第81話 危機に差し伸べられた手

「レコさんっ、また変なのが出てきたよ!」

「クッ、次から次へと……!」


 皇国軍の強襲を一旦退けた所まではよかったのだけど。

 途端の新たな存在の登場を僕達は許してしまった。


 それは民間機に乗って現れた一機のヴァルフェル。

 精霊機銃を携えたその姿は夜闇と相まってとても怪しい。


 ――けど何か妙だ。

 確かに見た事のない形状でダークグレーにも染められているけれど。

 一方で僕のシステムが皇国製旧式機との整合性五八%を叩き出している。

 という事はカスタムタイプの特殊機という事なのだろうか。


 だがそんな事は関係無い。

 武器を携えている以上、僕はその脅威をただ払うだけなのだから。


 ゆえに今、僕は有無を言わさず風の腕で遠くから薙ぎっていた。

 相手の精霊機銃を右腕ごと一瞬で千切り取ってやったのである。


「ううッ!? うわあああっ!!」

「どうだッ! むやみに僕達の前へ現れるからこうなるッ!」

 

 もったいぶって現れても所詮はヴァルフェルだ。

 今の僕を単騎で止められる奴なんて居やしないだろうさ!


 ――なんて、そう誇っていたのだけど。


「ま、待て! 私は君の敵ではないっ!」

「えっ?」


 相手がすかさず左手をかざして制止を促してきた。

 どうやら僕はまた早とちりしてしまったようだ。


 ただ、「敵ではない」って事は「味方でもない」って事のはず。

 ならコイツの目的は一体……?


「ここは今、皇国軍に包囲されている! 奴等が攻めて来るのはもう時間の問題だ! だがこの輸送機ならまだ脱出も間に合う!」

「なっ!? 貴方は一体何が望みなんだ!」

「問答している余裕はないぞ! 計算だとあと二分以内に離陸しなければ奴等に包囲されてしまう! だから今すぐ決断しろ!」

「!!!」


 しかし今の言葉で僕は気付いてしまったのだ。

 この相手が僕の味方ではなくとも、皇国の敵である事に間違いはないのだと。


「――みんな、急いであの輸送機へ走るんだ!」

「「「う、うん!」」」


 だから僕はすぐに皆へこう促し、さらにはユニリースを抱え上げた。

 皆の後を追うようにして輸送機へと歩み出しながら。


 そこで相手も格納庫の奥へ戻り、子ども達を受け入れる。

 そうして僕をも納めた所で、扉が閉まるのを待つ事も無く機体が離陸し始めた。


「皆、しっかり掴まっていろ!」


 おかげで早々に場を離れ、海の方へと離脱する事ができた。

 それで締まる扉の隙間からチラリと見えた海岸を前に、僕はホッと安堵する事もができたんだ。


 確認しただけでも百機大隊級の軍勢――それが迫っていたようだったから。


「危ない所だった。あと三〇秒遅れていたら捕捉されていたかもしれない」

「助けていただいてありがとうございます。でもどうして僕達の事を?」


 ただ、疑問は未だ解決していない。

 だから思わずこう質問で返してしまった。


 この人がどうして僕を助けようとしてくれたのかまったく理解できなくて。

 しかもあんな軍勢の中を危険を冒してまで駆け付けるなんてさ。


「フッ、それは君が『デニー=ローバー』ではなく『レコ=ミルーイ』だからだよ」

「……やはり僕の事に気が付いていたのか。だとすれば貴女はやはり反皇国組織『デュラレンツ』のあのリーダーさん、ですよね?」

「ご名答だ。まぁ事実に気付いたのはあれからしばらくした後だったが。その時は情けない姿を晒した自分が恥ずかしくて堪らなかったよ。こうして忘れる事もできないほどにね」


 そう、この人はダンゼルさんとの商談交渉で相手した反乱軍のリーダー的女性。

 ユニリースが機転を利かせて僕をアールデュー隊長だと信じ込ませたあの人だったんだ。


 ……だとすれば、実にまずいのではなかろうか。

 この人が好きなアールデュー隊長の真似までしてしまった訳だし。

 それに今は海の上だろうから逃げようにも逃げられないんですけど?


