第64話 星人様に敬意を込めて
「こうさーん! もうやめてー!」
ユニリース怒りの投擲が、襲撃してきた子ども達を遂に返り討ちへ。
一味の少女が両手を振ってこう告げた事で、子ども同士の戦争は早々に終止符を打った。
で、最後に一粒のどんぐりが僕の頭にも飛んできてコツン。とても解せない。
そんな中で年長らしい少年が口から異物を取り出しながら立ち上がる。
「うえっぺっぺっ、なんだこれ砂だらけじゃないか……」
苦悶を浮かべているあたり、相当嫌だったみたいだ。
口に入ってしまった砂をしきりに吐き出し、さらには唇を腕でぬぐったり。
それでいざ取り出した異物をひろげていたのだけど。
「うげっ!? こっ、これパンツゥゥゥーーー!?」
少年の口にホールインワンしたのはなんと、あのユニリースの
ロロッカさんに買ってもらいながらも、海が嫌いになったというだけで怒りの矛先となったあれだ。
どうやらユニリース、もうあの水着には一切執着が無いらしい。
なので少年が顔を真っ赤にして震える今、腕を組んで「ふんすっ!」となんだか自慢げである。
年頃らしい少年にとってはこれ以上無い破壊力を誇っていた訳だけど、気付いているのかな?
「いきなり来てしまってごめんね。でも僕らは君達を襲うつもりなんて無いよ」
「そうだったんだ。私達をつかまえにきたのかと勘違いしちゃった」
幸い、降参を告げた女の子は思うよりずっと利口みたいだ。
見た目的に年齢は一〇歳くらいだろうけど、しっかりしているなぁ。
短めの赤髪ツインテールがお似合いでとっても可愛らしい。
それで、今パンツを広げながら打ち震えている子は大体一五歳くらいかな?
ツンツンした黒髪がもうヤンチャさを表してるかのようだよ。
三人目のおとなしそうな男の子は女の子と同じくらいだと思う。兄妹なのだろうか。
カリアゲ気味の短い黄髪で子どもらしいけど、ちょっと臆病気味かな。
「私達ね、首長様にいわれたの。『機械人形が来たら危ないからこっちに逃げるんだよ』って」
「でもティルが『機械人形なんてオイラ達が壊してやろう』なんていうから」
「し、仕方ねーだろ。これもオイラ達の国を守る為なんだから!」
「ははは。でも大丈夫、僕は何もする気は無いから安心して。それに僕はこの程度じゃ壊れたりはしないから気にしなくても平気さ」
「いい人でよかったー」
「でももし他の機械人形に出会ったらちゃんと逃げる事をおすすめするよ」
どうやら三人は集落らしい所から来たらしい。
やっぱり僕の予想通りだった。
きっと獣魔の脅威から逃れて今までひっそりと暮らしていたに違いない。
とはいえ、どうしてヴァルフェルまで忌避しているかは知らないけれど。
もしかしたら首長という人が何か知っているのかもしれないな。
「それにしてもびっくり。背中に乗っている子って〝
「えっ?」
「私達、首長様にこうもいわれてるんだ。〝もし星人様とあったらていちょーにかんげいしなさい〟って」
しかもまさかこんな事まで言い出すとは思わなかった。
彼等はユニリースの事を特別的な存在としてしっかり認識していたんだ。
それもきちんとした人、あるいはそれ以上の存在として。
「星人ってやっぱり、アテリアの事かな?」
「わかんないけど多分そう」
その点で見れば、「様」呼びだから一般世間よりはずっと扱いがいい。
皇国に至ってはアテリアを買い集めるくらいに扱いが露骨だし。
そういった意味ではユニリースにとっても安全な場所なのかもしれないな。
「ならいわれたとおり、ぼくらの国に案内しなきゃね」
「……そうだな。なぁ機械人形さん、アンタ星人様の従者なんだろ? だったら一緒についてきてもいいよ」
「じゅ、従者……」
まぁほんの少し勘違いもしているみたいだけど、この際だから仕方がない。
バックカメラを覗けばユニリースも「ニチャァ」って不気味に笑っているし、調子に乗っているみたいだからもう歯止めも効かなさそう。
なので今は彼女の顔を立てて大人しく従う事にしよう。
という訳で、僕達は子ども達に連れられて林の奥へと進む事になった。
……なんでも、この林の奥には彼等の〝国〟があるらしい。
それで首長という人に守られて今日まで何事もなく暮らせているんだとか。
すごい人なんだろうなぁ、その首長って人。
きっと伝説の仙人みたいに髭がとても長くて魔法とか使えたりするに違いない。
紹介してくれるらしいからとても楽しみでしょうがないよ。
ちなみに年上の男の子がティルで、女の子がチェッタ、一番下の男の子がメオっていう名前。
名字は無いみたい、というか必要無いんだそうな。
聞いてばかりなのもあれなので僕達からも自己紹介だ。
そうしたら案の定、ユニリースに対する反応がやたらと敬意的だった。解せない。
まぁチェッタちゃんだけは笑顔で僕の事を呼んで返してくれたけどね。
この子はユニリースとは違う、穏やかな優しみに溢れていてとてもイイ。
あ、こらぁユニリース、コンテナを蹴ってはいけませんよー!
――という感じで和気あいあいとしながら歩いていたのだけど。
とうとう林を抜け、彼等の国の姿が露わとなる時がやってくる。
そしてその様相を前にして、僕達はただただ驚くばかりだった。
集落に住んでいたのはなんと子どもだけ。
その歳こそ大小様々だけど、その中には大人の姿が一切無かったのだ。
「みんなーっ! 星人様を連れてきたぞーっ!」
ティルがこう声を張り上げ、皆の注目を集める。
するとたちまち子ども達がこぞって集まり、僕達を囲い込んでしまった。
その眼をキラキラと輝かせ、キャッキャとおおはしゃぎしながら。
「星人様ー!?」「すごい!」「わーわー!」
「ティ、ティル君、これって一体!?」
「ようこそユニリース様! ここがオイラ達の――〝子どもの国〟さ!」
「子どもの、国……!?」
そんな驚きな国の在り方に、僕達は揃って唖然とするばかりだった。
だって、まさか子ども達だけで国を作っているなんて予想もしえなかったもの。
もしかして僕達、夢でも見ているのではなかろうか?
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