第三章 祖国を越えて
第20話 花華の国メルーシャルワ
「ひとまず俺の拠点に行くぞ。ま、安心しな、この国に入ったからにゃあもう皇国だって簡単に手を出せないぜぇ」
【花華の国メルーシャルワ】。
農業・畜産業を生業として栄える中立国家である。
それと同時に戦力をほぼ持たず、基本的には治安維持程度でしかない。
そんな温和そうな国だけど、実は皇国さえ手出しできない理由があるんだ。
この国で採れた農産物は世界に向けて常に輸出されている。
鮮度や栄養が非常に高品質で、かつ年中採れるから大人気さ。
おまけに生きている野菜なので長持ちするし。
獣魔との戦争で困窮しても世界が耐えられたのは、この国の貢献があったからこそと言える。
しかもここの野菜達はちょっとした特徴があってね。
強い感情を持っていて、嫌な事をされると
例えば戦闘行為でストレスを与えたりなどで。
で、嫌った国へとそんな根に持った野菜を輸出すると、即座に腐る。
しかも言葉通り感情を
こればかりは人間じゃどうしようもない。
ね、そうなったら嫌でしょ?
だから誰も手が出せないんだ。
手を出したら一瞬で食糧危機になるから。
つまりこれがこの国独特の防衛手段ってワケ。
草花に守られた国だから花華の国なのさ。
「ほら見ろ、あれが俺の拠点がある街『ウトヴォール』だ」
「きれーい!」
で、僕達が辿り着いたのはその国の西にある一つの街。
家と畑がほぼ隣接し合うという景色が並ぶ、のどかそうな場所だった。
それでも工場などはしっかり存在し、独立した街として機能している。
皇国と違うのは、背丈の高い建物が皆無って事かな。
あと街自体が凄いカラフルで綺麗。
これはきっとメルヘン好きな女の子に評判だろうなぁ。
かくいう僕もなんかちょっとワクワクしてる。
「なぁレコよ、ちょっと着く前に聞きたい事がある」
「え、なんです?」
そんな感じでコンテナちゃんと一緒にキャッキャしてたんだけど。
最中、ダンゼルさんが僕に向けて人差し指をクイッと跳ね上げていて。
なのでふと、カメラアイも向けてみたら。
「お前さんの腕前を見て俺ァ度肝を抜かれたね。あれが真の戦士の戦いか、ってな」
「言い過ぎですよ。これでも僕、新兵なんですからね。まだ戦闘経験だって三回目くらいですし」
「三回であれならむしろもっとヤバくねーか? 天才か、天才なのか!?」
なんかダンゼルさんの視線が熱い。
着陸場所を探しながらだから横目なんだけど。
それでもしきりに見て来るし、やたら笑顔だし。
最初の時の淡白な印象とまるで違うよね。
「そこで提案だ。お前さん、俺に雇われねぇか?」
「え、ええっ!?」
しかも予想外のオファーまできた。
僕、なにかダンゼルさんのハートに刺さる様な事したのかな!?
「俺ァこの仕事柄、割と危険な事にも足を突っ込む事が多い。それでも今まではグノーンがいたから平気だったが、これからはそうもいかねぇ。ヴァルフェルが相手だとグノーンじゃどうしようもねぇからな」
「なるほど、用心棒ですか」
「そういうこった。悪くはねぇ話だと思うぜ? エネルギー補給にも困らねぇ、ガキも養える、安全な土地に居付く理由ができる、ってな」
「それなら確かに」
理由はともあれ、対価はおいしい。
ヴァルフェル活動限界は最大で一日半。
だけど、補給はどこでもできる訳じゃない。
コンテナちゃんの食事代も稼がなきゃいけない。
パン一個がいくらかは知らないけど。
そしてなにより、支援なしでこの国に居続けられるとは限らない。
いくら温和な国とはいえ、不法滞在は許されないから。
その全てを解決できる機会なんて滅多に来ないだろう。
そんなすごい機会をなんとダンゼルさんが提示してくれたんだ。
だったらもう乗るしかないでしょ!
「なら僕からもお願いします! 働かせてください!」
「よぉし話は決まりだ! 住処に着いたら契約の話を交わすとしよう」
なので僕はこう二つ返事を返した。
素直な答えだったからかな、ダンゼルさんもとても嬉しそうだ。
「僕、力仕事は初めてなのでちゃんとやれる自信はないですけどね」
「心配するな、お前より力仕事に向いてる奴は他にいねぇから」
闇商人といえど、やっぱり人なんだって思ったよ。
僕が想像していたよりずっといい人だし、義理堅いってのも大きい。
むしろ裏社会の人だからこそ金に正直で堅実なんだろうね。
それが信用と生活に直結しているから。
それなら「皇国軍という檻に飼われた猛犬兵」よりはずっと人らしい。
そう思う所があったからこそ、僕はダンゼルさんを信用する事ができたんだ。
こうして僕は晴れて、ダンゼルさんの下で働く事となったのです。
近隣を飛び回る武器配達商社『DDデリバリード社』の正社員として。
で、それから早くも一週間が経った。
「武器配達商社が非武装国家にあるって矛盾してません?」
「いいんだよ建前は。儲かって税金納めりゃ万事解決だ」
僕は今、ダンゼルさんの整備仕事を手伝っている。
飛び回るお仕事かと思ってたけど、意外にこんな肉体労働もしていたみたいだ。
コストカットの為とはいえ、今までよく一人でやってたよね。
というのも、DDデリバリード社は社長であるダンゼルさんのワンマン企業。
おまけに
おかげで近隣から壊れた機械の修理依頼もが舞い込んで来るんだ。
なんて優良な地域密着型企業なのだろうか。
事実を聞いた時は感動が止まらなかったよ。
闇商人要素ほとんど無いじゃないかって。
「三番レンチ!」
「ほいっ」
「どうぞ!」
しかも今ではコンテナちゃんもが正社員として手伝ってくれている。
今はダンゼルさんが求めた工具を工具箱から引っ張り出す係だ。
僕は三番とか言われてもまったくわからないので。
じゃあなんで年端も行かないコンテナちゃんが知ってるのか。
――それもわかりません。
だって彼女すごいんですもの。
他所から入って来た修理業務を勝手にやって完璧に仕上げちゃうくらいに!
意外な新戦力を拾ったってダンゼルさんが大喜びするくらいだよ!
で、一方の僕はといえば工具を運ぶ係。
それ以上でもそれ以下でもありません。
なお社員ランクはコンテナちゃん以下です。
おかしいな、僕の立場はいったいどこへ……。
「嬢ちゃん今日も頑張ったじゃあねぇか。ならまた好物のハンバーグを用意してやんねぇとな」
「やったー!」
「僕は?」
「充電してりゃ充分だろ」
解せない。
この扱いの差はとても解せない。
やっぱり僕、戦い以外じゃ何の役にも立たないのかなぁ……。
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