第58話 身体よりほとばしる魔力
「なにいッ!?」
「「「レ、レコ殿ォ!?」」」
「どうしてレコ殿が凱龍王の口の中にいっ!?」
僕だって理由はわからない。
どうして自ら凱龍王の口に飛び込もうと思ったかなんて。
けど何とかしないといけないと思ったんだ。
もうこれ以上、目の前で友達が死ぬのを見るのは嫌だから。
運命? 宿命?
そんなの知った事かよ!
僕はもうそんな曖昧な言葉で振り回されたくはない!
僕が機械なら、ただ機械的に論理的に最良をこじ開けてやるだけだあッ!!
「正気ですか!? たかが機械人形ごときが私の力に敵うとでも!?」
「敵うか敵わないかじゃない! 目の前で大事な人が意味のわからない理由で死ぬ、それが我慢ならないから無理矢理にでも切り拓くしかないじゃないかあッ!!!」
「なんと愚かな……!」
ゆえに僕は即座に、凱龍王の顎を中から抑えて踏ん張る。
この口を閉ざさせる訳にはいかないんだ。
それを許せば、次はロロッカさんが喰われる事になってしまうから!
無茶なのは承知の上。
だけどもう僕にやれる事はこれしかない。
だってロロッカさんの次はきっとユニリースなのだから。
今はいいかもしれない。
けど希少なアテリアが目の前にいる以上は見逃さないだろう。
そうなれば結局、意味のわからない伝統に組み込まれて人生が終わる。
それも末代に至るまで。
なのにここで引き下がれる訳がない!
ユニリースの未来の為にも、そして僕の存在意義さえも失わない為にも!
「ならばよいでしょう。そのまま砕けてしまいなさい」
「易々とさせるものかよッ!!
徐々に巨大な顎へと力が籠る。
僕を噛み砕かんとせんばかりに容赦なく。
けどそれを僕は全力で抑え支えていた。
かろうじてだけど力が拮抗しているのか。
僕の胸に収められた魔力増幅器が高速回転し、激しい光を放つ。
周囲の声を打ち消すほどの鳴音をかき鳴らして。
それも今までにない高出力をも発揮しながら。
現在出力137%、身体が軽い。とても!
僕の想いに機体が応えてくれているかのようだ。
そんな僕を止める者はもはやいなかった。
もしかしたらレクサルさん達も心の奥底では願っているのかもしれない。
僕が凱龍王を抑え、ロロッカさんを救ってくれる事を。
「そんなものですか? 言う割には大した事はありませんね」
「何ッ!?」
だがその途端、僕の身体がギシリと軋む。
突如として両顎の力がさらに高まったからだ。
「ウウッ!? おおああ……ッ!!?」
「やはり機械人形であろうと常を逸する事はできないのですね。その志は感服いたしますが……力無き心は所詮、無力なのですよ」
それだけじゃない。
支える事ができていないんだ。
徐々に狭まっていく口を抑えられず、遂には膝を突いてしまって。
「出力は上がっているハズなのにッ!! どうしてッ!! うあああッ!!!」
「これがたかが機械と神力の差です。貴方が魔法使いであるならばまだわかりますが、それでもないただの偽魂ならば抗う事などできるはずもありません」
そう、相手は人間が生み出した
星が力を与えた超生物であり、神のごとき超常の存在なのである。
ならその肉体の強度はもはや、現存する物質を遥かに凌駕する。
ゆえに僕の身体へと無数の亀裂が走った。
関節も、骨格も、装甲にさえ。
力の作用した部位すべてが限界を迎えようとしていたのだ。
「レコーーーッ!!」
「レ、レコ殿ォ!!」
こんな自分が情けない。
二人を助けたくて飛び込んだというのに。
僕がもっと強ければ、こんな心配をかける事なんかなかったんだって。
けど僕はまだ敗けないよ。
例え全身が砕けても、僕が死ぬのだとしても。
僕そのものが消えない限り、終わらせるつもりなんて無いんだ!
装甲が爆ぜる。
関節が異音を放つ。
魔力機関が潰れていく。
それでもなお、僕の意志だけは折れやしない。
例えすべての魔力を失おうとも。
二人だけは絶対に助けてみせるのだと、自分自身に誓ったから。
なら心が、
「な、に……?」
「な、バカな!? なぜあの状態でッ!?」
そんな誓いをもとに今、僕は凱龍王の口を再び開かせていた。
それも急激に、確実に、かの者の顎をも軋ませながら。
身体が砕けそうなのは嘘じゃない。
もう全身の機関がすべて異常を放ち、まともに動いちゃいないから。
出力値も『8#&%』と異常値を放っているし。
けど不思議と体がまだ軽いんだ。
もう身体はどこもかしくも砕けているのに、おかしいよね。
「レコの身体から、魔力が溢れてる……!」
「あれはさっき見たものよりもずっと強い……!」
今なら僕にもわかるよ。
体中から魔力が噴き出ているんだって。
黄緑の輝きが粒子状となってとめどなく溢れているんだ。
でも不思議だな、それでも力が減るどころか溢れてくる。
このまま凱龍王の顎を引き裂けるんじゃないかって思えるくらいに。
「そ、その力――そなたは、まさか……ッ!?」
「あ あ あァァァーーーーーーッッッ!!!!!」
その魔力の奔流に負け、アイバイザーが砕け散る。
魔力増幅器さえ割れ、全身の加速器さえひしゃげ潰れた。
関節も赤化融解し、溶けただれていって。
骨格もが割れ、部品が無数に跳ね飛んでいく。
それでも僕は更に力を上げている。
上がっていく、とめどなく、すべてを壊して。
そしていずれ僕の魂も――
でもこの時、僕は宙を跳ねていた。
ユニリース達の頭上を越えて、ずっとずっと後ろへと。
そんな僕の視界には、舌を突き出した凱龍王の顔が見えて。
そのまま空を仰ぎながら、遂には背中から大地へガシャリと落ちる。
「あ、あ、クソ、まだだ、まだ終わっちゃ、いない!」
それでも僕はまだ諦めていなかった。
なお身体を動かそうと意思を震わせたんだ。
なのだが。
「う、動かない、身体が、動かない、なんでッ!?」
意思ははっきりしているのに、身体が言う事を聞かない。
腕や脚が動くどころか、駆動音さえ一つも上がらなくて。
「なんでだッ! なんでだよォ! まだユニリースは、ロロッカさんは助けられていないのにッ! どうしてえええッ!!!」
気付けば、さっきまでの魔力放出もが停まっていた。
まるですべての力が尽き果てたかのように。
それが僕に最悪を示唆させてしまう事となる。
もう僕に戦う力は何一つ残されていないのだと。
もう僕に、ユニリース達を守る事はできないのだと。
「……そうですか、とうとう次代の時が来たのですね」
だけどその最中、当の凱龍王はその身を大きく上げていて。
それどころか倒れた僕へと一心に視線を向け、こんな事を呟いていた。
そんな凱龍王にも、さきほどまでの戦意はもう残されてはいなかったんだ。
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