第60話 龍翔峰での激闘の末に
「どうしてこれで偽魂を維持できているのかまったく不思議でなりませんよ」
「直せそうか?」
「未知数過ぎて答えようもないですが、安定はしているので多分平気かと」
こんな事を僕のすぐ傍で話しているのは、レクサルさんとラーゼルトの技師。
内容が不安だらけなんだけど、ここで話さないといけない事なのだろうか。
――という訳で今、僕はラーゼルトの首都へと移送された所。
もちろんユニリースやロロッカさんも一緒にね。
まさかの凱龍王自らの運搬であっという間に到着だ。
「まさか凱龍王自らがお越しになると思いきや、レコ殿が龍玉を授かったなど……後で見せてくれる?」
「取り出し方、わからないので、諦めてください」
「仕方あるまい……自機のメモリーフィードバックで我慢するとしよう」
実は僕自身もどうして魂を維持できているかわからない。
動力機関は完全に停止しているし、魔力だって供給されていないのに。
空輸の時に右腕が外れて落ちちゃうくらいボロボロだしね。
あの時の凱龍王の「あっ」は忘れようもないくらいに抜けてたなぁ。
その凱龍王の凱旋に首都中が湧いていたものさ。
凱龍王の復活だ、なんて叫び声が上がってたりしてね。
まぁそんな事は無いんだけど、そういう事にしておこうって話になった。
「ひとまず機体を格納庫へ。いいか国賓だからな、下手したら首が飛ぶと思えよ」
「お、おどさないでくださいよ。未知数なんですから保証できませんって」
「私からも、どうかよろしくお願いいたします」
「おお恐れ多い事を! できうる限りの事はいたします!」
ただ僕が龍玉をもらった事は、ロロッカさんが軽く説明してくれたおかげで既に伝わったみたいだ。
まぁ多少なりに誇張は入っていたけども。
「レコ殿、後でぜひとも枢機卿達を瞬殺した話を聞かせてくれ。楽しみにしている」
「ロロッカさん、一体何の話を、したんですかぁ」
「事実を語っただけであります!」
ちなみに例の反逆者達の本体は無事に全員拘束したそうだ。
なにせ外縁警邏にあたっていた四大騎士団による一斉襲撃だったらしいし。
ほとんど無血開城だったってレクサルさんが教えてくれたよ。
その目的はやはり皇国との癒着。
裏取引で皇国との友好関係を結ぶつもりだったらしい。
それも凱龍王を完全無力化した上でね。
けどもうその野望も潰えて、凱龍王の威厳も取り戻しつつある。
あとは皇国との衝突を避けつつ、どれだけ抑止力を維持するかだ。
「にしても、ロロッカさんは、いいの? 父親に、会いに行かなくて」
「まだ良いでありますよ。あの人はきっと大丈夫でありますから。落ち着いたら会いに行くであります」
ただし、この戦いの結果がすべて良い方向に進んだという訳では無い。
それは、あの反逆者の一団の中にロロッカさんの父親も含まれていたから。
どうやら今回の反逆はロロッカさんの父親が一枚噛んでいたらしい。
娘を凱龍王に捧げたくないがゆえの、愛情の末に。
例え力を失っても一時凌ぎの生贄になる事は、父親も知っていたそう。
それで娘を捧げたくなかった彼はその事実を伏せ、あえて軍に送り出したのだという。
しかしそれでも、国の政治を仕切る政庁ではロロッカさんの生贄の話が上がった。
するとその一方で皇国との同盟の話もあったそうで、彼は迷わずこちらに乗る事にしたんだそうだ。
愛情の為とはいえ、ちょっと思い切り過ぎたんだね。
とはいえもうロロッカさんは生贄になる必要が無くなった訳で、きっと今頃その事実も報らされている所だろう。
ロロッカさんからも信頼している良親だし、なら罪滅ぼしにも期待できるよね。
「レコ、魂いれかえる時はユニがやるね」
「うん、その時は頼むよ。魂の操作は、ユニリースに任せた方が、ずっと安心だし」
そしてユニリースは凱龍王の庇護を得て、完全なるラーゼルトの国賓となった。
その事実がある以上、ラーゼルトの人は何があろうと手出しはできない。
例えユニリースがアテリアで次の生贄にふさわしくてもね。
今は「手を出した者は私が喰らいます」と凱龍王自身が目を光らせているし、安心してもいい、よね?
