第33話 僕の話はきっとあまり面白くない
「さぁてと、じゃあまずはアンタに関わる事でも訊くとしようかねぇ」
「ええ!? 僕の事ですかぁ!?」
アテリアという存在を知った。
そしてその幸運な才能と、それゆえの不幸な境遇も知った。
とてもじゃないが今の彼女達の扱われ方に納得なんてできはしない。
だからこそ守りたいんだ。
それが今の僕の生きる意味でもあるから。
――そう決意を抱かせるような話を、お婆さんから聞かせてもらった。
この人は色々と詳しいみたいで、ものすごくためになったと思う。
なのだけど。
「悪いが逃がすつもりは無いよ。なにせ世俗から離れて久しいし、色々と事情を聴きたいからね……!」
「ひ、ひぃ~!?」
僕の事についてはノーサンキューです!
きっと楽しくもないし、驚く事も無いと思いまぁす!
なのになんで僕に関する話となると目つきが鋭くなるんだろうか。
コンテナちゃんの話の時はすごく優しそうだったのになぁ。
「ヴァルフェルって事はだ、つまり獣魔と戦ってたんだろう? なら今、獣魔との戦いはどの程度まで行っているんだい?」
「え? あ、えっと、二週間近く前に皇国北方の山脈にて最終決戦があったんです。そこで確認された最後のエイゼム級を倒してひと段落が付いた所ですね」
「へぇ、遂にそこまで……」
「僕はその最終決戦に動員されて、運
「ほう?」
でもこう訊かれれば答えないにもいかない訳で。
そこで僕はコンテナちゃんと出会った話を皮切りに、ここまでの経緯を余す事なく語った。
語る僕も辛くて、声を詰まらせてばかりで。
けど、それでもお婆さんは静かに聴いてくれていたから、落ち着いて話す事ができたんだ。
「……そうか、皇帝は逝っちまったのかい」
「僕としても寝耳に水でした。憧れのような存在だったのに、どうして僕本体が殺したのか。その理由も事情もまったくわからなくて」
「ま、そういう又聞きの話は真に受けなくていい。そんなのは大概、何かしらの陰謀が嘘を吐かせているもんさ。大方、先の皇帝が気に食わなかった奴等の仕業だろう」
それで更にはこんなアドバイスまでくれて。
意外にも親身になって聞いてくれているから、なんだか嬉しいや。
まぁ逆を言えば、それだけ頼りないって事なんだけどね。
「にしても、用済みとなったら始末か。まったく、これだからあそこの皇族は油断ならん。こんな事じゃあの小僧も成仏できやしないよ、世知辛いネェ」
「なんかまるで知った感じの言いっぷりですね……」
「あぁいや、今のはこっちの話だ。忘れとくれ」
でもこのお婆さんが皇国の内情にも詳しくて助かった。
僕としてはこの人にまで疑われたらどうしようって内心怖かったからさ。
すると、いつの間にやらストーブ上に置かれていたヤカンが湯気を吐いていた。
どうやらお婆さんのティータイムを挟む事になりそうだ。
それで少しだけ湯煎の時間をと、お婆さんがストーブの下へ行っては戻って来る。
プカプカと浮いた透明ティーポッドと共に。
魔法だ、すごいや!
生活に使う魔法を見るのはとても久しぶりな気がする!
この人、不思議な人だなぁと思っていたけれど、魔法使いだったんだな。
「この茶葉はね、星の反対側にあるジーグンという国の特産品なのさ。芳醇な香りと僅かに渋みがあって、あたしゃそんな味わいが好きでねぇ」
「あ、それ知っています! でものど越しはすっきりで、喉が渇いた時に飲むと美味しく感じるんですよね!」
「よく知ってるじゃあないか」
ただそんな人でも、振ってきた話はごく平凡なもので。
先の話と脈絡が無いから、つい楽しく返してしまった。
本体の頃の記憶をふと思い出したんだ。
鮮明では無いけど、ボヤっとした感覚で。
きっと話題的に思い出深かったからなんだろうな。
「なら、これの品種名は?」
「……え? あ、ええと……いえ、憶えていません」
「ふぅむ。なるほど、やっぱりね」
――なんて油断していたのだけど。
続いたお婆さんの問いに対し、僕はまともに返す事ができないでいた。
ここまで思い出したのに、名前が思い出せない。
それも名前の部分だけが、ぼんやりではなく抜け落ちたみたいに。
そう気付かされた事に戸惑いを隠せなかったんだ。
「それが転魂時におきた記憶障害ってやつだ。転魂装置の記憶制御をいじって、必要以上に記憶をうばい、そうして機体記録との融和性を強引に引き上げるのさ」
「え……」
「お前さんにはその兆候がよく出ているね」
僕達は転魂の説明こそ受けたが、装置自体の事は何も教えてもらっていない。
だから記憶が曖昧なのはアールデュー隊長の入れ知恵のせいだと思っていた。
けど違ったんだ。
この記憶障害は、意図して起こされていたんだって。
「機体記録との融和性を上げれば、より機械的に動ける。けれどね、やりすぎれば理性や情緒、思考力さえ失いかねない」
「ッ!? それってレティネ隊長の――」
「そう、その話を聞いた時に確信したよ。皇国は転魂装置の記憶制御レベルを意図的にいじっているのさ。ヴァルフェルをより機械的に運用するためにね」
襲い掛かって来たレティネ隊長は明らかにおかしかった。
僕がいくら言い訳しても人違いしたままで。
認めないとかそういう話ではなく、一切理解する余地がなかったんだ。
それはあの人がずっと機械的に動いていたから。
僕を「アールデュー」と誤認した上で、不穏因子を破壊する為にと。
そういう意図を与えられて転魂されたからだろう。
「だが危険な行為だ。少しでもメンタルバランスが崩れれば暴走しかねないよ」
「ええっ!?」
「そうならないギリギリの設定値を決めたはずなんだが。それを無視して設定値をいじったようだね。まったく、とんでもない事だよ」
それを考えたらまだ僕のケースはマシな方なのかもしれない。
こうして会話も成り立つし、人らしいと思える部分も残っている。
時々不便に思う事もあるけれど。
少なくとも、コンテナちゃんを守りたいという気持ちは強い。
それはきっと、本体の僕が「家族を守りたい」と思いながら転魂したからだろうね。
いまさらながら、そう思ってくれた自分に感謝したいよ。
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