「あ、あの件はですね、その、なんていうか……」

「いや、気にしないでいい。油断するなという戒めにもなったし、おかげで君の存在を正しく認識する事ができたのだから」

「僕を正しく認識……?」

「そう。あの皇国が執拗に狙うほどの君の存在感にね。……さて、そろそろ輸送機が安定したようだから腰を落ち着けて話すとしようか」


 でも彼女はどうやら前向きなようで、僕の事をもう何とも思っていないらしい。

 側頭部をカリカリと掻いて恥ずかしそうにしても、責めるような事は言わなかった。

 ただそれとは別に、余計な誤解をしているようにも思えるけどね。


 そこで僕達は彼女に従うままようやく腰を下ろす事に。

 ユニリースもティル達もこう言われてやっと緊張を解く事ができたようだ。


 ――あれ? ユニリースがいつの間にか頭をフードとマスクで覆っているぞ。

 相変わらずなんという機転と早業なのだろうか。


「私の名はシャーリヤ。デュラレンツの現リーダーを任されている者の転魂体だ」

「では改めて、僕はレコ=ミルーイです。よろしくお願いします」

「あぁ。しかし驚いたよ。あのレティネ機三体を倒した猛者がこうして子ども四人も連れて旅をしているだなんてね」


 そのおかげか、反乱軍の女性――シャーリヤと名乗ったこの人はまだユニリースの正体に気付いていないらしい。

 あくまでティル達の一人として見ているようで、特に気にする様子もない。


 それどころか彼女は今、僕に対して随分とご執心だ。

 やはり今までの人達同様、謎の多い僕の正体に興味津々なのだろうね。


「どうしてレティネ機を倒した事を知っているんですか?」

「それは当然さ。あの戦いの直後にメルーシャルワ政府から知らされたからね」

「えっ!?」

「実はね、私達デュラレンツは裏でメルーシャルワと繋がっているのさ。だから皇国に関する情報は常にメルーシャルワ側からも入って来るんだ。奴等が侵攻してきた時に対する備えの為にとね」

「そんな、武力を持たないと公言しているメルーシャルワが反乱軍と懇意だったなんて……」

「仕方ないさ、今は結局武力がモノを言う時代だ。作物を盾にしているメルーシャルワだって、油断をすれば皇国にあっという間に乗っ取られかねない。既に支配された沿岸の小国達のようにね」

「あ……」

「ラーゼルトも戦争を避けるために国を挙げて大々的に動く事ができない。だから私達のような非正規軍隊が動く方がずっと効率がいいって訳さ」

「つまりデュラレンツはただ皇国に反抗しているのではなく、今の国家情勢を維持するためのバランサー的役割を果たしているって事なのか」

「その通りだ」


 それで少し話題を振ってみたら、逆に僕の方が感心してしまった。

 事実はともあれ、彼等反乱軍がただ暴れているだけではないと知ったから。


 おかげで僕がいかに無知であったかを思い知らされたよ。

 今までは皇国を怨んで暴れるだけの怖い団体だと思い込んでいたからね。

 先入観ってホント怖いと思う。


「だからラーゼルトとも協力体制にある。そのツテで凱龍王を単身で救ったという君の噂が届いてね、探していたのもあったからすぐに駆け付けたという訳さ」

「そこがわかりません。どうして僕なんかを探すんです?」


 ただ僕はこの時、予想だにもしていなかったんだ。

 僕が知らない所で「レコ=ミルーイ」という存在がいかに大きくなっていたのかを。


「それは数々の戦果を残した英雄たる君に、我々デュラレンツの新しい指導者となれる可能性があったからだ」




 でもね、ちょっと待ってください?

 先入観さん、いくらなんでもちょっと頑張り過ぎじゃないですか!?

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