第119話 激戦を越えて
「朝日が眩しいね、ユニリース」
「うん、きれい……」
激戦を乗り越え、朝が来た。
あらゆる魔を退けたと教えてくれる穏やかな朝が。
皆、その時間まで喜び讃え合ったものだ。
誰しも脅威的な存在が滅ぶ所を目の当たりにしたのだから。
ついでに星全土からも消えたと聞けば、喜ばずにはいられなかったのだろう。
だけどこうして朝を迎えた時、現実が彼等の心を少しえぐってしまった。
戦いの傷跡は深く、皇都はもはや半壊状態だったのだ。
知っての通り、皇国城は完全に消滅。
周囲の施設も大暴れした結果、もはや残骸ひしめく廃墟と化している。
一方の市民街も悲惨だ。
皇都民はほぼ無事だったけれど、建造物の半分が完全倒壊。
残りも余波を受けたせいで無事な建物が珍しいというくらいだったから。
この調子だとおそらく、復興はだいぶ先になると思う。
いっそ新しい街を造ってしまった方がいいんじゃないかってくらいにね。
皇国城跡地には大穴も開いてしまっているから、地下施設もダメになっているだろうし。
だからツィグさんも兵士達も、皆落胆は隠せないようだった。
例え皇族の呪いから解き放たれても、やり直す場所を失ってしまったも同然だから。
ただ、それ以上に大きな損失がもう一つ。
「我等が凱龍王よ。よくぞ今日まで戦ってくださいました。我々にはもう感謝の言葉もありませぬ……!」
『貴方達が、無事であれば、それで良いのです。それが、私の、唯一の救いです……』
凱龍王さんの命が尽きようとしていたのだ。
獣魔との戦いでその力を最後まで振り絞った事によって。
それで今、ラーゼルトから馳せた高官が訪れ、彼女をねぎらってくれている。
今回の戦いだけでなく、今までラーゼルトを守ってくれた事への謝礼として。
そんな場には、僕達だけでなく皇国の人々も集まってくれていた。
あのツィグさんも礼儀正しく胸に拳を当て、感情を抑えながら聞き入っている。
皇国民を守ってくれた凱龍王に失礼の無いようにと。
『しかし、いずれこの時が来るのは、わかっていました。ただ、その時が早まっただけの事です』
「凱龍王……」
『我が魂は転生する事は、無いでしょう。しかし還った力は、再び大きく跳ね上がり、新たな神を産みます。そしていつか人々の前に、姿を現すでしょう』
「では我々はその者を再び讃えましょう。ディアラムンドという存在が我々に恩恵を与えてくれた礼を尽くす為にも」
もちろんレクサルさんも、ロロッカさんも感極まりそうになっているようだ。
あれだけ慕っていた相手だから無理もない。
アールデューさん達だって身を震わせているくらいだしね。
『レコ、ミルーイ』
「なんですか、凱龍王さん」
『どうか私の言った事を、忘れないでください。貴方の心に託した、私の盟約を、諦めない、強い心を、どうか、いつまでも……』
「ええ、もちろんです。僕は絶対に忘れませんから」
『あり、がとう…………』
そして最後に僕へとこう伝え、凱龍王ディアラムンドは息を引き取った。
惜しむらくは、ユニリースが疲れ果てて眠ってしまった事か。
本当なら彼女にも看取ってもらいたかったのだけど、こればかりは仕方ない。
だから僕だけで彼等の悲しむ様子を見届ける事にしたのだ。
ラーゼルトと皇国――どちらの者からも惜しまれてこの世を去る現神の最期を。
この場にいるすべての者が、思い思いに敬礼を示す。
そんな姿を見せられるからこそ、僕はもう心配なんてしていなかったよ。
本来なら敵同士だった彼等がこの先で良い関係を結べる事を。
それからは聞いた話だけど、皇国と各国で和解を取り決めたらしい。
今回の襲撃事件が「獣魔撃滅の為に動いたやむを得ない作戦だった」として。
凱龍王を看取った後、すぐにそう取り交わしたそうだ。
それで各国の軍はすぐに撤退せず、生存者の確認と救助を手伝ったそう。
ひとまずは三日間だけの人的援助と、食料の配給などもしてくれたらしい。
おかげで反感も生まれず、市民達も落ち着いてきているという事だ。
で、僕達デュラレンツはと言えば、即時撤退する事となった。
一応は反乱軍なので、皇国軍と一緒にいるとまずいから。
彼等に対しては市民も無条件で嫌っている人が多いから、今はちょっとね。
だからあの戦いから三日経った今、僕らは再びアジトで療養中だ。
他所の戦いも激しかったからヴァルフェルの修理どころじゃないけどね。
おかげで僕もあの激戦当時の痛々しい姿のままでいる。
なにせ人員も物資も絶対的に足りていない。
僕を修理する機材さえ今は不足していてそれどころじゃないのだそうだ。
まぁ今のままでも動けるからさほど問題は無いのだけれど。
「すまんなレコ、お前くらいは直してやりたいところなんだが」
「平気ですよ、僕は後回しでもいいくらいですから」
残念ながら僕はアテリア並みの知識を得ても、修理の知識までは無い。
だから自分でも修理できるようになった、なんて都合のいい展開は無かった。
その代わりティル達がなんだかすごいやる気を見せてくれているから、それだけは嬉しい誤算かな。
「姉御、無茶ですよそれ! 素材が足りないんですって!」
「やるの! ティルはいった通りのものもってきて!」
「よ、よぉしお前等! なんとかして姉御が必要な素材をかき集めるんだ!」
「「「すべてはユニリース様のために!」」」
……大人に迷惑をかけない程度に頑張ってくれればそれで、ね。
なんだかユニリースも何かを作ろうと奮闘しているみたいだし。
とはいえ、そんな難しい物じゃないみたいだからきっと平気だろう。
――とまぁこんな感じで、いつもの生活が戻りつつある。
あの戦いで世界的にも本当の平和を取り戻せたから、むしろ前より緩んだかもしれない。
皇国も正常化しそうだからというのもあるのだろうね。
でもそれでいいんだ。デュラレンツは本来の役目を果たしたから。
これであのディクオスさんが願った未来を取り戻せるのなら、こんな組織があり続ける理由なんてもう無いんだし。
という訳で人が減って人員不足にもなっているそう。
なんでも、目的を果たした事で組織から自主的に離れた人も多いらしい。
そうアールデューさんとシャーリヤさんが笑いながら教えてくれたよ。
彼等も喜んでそれを受け入れているのだと思う。
となれば僕達がまた前の生活を取り戻すのも時間の問題かな。
だから僕はそう期待し、時を待つ事にしたんだ。
この身体が直って、また皆と旅をするその時を。
ユニリースが平穏に暮らせる安寧の地へと辿り着くためにも。
だけど僕はまだこの時、気付いてはいなかったのだ。
僕の存在自体がこの世界にとって、どれだけ足枷となってしまうのかという事に。
ゆえに、その二日後の事。
突如として事件は巻き起こる。
デュラレンツのアジトへと奇襲攻撃を行われた事がキッカケとなって。
ただ僕は薄々感づいていたのかもしれない。
こうなってしまう事、こうならざるを得ないという事に。
世界が僕を認知してしまう、という危険性を排するかもしれないのだと。
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