第63話 強襲、子ども達!
「どうしようか、あの子達の後を追ってみる?」
「レコにまかせるー」
昼食も今さっき済ませたし、日が沈むまでにはまだそれなりに時間がある。
それにユニリースも砂浜にはもう用が無いみたいなので先へ進む事になったのだけど。
やっぱりさっき出会った子ども達の事が気がかりでならない。
彼等が一体どこから来て、どうやって暮らしているのかってね。
無人だと思われていた地域だからこそなおさらに。
でもユニリースはそれにももう興味が無いみたい。
あいかわらずマイペースだよね、君。
「なら砂浜沿いを、彼等が逃げていった方に歩いて行ってみようか。丁度僕達の進行方向だったし」
「うん!」
それでもこう返事をもらえたから、僕達はまた海岸沿いを東へと進んだ。
ユニリースが興味無くても僕は少し気になるから、それとなく子ども達の住処を探しながらに。
この砂浜はいわゆる入り江となっていて、その範囲は景色の先まで続いているほどに大きい。
その一方で海から少し離れれば雑木林があるし、ついでに言えばその林に隠れてしまって砂浜の先さえも見通せない。
つまりその先に消えてしまった子ども達の行先はわからないって事。
人感センサーからも外れてしまったので、彼等の住処はだいぶ先なのかもしれないな。
そう思って歩いていたのだけど。
「あれ、これって……道、だよね?」
朽ちた施設から歩いて一○分くらいの場所でさっそくと痕跡を見つけた。
というより、明らかな人の気配のする道が雑木林の中へと続いていたのだ。
その入り口部分に幾多もの魔力水晶を紐で吊ってぶら下げていたのだから、見ただけで充分にわかるくらいさ。
「レコ、じんかんセンサー効かない?」
「うん。反応は無いけど」
「じゃあこれ、センサージャマー。この水晶がじゃまして人のはんのう消してるの」
「ええっ!?」
しかもおまけにユニリースがとんでもない事を教えてくれた。
どうやら魔力水晶は人の存在を隠す能力を秘めているらしいって。
それはおそらく、センサーがレーダー式――魔力波を照射し、対象に当たって跳ね返ってきたものを検知するシステムだから。
その魔力を水晶が吸収あるいは拡散してしまって僕の下に帰ってこなくて、反応が無いって思ってしまったんだ。
すなわち、逃げた子ども達は近くにいないようで、実はいるかもしれない。
それどころか、これだけの事をできる知識があるのだから「集落」さえも存在する可能性もあるだろう。
獣魔の脅威からも逃げ切った生き残りがいるかもしれないって事なんだ。
となると大いに興味がある。
どうやって生き延びたのか、どうやって暮らしているのか、と。
「レコ、ふかいりよくない」
「うん、わかっているよ。本来なら僕達は受け入れられざる存在だからね。だけどもしアルイトルンの生き残りがいるというなら確認だけでもしておきたいんだ。もし困窮しているならラーゼルトに助けを要請する事もできるだろうからさ」
子ども達は僕の事をヴァルフェルではなく「機械人形」と呼んでいたから、きっと詳しくは知らないのだろう。
それは彼等がおそらく、世間から隔離して生きているから。
どうして逃げたかまではわからないけどね。
だったら獣魔がほぼいなくなった事も知らないはず。
それなら場合によっては今の状況を報せてあげる事だってできるかもしれない。
そんな些細な「欲」が僕の中に産まれつつあったんだ。
「だからちょっと確かめるだけでも、ね?」
「これだからもーレコはしかたないなー」
おかげでユニリースにもこんな小言を言われてしまったけども。
とはいえ彼女もこう返してコンテナに籠ったから、きっと許してくれたのだろう。
そう信じ、僕は林の中へと一歩を踏み出す。
魔力水晶飾りを壊さないよう入口を慎重に踏み越えて。
林自体はヴァルフェルもゆうに通れるくらい拓けているから、進む分には問題無さそうだ。
こうして林へ足を踏み入れた訳だけど、あいかわらず人の反応は無い。
きっと中の方も同様に魔力水晶の防護壁を張っているのだろうね。
さっき見かけた子ども達はそんな壁を作る為に魔力水晶を集めていたのかもしれないな。
自分達の住処を守る為に働くなんて、なんて健気なんだろうか!
……なんて、そう自己完結で得た感動に打ち震えていたのだけど。
その途端に頭上から「ガササッ」と音がして、咄嗟に顔を上げてみたら――
「うわっ、なんだあっ!?」
突如、僕の視界が何かに覆われて塞がってしまった。
網上の何かが頭上から降って来たのだ。
……とはいえ被さっただけでまったく意味を成していないけれど。
引っ張ったら落ちてしまいそうなくらい小さい網だったようだ。
「よし、機械人形を捕まえたぞ!」
「壊しちゃえー!」
するとその途端、木の上や裏から三人ほどの子どもが姿を現す。
しかもなんか木の棒とか持っててやたらと猛々しいんだけど?
この三人は特徴からして、さっき見かけた子達だと思う。
きっと僕が追ってくると思って罠を仕掛けて待ち構えていたのだろう。
それでもって今は思いっきり僕の足を殴りつけてきたり、木の枝から飛び降りながら肩を叩いてきたりでやりたい放題。
当然痛みはないけど、なんだかすっごく心が痛いです。
まぁもちろん木の棒で叩かれたくらいじゃヴァルフェルはちっとも傷付きやしない。
その装甲を突き破れる獣魔がすごいってだけで、ミスラリウム合金製の装甲板はほんと丈夫だからね。
けど子ども達の機嫌のためにもと、効いたフリをして屈みこんでみる。
「もうやめよう君達? 強いのはわかったから」
「まだ生きてるぞコイツ!」
「やっちゃえー!」
とはいえやっぱり子どもだから歯止めが効かなさそうだ。
怯えているならなだめる事もできるけど、こうも勇猛果敢だとね……。
うーん、どうしようか。
――なんて悩んでいた時だった。
何の前触れもなく、コンテナの扉が開いていく。
それも被さっていた小網を情け容赦なく押し出し、落としながら。
そうして現れたのは、頬をぷくぅっと膨らませたユニリース。
どうやら相当にお怒り心頭らしい。
やりたい放題の子ども達に対しても、何も出来ない僕に対しても。
「なんだ、誰か出てきた!?」
「えっこども!?」
それで何をするかと思えば、ゴミを両手いっぱいに取って投げ付け応戦し始めた。
それだけの量のゴミを溜め込んでいたのも驚きだけど、その投擲能力もなかなかに高くてびっくり。
子ども達の頭上目掛けて飛び交い、嫌がって走り回っても無駄だと言わんばかりの追尾性能で情け容赦なくブチ当たる。
食べかけのパンとか、どんぐりとか、使い捨てのおかず受け皿とかの攻撃力が無い物も含めて。
そして極めつけには丸められた黒いモノを全力投球、年長らしい少年の口の中へスポッとホールインワン。
少年が途端に「モガー!?」と叫びつつ地面に悶え転がってしまった。
おそるべしユニリース。
もしかしてアテリアって肉体的にも相当強いんじゃない?
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