第23話 ヤバい取引相手
「動揺するな、動きでバレるぞ」
突如として山肌の一部が消え、三人ほどの人が現れた。
それに加え、彼等の背後には妙な大穴までもが見えていて。
どうやらあの穴を隠すためのカモフラージュが掛かっていたみたいだ。
それも全ての知覚を遮断する高位魔法レベルの。
これはちょっとどころじゃない訳アリ案件だと思うんですけど!?
そんな僕達の事情なんておかまいなしに、その三人がこちらにやって来る。
内二人は銃を携えていて、警戒心が目に見えるかのようだよ。
「先ほどは失礼した。我々も君達が皇国の工作員でないという確証を得なければならなかったのでな」
「そういう事情があるなら仕方ねぇでさぁ。だが、うちは正真正銘、信用第一のDDデリバリードだから安心しな。噂通りのいい男だろうがよい」
その中心に居たのが、今話している紫髪の女だ。
とはいえ全体的に筋肉が張っていてとてもたくましい。
取り巻きの男二人がむしろ弱々しく感じちゃうくらいさ。
さっきの声の主も彼女だと思う。
「で、後ろのヴァルフェルは?」
「デニー=ローバーという。『凱龍国ラーゼルト』出身の元軍人だ。転魂適正も高いらしい」
「なるほど、商品の一つを自社用にしたか」
「あぁ。なんたって最新鋭機だからな、護衛にゃあ申し分ない性能だ」
でも女性だからと舐められる様な相手じゃない。
警戒心はまだあるみたいだし、目付きも鋭くて怖いし。
僕に顔があるなら一発で本質を見抜かれちゃいそうだよ。
「それで九日前に皇国軍とひと悶着を起こした訳か」
「何の話だ? 俺達ぁ何の支障も無くサクッと商品を頂いて来たんだが。なんなら見てみるかい、自慢の美品をよう?」
「……そうさせてもらおう」
しかも九日前の出来事まで知っている!?
まぁ確かにあれだけ大暴れしたら知ってるのは当然かもしれないけど。
その一件をブラフに仕込む策略性……これは侮れない。
それを嘘で軽く躱すダンゼルさんもすごいけどね!
――よし、僕は今日だけデニー=ローバーだ。
スキンヘッドでサングラス掛けてケツ顎で煙草とか吸ってそうな人だ。
絶対にヘマするんじゃないぞ僕。
そんな決意を胸に、足を二歩下がらせる。
そうして露わとなった輸送機の荷台へ、ダンゼルさん達が足を踏み入れた。
「どうだい? 新品みたいなもんだろう?」
「ふむ、確かに。だが我等は別に傷の一つ二つなど気にしない。ちゃんと動くかどうか、それが問題だ」
「その辺りは心配ねぇ。しっかり五体満足な現品を貰って来たからな、決してジャンクの組み合わせとかじゃねぇぜ」
「そのようだ。一部を除き、各機のパーツシリアルがマッチしているな」
「ほぉ、しっかり見てるじゃあねぇか」
「その一部は恐らく戦闘中に換装したのだろう、FPMジョイントに換装痕がある」
「おっとぉ、その部分は値下げするつもりなんざねぇぜ?」
「今言った通りこの程度の傷など気にせんよ。心配するな」
それでこんな感じの会話をしつつ、商品の確認を始めた。
にしてもこの女性、すごい知識量だ。
騎士の中にだってここまで知ってる人は早々居ないはず。
僕は知能が売りだからもちろん知っているけどね!
遂には女性がヴァルフェルに乗っかり、頭部確認まで始めていた。
機体から機体へ飛び移ったり、身体がごついのにとても身軽だ。
「転魂状態ではない事を確認した。疑って悪かったな。なかなかの良品で私も嬉しく思う」
それでようやく地面に飛び降り、再びダンゼルさんの下へ。
「って事は、お買い上げ確定かい?」
「妙な下心を出さない限りはな。資金は既に用意してある」
「いいねぇ、現ナマは好きだよぉ! 交渉次第じゃあそこの転魂装置もセットで付けてあげてもいいぜ?」
「それなら多少融通を利かす事もやぶさかではない」
証明もできたようで、ようやく二人が輸送機の外へと出てきた。
価格交渉はこれからだけど、雰囲気的に成功の予感しかない。
さすが社長、いい仕事しているなぁ。
「では交渉はアジト内でさせて欲しい。それと安全確保のため輸送機をあの大穴の中へ移動させてくれ。もちろんデニー殿も同伴で構わない」
「いいだろう。よし、デニーは周囲の見張りを頼む」
話もまとまったし、もう何も問題は起きないだろう。
そう悟った僕は潔く頷きで返し、輸送機から離れて周囲を見張る。
その中で輸送機はゆっくりと大穴へ入っていって。
僕はそれを見届けてから輸送機の後に続いた。
すると直後、穴がまた光と共に閉じてしまったんだ。
これは本当にすごいと思う。光魔法の応用なのだろうか。
そもそも、いったいなぜここまでしてこの大穴を隠す必要があるんだろう。
「ここまでさせてしまってすまないと思っている」
「気にしなさんな、いつもの事なんでな。それよりもさっさと交渉に入ろうや」
「慌てるな。ここで交渉はできないのでね」
そんな疑問を抱きつつ、僕達は更に奥へと足を踏み入れたのだけど。
その先に見えたのは驚くべき光景だった。
山の中になんと、町があったんだ。
そう思えるくらいに人々が多く闊歩していて。
老若男女、中には子どもまでがいるという。
家らしい物こそ無いけど、人の営みがここに確かにある。
でも、僕はこんな町があるなんて話をまったく聞いた事が無い。
じゃあここはいったい、何のために存在するのだろうか。
「ようこそ我等、対皇国レジスタンス【
それであの女性がこう高らかと声を上げてようやく気付けたんだ。
この場所が表へと出ていない理由に。
なにせ、まさかのレジスタンス――噂のテロリストの本拠地だったんだってね。
どうやら僕は流されるままとんでもない所に来てしまったらしい。
これもしかして、僕は下手すると大変な目に遭ってしまうヤツなのでは……?
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