第八章 海沿いのアルイトルン
第61話 初めての、うーみー!
「ほら見なよ、海だ!」
ラーゼルトを離れた僕達は、そのまま南へと向けて街道を歩き続けていて。
そうしておよそ半日ほど歩いた所で、とうとう海が見える場所へと辿り着いた。
そんな遠くで瞬く景色を前に、僕も心を躍らせている。
なにぶん本体でも海に行った事は無かったからね。
というのも実は皇国やラーゼルトは内地であり高地。
なので領海というものが存在しない。
つまり旅行に行くにもまず海に行く選択肢が出ないのだ。
皇国は他の国ともあまり仲が良くなかったからね。
まぁそもそも僕は皇都から出た事が無かった訳だけど。
で、僕達が今歩いているのは『旧アルイトルン共和国』。
幾つもの自治州を持つ民主国家、だった場所である。
でもおよそ八年ほど前、獣魔によって滅ぼされてしまったんだ。
セブンズフォールズのキッカケとなった獣魔進撃の年代に。
なんでも、当時は凄惨なものだったらしい。
ラーゼルトなどからの援護も間に合わず、ほぼ一方的に蹂躙されたのだと。
皇国も警戒していたせいで出兵を禁じていたみたいだし。
しかしヴァルフェル完成後、獣魔は即座に殲滅された。
二強国共同で徹底的に潰し回ったおかげで。
ただそれでも戦いの傷跡が残り、未だ人の住めない土地となっているんだ。
なのでこの国には今も人がいないとされている。
そういった意味では僕達にとっては好都合な土地だと言えるだろう。
もしかしたらこの国が僕達の旅の終着点になるかもしれないね。
そんな期待を胸にしつつも海岸へと向けて進むこと半刻。
ようやく僕達の前に大きな海原が姿をさらしたのだった。
「着いたよユニリース! 海だーっ!」
もはや僕自身も興奮と衝動を抑えきれない。
だからユニリースを呼ぶ時ももう大興奮で雄叫びを上げてしまった。
そして海が初めてなのはもちろんユニリースだって同じ。
だからか、満を持してとうとうコンテナが開き始める。
その中で姿を現したユニリースはなぜか自信満々の仁王立ち状態。
腕を組み、ゆっくり立ち上がるその姿はもう覇王の領域だーっ!
よっ、女帝参上!
「……くちゃい」
でもまもなく、またゆっくりと箱の中へ帰っていく。
しかも速攻でコンテナを閉め、更にはロックまでかけてしまった。
というかなんだったの、今の登場シーン。
ノリノリだった僕も僕だけれども。
……ま、仕方ないか。
だってここ、話によると『
海も茶色いし、海岸もゴミだらけだし、魚の死骸も虫もすごい多いしね。
なんでも、この海岸付近は海流の関係でやたらゴミなどを集めやすいらしい。
おかげで他国海域からも色々と漂着するし、海獣も打ち上げられるし、とにかく臭くてしょうがないのだとか。
ずっと昔からこうなので、これは決して獣魔のせいではない。
ちなみに獣魔は海にはめっぽう弱いそうだ。
なので遠くの海上国家は難を逃れたなどという話もある。
だから海岸沿いなら安全かなーなんて思ってたんだけど。
まさか匂いがネックになるとは思わなかった。
確かに、それが辛いなら人がいる訳もないよね。
あいにく僕には嗅覚センサーが無いので、これはさすがにわかりません。
という訳で再び移動する事に。
今度は海岸沿いにずっと東へ行こうと思います。
もう少しだけ歩けば海域が変わってまともになるらしいからね。
……にしても、僕の感性は未だ機械寄りなのかな。
こんな海でも、今の僕にとっては綺麗に見えて仕方がないんだけどねぇ。
こうして僕は『地獄のはけ口』を夜通しで歩き続けるハメになった。
ユニリースがもう出たくなさそうだったから、今夜だけはご飯抜きで。
そして夜が明け、水平線から日が昇り始める。
すると太陽の輝きが水面を走り、てらてらとした瞬きを存分に届けてくれた。
「これが海なんだなぁ」って思わず感動しちゃうような光景と共に。
なら再びユニリースを呼んでみる事にしよう。
匂いチェックは彼女じゃないとできないからね。
起きているならどうか出て来て欲しい。
「しかたないなーレコはこれだからー」
そんな心の声もしっかりログで読んでいたんだろうね。
早速、ユニリースが扉を開いて出て来てくれた。
「におい、おっけー! うーみーーー!」
その結果、もう臭くは無いらしい。
つまりもう『地獄のはけ口』から離れていたという訳だ。
よしこれなら一安心――
――ってあれ、でもユニリースなんだか今までと服装が違うんですけど?
けどそれを確かめる間も無く、ユニリースがもう僕の身体上を跳ねていて。
それでもっていつもの運動神経で海岸へ着地して駆けていく。
そんな彼女、今までよりずっと露出がすごいです。
なんかものすごくきわどい服着てませんか!? それになんか黒いし!
「ユニリース、その服は一体どうしたのかな?」
「えへへ、みずぎー! ろろっかにかってもらったの!」
それでもくるりと回ってとても嬉しそう。
そんなにいいモノなのかな?
よし、キーワードを得た事で少しだけ思い出したぞ。
ユニリースが着ているのはそう、ビキニという水着だ。
しかもなかなかどうして……OH、無駄にセクシーですよ!
――てかロロッカさぁん! 子どもになんてものを渡してるんですかァァァ!!?
「ろろっかがね、『しゅくじょたるもの、これくらいはもっておくべきであります』って言ってたの!」
「何その淑女ォォォ!! それ淑女の方向性違ァァァうッ!!」
なんてけしからぁん!
ユニリースが似合うのはワンピースだと相場が決まっているのにいッ!
僕はその衝撃と悔しさのあまりに堪らず膝から崩れ、砂場を拳で何度も叩く。
こんな事ならいっそ、水着選びに付き合うべきだったのだと。
水着店にヴァルフェルが入れるかどうかはこの際置いといて。
……もしかして今の時代なら、ヴァルフェル用の水着もあったりしないだろうか。
もし水着があればユニリースと一緒に楽しく海水浴できたかもしれない。
遂にはこんな妄想まで脳裏をよぎり、砂浜に一人突っ伏す僕。
いや無くてもできるんですけどね。
そうやって一人ボケツッコミをやっていた訳だけれども。
ふと首を上げ、砂浜を覗き込んでみる。
そうしたらユニリースが波に向かって無邪気に走っていく姿がちらりと見えた。
「……楽しそうだから、まぁいっか」
その姿は本当に楽しそうで、嬉しそうで。
波と戯れようとする勇気も好奇心も、ずっと子どもらしく見える。
アテリアだなんて忘れてしまうくらいにさ。
だから僕はそんなユニリースが良ければいいって思う事にしたんだ。
僕が楽しむのは二の次でいいんだってね。
――なおその直後、ユニリースは波にはねられて砂浜に打ち捨てられた。
で、どうやらそれがトラウマとなったらしく。
その後は脱いだ水着を地面に叩き捨て、更には踏みつけて怒りをぶつけるなど。
結局は「うみきらーい!」などと供述し、以後コンテナに引き籠ってしまったという。
うーん、ユニちゃん。
物に当たるなんて、ロクな大人になりませんよー!
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