第99話 ユガンティア皇国攻略戦開始
※※※ここからはしばらく三人称視点でお楽しみください※※※
「レコの奴はどうした?」
「機体の最終調整で少し出遅れるらしい。だが作戦には間に合わせるとの事だから許可しておいた」
「まったく、アイツラはどこまで行ってもフリーダムだな。まぁいい、俺達だけで攻め入るぞ」
皇国侵攻作戦が遂に開始された。
それで現在、正午過ぎ。
アールデュー部隊は本体を含めて皇国領付近で発進待機中。
大型輸送機三機分と戦力は少ないが、攻め入るには充分と試算している。
よってレコもまだ合流できていないが、それでもアールデューに不安は無い。
「もう俺達だけで皇国を堕とす気で行く。いない奴に期待しちまえば後が怖い」
「随分とやる気満々だな」
「当然だ。この日をどれだけ待ち焦がれた事か。まるで恋人に逢いにいく気分だよ」
「フフッ、違いない」
いや、もはやデュラレンツの面々は誰しも不安など見せていない。
今日のような日が来るのを常々願っていた者達だからこそ。
デュラレンツの面々のほとんどが元皇国民だ。
それも虐げられたり、理不尽に国を追い出された者達ばかり。
しかしそれでも彼等は懐かしき祖国に何度も想いを馳せていた。
もしこの作戦が成功すれば皇国は大きく変わるだろう。
誰も無駄に虐げる事を許さない、本来あるべき国の形へと。
その日が来るのを願って戦い続けてきたから、もはや後悔さえ無いに違いない。
絶対にやり遂げる。
そう心に誓い、皆はここに立っているのだから。
「そろそろ時間だ。今ごろ各国の協力部隊が防衛網に攻撃を仕掛けているはず」
「なら本体組もそろそろ陽動に移るぞ。分身ども、盛大に見送ってやるから絶対にしくじるんじゃあねぇぞ!?」
「「「任せておけぇ、俺!」」」
その意志と誓いはすでにヴァルフェル達にも受け継がれた。
輸送機格納庫に詰められた機体達が一斉に奮い上げ、アールデュー達に応えたのだ。
もはや士気は上々。
今すぐにでも暴れたいとわかってしまうほどに。
だからこそさっそく輸送機がゆっくりと空へ浮き、彼等を運び始める。
彼等の本体を含むデュラレンツ歩兵部隊が見上げる中で。
彼等が目指すは皇都、皇国城。
現皇帝ツィグが座し、多くの皇族が住む地である。
そこを制圧し、彼等の支配から皇国を解き放つのが今回の作戦目的だ。
その目的地へと進路を向け、遂に輸送機が発進するのだった。
一方、皇国領土各地ではすでに大規模な戦闘が行われていた。
デュラレンツの意志に同調し、皇国の陰謀を止めようとする者達によって。
西では『魔賢連合ツァイチェル共和国』が自慢の魔導兵部隊を展開。
魔術兵装を主体とした新型ヴァルフェル部隊で国境部隊と交戦中だ。
皇国も対策として耐魔術防壁を用意していたのだが、『破魔離繰砲』と呼ばれる新型兵器の導入により破壊に成功する。
これによってツァイチェルの部隊は一挙に皇国へと流れ込む事となった。
片や南では、メルーシャルワとの国境付近で戦闘が勃発。
ラーゼルト軍のレクサルが率いる聖鱗騎士団が反撃ののろしを上げ、防壁を飛び越えて攻撃を開始したのである。
それだけには留まらず、別の騎士団も他所より侵攻を開始。
国境部隊を翻弄しつつ、デュラレンツ強襲部隊の輸送機を見送ってくれた。
それだけには留まらず、東の地方でも思わぬ戦火が上がる事となる。
ギーングルツの有志部隊がレコへの義理を果たす為にと乗り込み始めたのだ。
彼等のヴァルフェルは水陸両用とはいえ地上戦にも長けており、加えて深海の水圧にも耐えられる重装甲と豊富な水精霊の加護がある。
おかげでファイアバレットを封じられた防衛部隊が撤退を余儀なくされる事態となった。
他にも多くの義勇兵が立ち上がる事に。
国内外で活動していた多くの反乱分子が一斉に蜂起し、抵抗を始めたのである。
とある町や村あるいは支配地域でも、一斉攻撃に慌てていた皇国兵を捕まえて自らの手で制圧し返したりなどで。
誰しもが皆、不満だらけだったのだろう。
獣魔の脅威が去り、平和になるはずだったのに何も変わらなかったから。
それどころか皇帝が替わったと同時に、一挙にして更なる圧政を始めたからこそ。
おかげで獣魔大戦終結からたった三ヶ月しか経っていないのに、彼等皇国民の国民感情は怒りに満ち溢れてしまったのだ。
こうして始まった暴動はもはや留まる事を知らない。
怒りが、不満が、皇国を押し潰すまでは。
あるいは国家権力がその意志を叩き潰すまでは。
どちらかが黙らされるまでは、この戦いは終わらないだろう。
――そう激動する世界の片隅、とある山の上。
そこで一機のヴァルフェルと一人の少女が語り合う。
遥か彼方の皇都を眺めつつ、機械の身体に巡るシステムを最終調整しながら。
『レコ、準備おわったよ』
「うん、わかった。それじゃあそろそろ行くとしようか」
『おそくなってごめんね』
「ううん、きっと皆わかってくれているから平気さ。なら、僕達はそれなりの成果を上げないとね。アールデューさんをなんとしてでもツィグ皇帝の所へ連れて行かなきゃならないから」
しかしそれもやっと終わり、遂にレコが立ち上がる。
それで一歩二歩と踏み出し、再び見下ろすのだ。
かつての故郷であり、悲劇にも見舞われたかの因縁の地を。
「ティアナ、父さん母さん、今から君達の魂を迎えに行くよ。だからもう少し待っていてください」
そんな彼の身がそっと浮かび上がり、青く澄んだ大空へと舞い上がる。
今の彼を邪魔するものは何も無い。
この空も、世論も、今となっては彼の味方なのだから。
「じゃあいくよ、ユニリース! ――オルトリック・スフィアーター、射出ッ!」
ゆえに今、レコはその意志のごとく真っ直ぐと空を突き抜けた。
自分の使命を果たす為に、かつての家族の無念を拾う為に。
そしていつの日か、新しい家族と共に自由の一歩を踏み出す為にと。
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