第24話 交渉成立……?

「ダンゼル殿はこちらへ。デニー殿は悪いがここで待っていて欲しい」


 僕達が乗り込んだのはなんとテロリストの本拠地だった。

 しかも僕もがよく耳にした、最も活発な団体の一つの。


 これはとてもまずいでしょ!?

 犯罪者に武器を売るなんてあんまりじゃないか!


 ――なんて心の中で叫びつつも、今はダンゼルさんを見守るしかない。

 もし僕が元皇国軍人だってバレたら大変な事になってしまうし。


 そんなダンゼルさんは目前に用意された交渉のテーブルへ着く。

 広場の人々が退けてできた空間の中央に。


 なお僕は広場には入れなかった。

 うっかり人にぶつからないようにと。

 それでも弾は普通に届くし、この場でも問題は無いだろう。

 

「それで価格だが――」

「一機につき一五〇〇万メルーウィジーだ。国際貨なら七三〇万ダウス。それ以上はまけらんねぇ」

「大きく出たな。だが悪くはない値段だ」

「元は拾いモンだからな、高過ぎてもひんしゅくを買うだけだ。それにこいつァサービス付きの価格だから決して損はさせねぇ」

「ふむ、ならば国際貨で払おう」

「交渉成立だな、毎度有りィ!」


 とかなんとか思っている間に交渉がもう終わってしまった。

 あまりにも鮮やか過ぎて、つい「ええ!?」って叫びそうになってしまったよ。


「転魂装置も持って行ってくれていいぜ。あれもなかなかの良品だぞ?」

「ありがたい、助かる」


 そうやってサービスしたつもりなんだろうけど、社長それ詐欺じゃない?

 だってあの転魂装置、回収輸送中にぶつけて故障したやつじゃないか!

 あとでコンテナちゃんが修理したからまだマシになったけどさぁ!


 ……ま、まぁもういいかぁ。

 どうせサービス品で元手かかってないし。

 粗大ゴミの押し付けに成功したって事で。


 後々恨まれないといいけどね。


「機体と装置はそちらで運び出してくれて構わねぇ。ただ金は今用意してもらおう」

「ではこれでどうだ? 一ケースに五〇〇万ダウス入っていて、それが七つ。残り一五〇万はこれから仕分ける」

「それでいいぜ」

 

 それで早速と、ダンゼルさんに現金入りケースが見せられる。

 ちゃんと中も確認に、全てが本物である事を証明した上で。


 そんなケースがとうとうダンゼルさんへと差し出されたのだけど。


 受け取ろうとした途端、ケースがスッと下げられて。

 思わぬ事態に、ダンゼルさんの顔付きに強張りが生まれた。


「……どういう事だ? まさか今さら出し渋ったとか言うんじゃねぇだろうな?」

「いや、そのつもりはない。だがこれを払う前に一つだけ確認させて欲しいのだ」

「なぁにィ……!?」


 こう突っかかっている所はとても裏の人間らしい。

 やはり信頼を揺るがす事に対しては厳しい人みたいだ。


 だけどこの様子はなんだかまずい。

 ダンゼルさんの雰囲気に反応し、周囲の兵が銃を構え始めていて。

 

「それはダニー殿についてだ」

「ッ!?」


 でもそんな彼等の視線が突如として僕に集まった。


「商品に関しては申し分ないと思う。しかし私は彼の事までは見ていない。貴方を信用する事にしたからだ」

「だったら――」

「けどそうもいかなくなった。彼を少し観察させてもらったが……少し気がかりな事が見つかってね」

「なにッ!?」


 え、なに、どういう事?

 僕に何か怪しい所でもあったの!?

 もしかして挙動がなよなよしいとかそういうのだったりした!?


 すいませんダンゼルさん! やっぱり僕、嘘なんて無理でしたァ!


「あの胸の紋章、あれはひょっとしてだが……噂に名高いナイツオブライゼスの物ではないかな?」

「「「えッ!?」」」


 ――だなんて心の中で叫んでいたのだけど。

 途端、周囲の驚きもが一斉に打ちあがり始めたんだ。


 そう、僕の胸には未だナイツオブライゼスの紋章が付いたままなのです。

 だってカッコイイんだもん! 消したくなかったんだもん!


 けどまさかその紋章が問題になるなんてぇ!


 だから今、僕は堪らず後ずさりしていた。

 ついうっかり動揺を見せてしまったんだ。


 それが、あの女性の視線を更に鋭くさせる事になる。


「やはりか。となるとデニーというのはさしずめ偽名。中にいるのは恐らく――」

「いやいやいや、待てってぇ! わかった、五〇〇万まけとく! だからこれ以上の詮索は――」

「そういう問題ではないッ!」

「ううッ!?」


 そんな彼女はもはやダンゼルさんでさえ留める事はできない。

 そのダンゼルさんも遂には兵に羽交い絞めにされ、動きを止められてしまった。


 そして女性は僕に向けて歩み始めていて。


「小剣章はレティネ、太剣章はツィグ、長剣章はアールデュー=ジ=ヴェリオ……!」

「ッ!?」

「そして胸に刻みしは長剣なりッ!」


 遂には腰に下げた剣を振り翳し、切っ先を僕へと向けたんだ。

 鋭く熱い眼差しと共に。




「すなわち貴様はアールデュー、お前なのだろう!?」


 


 違いますゥ!

 僕は隊長じゃありませぇーーーん!!

 レコ=ミルーイ二等騎兵なんですゥーーー!!!


 けどこう叫びたくても叫べない。

 ただ首を引いて顔を逸らす事しかできない。

 せっかくだから口笛くらい吹いて誤魔化したい所だよ!


「まさかお前がここに直接乗り込んでくるとはな。ヴァルフェルとはいえ、相変わらず大した度胸だよ」


 そんな感じで泣きそうになっていたんだけども。

 するとなぜか女性は剣を収めていて。


 それでなぜ、頬を赤らめるんです?


「お前が捕まったと聞いて、正直不安だった。もう二度と会えないのかと心配でな」


 更には胸元に両手を添えて視線を泳がせている。

 それも体までくねらせて。


 先ほどまでのたくましさが嘘のようになよなよしいんですけど。


「皇帝も亡くなったと聞く。まったく、いったい皇国で何が起きているのだ」


 こう真面目に話してますけど、今なおくねってます。

 光悦な表情を浮かべてて、まるで自分の世界に入ってるみたいです。


 もういっそ「知りません」って応えたいんだけど。

 いいですかダンゼルさん?


 で、訴える様に視線を向けたのだけど。

 そのダンゼルさんは必死に顔を横へと振ってた。

 そうですか、ダメですか。


「答えろアールデュー! 返答次第ではお前を逃がさん!」


 そんな中、女性は女性でいきなり僕に指を差してこう叫んでいるし。

 応えたいけど答えられないこのもどかしさと葛藤がすごい。




 どうしよう僕。

 どうすれば正解だと思う?


 でも残念ながら答えは返って来そうにない。

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