第21話 君の名前は?
「よぉしレコ、お前の本領を発揮する時が来たぜ」
それは僕がDDデリバリード社にきてから九日目の事だった。
ダンゼルさんがいきなり職場にやってきて、こう声を掛けて来たんだ。
「と、言いますと?」
「コイツラの買い手が見つかったんだよォ。しかも全部買い取ってくれるらしい」
「おおー!」
そうして指を差したのは整備済みでピッカピカのヴァルフェル達。
全部で五機、いずれも最新鋭な我が社のスペシャル商品さ!
まぁ盗品である事はこの際置いとくとして。
一週間も掛けて整備したから思い入れも大きい。
そんな商品が遂に売れるなんて僕ぁ感激だぁ!
まぁ僕は工具運んだだけだけどね。
「ただ客はちぃとばかし訳アリでな、手ぶらで行くのは怖い」
「だから僕が必要って訳ですね」
「そういうこった。場合によっちゃ全力で俺を守ってもらう事もありうるから心しておいてくれ」
しかし、やはりヴァルフェルを欲しがるとなれば客層も限られてくる。
それも扱うのがヴァルフェル技術トップクラスである皇国軍の最新武装となればなおさらに。
となれば顧客が国である可能性さえありうる訳で。
そうなると確かに怖い。
僕一人で守り切れるのか不安になるくらいだ。
だとすると、リスクはできるだけ排したい所。
「それじゃあ危なそうだからコンテナちゃんは連れて行かない事にしましょう。二人同時に守り切れるかわからないし」
「そりゃまぁ構わんが、あいつが言う事聞くタマか?」
「う……」
なので少女を連れて行くのは避けたかったんだけど。
ダンゼルさんの一言が真理を突き過ぎて、既に諦めかけてる。
あの子、ほんっと行動力半端無いんだよなぁ。
気付いたら乗ってるとか本気でありそう。
というかあのコンソールがある限り、僕の行動筒抜けだよね、多分。
というより、あっちは僕の事を何でも知ってそうな気がするよ。
「ところでよぅ、今までずーっと気にしつつも気付かないフリしてきたんだが」
「なんです?」
「コンテナちゃんって呼んでるあの嬢ちゃんの本名、お前知らねぇのか?」
「あー、そういえば知りませんね……」
対する僕は彼女の事を何も知らない。
知っているのは、新型爆弾に組み込まれる様な存在という事。
あと少しわがままで、活発で、機械いじりが天才的でわがままという事。
たったそれだけだ。
名前に関しても気にした事はなかった。
あっちも教えようとしていた訳じゃないし、長く名無しで馴れていたから。
「お前さんは相変わらず妙な所で人間らしさがねぇなぁ。普通名前っつったら真っ先に聞くもんだろうよ」
「いやぁヴァルフェルになると識別名称より容姿の方が重要になるものでして……」
「男なら言い訳するんじゃねぇよ、ったく」
まぁダンゼルさんの言う通りだよね。
今の僕だって少し理屈を考えれば当然だって思う事だもの。
今まで状況に甘えすぎていたのかもしれないな。
少し反省せねば。
――と自戒を促し、次にコンテナちゃんが来た時にでも訊いてみようと心に思う。
なんて思っていた所で早速、当人の登場だ。
「あたし、名前無いよぅ」
「「えっ?」」
どうやら僕とダンゼルさんの会話を聞いていたらしい。
けど、まさかの事実に僕もダンゼルさんも唖然としていた。
名前が無いだなんて……!
そんな事が本当にあっていいのだろうか……!?
「じゃあ前はなんて呼ばれてたの?」
「二七番」
「おいおい、番号で呼ばれてたのかよぉ。こいつぁ想定外過ぎる答えだぜ?」
だからコンテナちゃんも名前を言わなかったんだ。
彼女自身、名前が無くて無頓着だったから。
「こうなったらお前さんが付けてやんな。保護者だしな」
「ええ!? 僕そんな名前なんて付けれるほど機能的じゃないですよ!」
「んなもんフィーリングでどうにかしろい!」
「機械なのにフィーリングとか無茶苦茶な。じゃ、じゃあ二七から一歩進んだので二八とか――あ、コラ! 僕の足を蹴っちゃだめでしょ!」
「絶望的過ぎるな」
しかもこうやって付けてあげようとしたらローキックかましてきた。
それも何度も何度も、「ン"ーッ!」って気合いの声入りで。
なんなのこの子、何が気に入らないのかさっぱりわからないんだけど!?
誰かこの子の取扱説明書を用意してくださぁい!
「しゃあねぇなぁ」
「ッ!? じゃあもしかして社長が!?」
「この便りねぇポンコツが良い名前閃くまで温かく見守ってやるよ」
「しゃちょー……」
「いいか、こういう事は人に頼るもんじゃねぇのよ?」
ついでにダンゼルさんにまで怒られてしまった。
もしかして取扱説明書が必要なのは僕だったりします?
……なんにせよコンテナちゃんは付いてくる気満々だ。
僕を蹴って満足した後、空かさず僕の背中のコンテナに乗り込んだから。
ここが今なお続く彼女の個室だしね。
実は新しい胴体になった時、この空箱をまた溶接したんだ。
箱側のジョイントがもうダメになってるから固定した方が良くて。
けど切り離そうとすると、なぜか今みたいにキレるから離せない。
なんだろうね、この状態がお気に入りなのかな。
まぁもう僕もあまり気にならないからいいけどさ。
「んじゃ準備が出来た所で行くとするか!」
「ラージャ!」
ともかく、今は覚悟を決めて挑むしかない。
こうなったら二人一緒に守る気でだ!
そう勢いに任せて商品を輸送機へ積み込み、僕達は颯爽と空へ舞い上がる。
目指すはこの国の北東部、ロワイル山脈のふもと。
町や村の無い高原の一画である。
そこが先方の指定した取引場所だったのだ。
さて、そこにはいったいどんな相手が待ちかまえているやら。
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