僕はちょっとまだ不安だけど。
こうして皆に見守られつつ、僕はラーゼルト軍の修理を受ける事となったんだ。
完全なる回復は約束されなかったけど、この際仕方ないかな。
そんなこんなで、はや二週間。
それなりに時間と手間はかかったけれど、僕の修理はここで完了した。
まぁ修理と言っても、ほぼほぼ交換なのだけど。
ラーゼルトの技術は遅れていて、皇国の新型機を直すのはさすがに厳しかったみたい。
こんな話を聞くと、あのダンゼルさんがよほどすごかったんだなって今更ながらに思う。
なお、交換元はなんとあのレティネ機の残骸である。
僕がメルーシャルワで剣をブッ刺したあの二機からだ。
というのも、メルーシャルワからあの残骸の供与があったらしい。
それを例の反逆者達が隠し持っていたそうだ。
きっと裏切り完了後に皇国へ返還するつもりだったんだろう。
なので丸ごと押収し、僕の代替ボディに転用したってワケ。
他の足りない部品は龍翔峰で堕とした残骸から見つけて流用したそうな。
あとはラーゼルト技師達の試行錯誤でなんとか完成へ。
ほんの少しだけラーゼルト技術も混ざって、外観も一部変更だ。
ただ、元が元なだけにちょっと不安だけど。
僕もレティネさんみたいに変になったりしないかーなんてね。
……そして更にその翌日。
僕とユニリースはラーゼルト領土の南端にいた。
「今まで本当にお世話になりました」
「ありがとー!」
ラーゼルトですべての事を終えたから、待っているのは旅の続きだ。
安寧を求める目的はまだ変わっていないからね。
「本当に行くでありますか? いっそラーゼルトに住めばいいのに……」
「国賓なのだからもう生贄を気にする必要はないのでは」
そんな僕達を、私服のロロッカさんとレクサルさんが見送りに来てくれた。
静かに旅立ちたいと伝えたら「なら見送りは二人だけで」という事になったんだ。
「そういう訳にもいきませんよ。僕達はやっぱり争いの及ばない所に行きたいですから。それだけはやっぱり抜けません。ユニリースをのびのびと育てたいので」
「そうは言うが……まぁいい、好きにしろ。ただ、一つだけ言わせてくれ」
「なんです?」
「逃げ続けても、そのツケはいつか必ず降りかかる。特に、皇国という呪縛が残り続けている君にはな。それを決して忘れないでおいてくれ」
「ふふっ、ならその度にツケを追い払ってみせますから安心していてください」
確かにラーゼルトに残るのも一つの策だろう。
でもそれは多分、凱龍王が良く思わないと思う。
だってそれこそ、誰かに守られているだけだからね。
そうではなく、僕は僕の手でユニリースを守りたい。
それが彼女の願いであり、旅の目的でもあるから。
ユニリースの真に望む場所――そここそが僕達の旅路の終着点なのだから。
「でしたらレクサルさんもいい加減、逃げるのはよしてください」
「な、何のことを言って――」
「では僕達はこれで! あとはお二人でゆっくり帰ってくださいねー!」
ゆえに僕達は走り続けるんだ。
何にも囚われず、自分達の望むがままに。
そんな自由な僕達には、二人の声援くらいで充分なのさ。
そう心を弾ませながら僕達は道を行く。
バックモニターでロロッカさんとレクサルさんの姿を眺めつつ。
その二人が手を繋いでいる所もしっかりと映した上でね。
おかげで今日も心が軽い。
今なら美味しい料理がノリノリで作れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます