもおかしいだろ!!!


『貴方に会いに来たのよ? ここに来るとわかっていたから我慢できなくて……! ほら、今姿を見せるから御覧なさいな』

「ううッ!?」


 そう動揺する中、更にはこんな通信が入って。

 僕はただ従うままに覗き見る事しかできなかった。

 例え罠なのだとしても、逆らえる事ができなくて。


 ただ、その心配は僕の杞憂だったのかもしれない。


 彼女はある意味で、間違いなく騎士だったのだ。

 そんな策略など使わずとも勝てる、そう自負できるまでの。




 振り向いた先に、なんと彼女達が立っていたんだ。

 それも三機揃い踏みで、もうすぐ暮れるであろう日を背にしつつ。




『アールゥ、聴こえているんでしょう? 返事しないと、撃つわよ?』

「……ダメだ、あの人は小手先の騙し方なんて通用しない。ずっと一緒にいた人ならすぐバレてしまう! こうなったら……!」


 ゆえに、その堂々と立つ彼女達の前に僕もまた姿を晒す。


 でも決して騎士だからという訳では無い。

 それ以上の策が見つからなかったから。

 ひとまず従い、話し合う以外に手段が無いと思ったんだ。


『やっと出てきたぁ! ウッフフ――』

「すみませんが、人違いです。僕の名はレコ=ミルーイ。これだけ言えばもうわかるでしょう?」

『――ッ!?』


 だから姿を晒した上で通信チャンネルに言葉を乗せる。

 ただし、武器を構えて警戒を解かないままに。


「そう、あのレコ=ミルーイです。皇帝陛下暗殺の罪を負い、自決したレコの転魂体なんですよ!」

『……』

「でも僕はそんな記憶も、陛下を殺そうなんていう意思もありません。何が起こったのかさえわからないまま、皇国を追われたんです……!」


 ただ、こちらから撃つつもりは無い。

 相手も銃口を下げている以上は。


 あとは相手が、僕の言う事を受け入れてくれるかどうか。


 可能性は薄いだろうね。

 僕が隊長の真似をするよりもずっと。


 だけど、今はこうするしか助かる手段は――


『もういいのよ、アール。そんな子供だましの様な事はしなくても』

「えッ!?」

『大丈夫。私が貴方を守るわ。何度でも、いつまでも……』

「レティネ、隊長……?」

 

 しかしレティネ隊長は一切動じる事さえ無かった。

 それどころか僕を未だアールデュー隊長と思い込んだままで。


『その手足をもいで、その身体から心だけを摘出して、ずぅ~っと愛でてあげるからぁ……ッ!』

「ううーッ!?」 


 そしてこの瞬間、中央の一機が再び僕へと銃口を向ける。

 既に充填してあったのか、即座に光を撃ち放つほど速く!


 けど僕は危機回避反応でもう避けていて、間一髪無事で済んでいた。


 それで今、再び輸送機の裏だ。

 余りに一瞬の出来事で、後の二機がどう動いたのかも読めなくなってしまったし。


「どうして!? どうして信じてくれないんです!? 僕はレコなんですよーーーッ!!」

『だから、アールゥゥゥッ! もう大人しく私のモノになれえッ! それが貴方の唯一の幸せなのよおーーーッ!!!』

「く、狂ってる! ヴァルフェルだから!? それとも元からなの!?」


 そもそもナイツオブライゼスに勝つなんて不可能だ!

 僕は新兵で、弱くて、臆病なんだから!


 そんな僕がレティネ隊長に勝つ事なんて――

 



 だけど次の時、僕はすぐに冷静になった。

 「なら今、僕はどうして生きていられるのか?」という疑問が過ったから。




 もしレティネ隊長が圧倒的強さなら、初撃はともかく二撃目で終わっていた。

 そうでなくとも、今の一閃を回避するなど普通は無理だろう。


 それでも僕は生き残れている。


 そこで思い出したんだ。

 アールデュー隊長が言っていた言葉を。

 「ヴァルフェルとなった以上、実力に個体差は無い」と。


 そのおかげで生きられた――そう結論付ける事が出来たんだ。


「だったら……僕は生きてやる! レティネ隊長も乗り越えて、なんとしてでも生きてやるんだッ! そして僕はあッ!!!」


 ゆえに今、僕は敢えて輸送機の半身へと突っ込んだ。

 内部に残っているであろうを求めて。


『観念したのね!? そう! だから貴方が好きなのよォォォ!!!』

「そうやって感情を押し付けてばかりでぇーーーッ!!」

『――ううッ!?』


 そしてそれを得た僕は輸送機を飛び出す。

 今一時でもいい、あの人を突破する為の力を貸してもらった上で!


「ぐのォォォーーーんッ!!!」

「行くぞぉグノーン! 一緒にダンゼルさんの仇を取るんだッ!!」

『なにッ!? ゴーレムですってッ!?』


 そう、グノーンは無事だったんだ。

 むしろあの程度で壊れるほどゴーレムはやわじゃない。


 それに、武骨なグノーンだからこそできる事だってある!


 そんな彼の背に跨り、一気に中央機へ向けて駆け抜ける。

 まだまだ遠いが、グノーンの四足走行速度なら一気に詰められるはず。


 この子はそれができる様に造られているのだからッ!!

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