廻骸のヴァルフェル ~殲滅機攻兵となった僕はコンテナ少女と共に故郷を目指す~

ひなうさ

第一部

第一章 獣魔大戦

第1話 僕は新人で、気弱で、それでも騎士です

「行ってらっしゃい、レコ。気を付けてね」

「うん、行ってきます」


 今日、僕は初めて戦場に行く。

 それも人類の未来を賭けた最後の戦いに。


 このタイミングでの参戦には僕自身も驚いている。

 けど、誉ある魔導皇国騎士隊に抜擢されたからにはしっかりと役目をはたすつもりだ。

 この身体に纏う騎士鎧式軍服に懸けて。


 だから僕はこうして妻ティアナと別れを済まし、作戦本部へと向けて踵を返した。

 もちろん、彼女のお腹の中にいる子にもちゃんと挨拶を交わしてね。


 二人を何としてでも守りたい――その願いを形にする為にも。




 それから程なくして、僕は仲間達と共に会議室へと集まった。

 これから行われる戦いの計画を共有する為にと。


 指揮を執るのは当然、我等がアールデュー特務隊長。

 僕の昔からの憧れで、何度も皇国の危機を救った英雄なんだ。


 そんな人が今、僕の上司として作戦内容を伝えてくれている。

 それも相変わらずの、のらりくらりとした緩~い話し方で。

 見た感じだと軍人、騎士とはとても思えないイイ人だよ。


「ってえ訳で作戦の概要は以上。ま、要約すると『いつも通りガンバレ』だ」

「「「ハハハ!」」」


 もちろん隊員達もいい人達ばかりさ。

 男女問わず皆屈強でいかつい人ばかりなんだけども。

 それでも新人で、十八の若輩で、細身な僕を馬鹿にもせずに受け入れてくれたんだ。


 例えば「新人だったら遠慮なく質問を飛ばせ。出来るなら笑える質問をだ」なんて助言をくれたりしてね。


「特務隊長殿! 一つ質問があります!」

「なんだい、レコ=ミルーイ二等騎兵?」


 なのでせっかくだからと、こうして質問をしてみた。

 自分なりにも気になっていた事を確かめるつもりで。


「今回の戦いでとの戦いは本当に終わるのでしょうか? また平穏な日々がやってくるのか、それだけがただ心配で……」


 野暮な質問なのはわかってる。

 けど、それでも訊かずにはいられなかったんだ。


 十二年も続いた戦争が今日で終わるだなんて、まだ信じられなかったから。


 けどこんな質問をした途端に場が静まり返ってしまって。

 更には後ろの人に「馬鹿野郎、まったく面白くねぇぞ」だなんて言われ、後頭部をはたかれてしまった。理不尽だ。


 「現在確認されている奴等の群勢はこの世界において間違い無く、これで最後だ。随分とまぁ長い戦いになっちまったがぁ、お前等みたいな優秀な奴等が頑張ってくれたおかげでようやくここまで来れた。その事には俺からも感謝したい」


 それでも隊長はちゃんと答えを返してくれた。

 僕への理不尽な仕打ちに含み笑いしながらだけど。


 その上で感謝という形で締めてくれて。

 おかげで場が一層「ギュッ」と引き締まった感じがした。


 人類の天敵――『獣魔』との最終決戦に向けて。


 ……奴等は十二年前に突如としてこの世界『エンベンタリア』へとやってきた。

 空から落ちてきて、地上に降り立つや否やすぐに人を襲い始めたんだ。


 それからはもう酷いものだったらしい。

 人類は必死に戦い抵抗したけれど、個体能力差から劣勢は免れなかった。

 当時の人類の戦力は剣槍や砲筒、魔法くらいだったから。

 獣魔たちはそんな武器を持つ人間なんかよりずっと強かったんだ。


 それに奴等は人や獣を殺すだけに飽き足らず、喰らい、そして増殖する。

 更には生まれたばかりの個体は即座に戦線へ。

 その獰猛かつ高い繁殖力は人類にとってこれ以上無い脅威だったのさ。


 ゆえにその七年後、地上の半分が奴等によって支配されてしまった。


 それが〝没落の七星セヴンスフォールズ〟。

 〝人類が初めて敗北を認めた絶望の七年〟として記録された出来事である。


「獣魔どもが来てから色んな事があった。家族や友人を奪われた者、帰る家を失った者、得る物よりも失った物の方がずっと多い地獄の様な日々だっただろう。だが、その時代はもうとっくに終わりを告げた。俺達が逆転の一歩を踏み出した事でな」


 だけど、人類はそこでやっと獣魔への対抗手段を造り上げたんだ。

 僕みたいな新兵でさえ一騎当千の騎士となれる画期的な戦力増強手段を。


 そのおかげで今日までの五年において、勢力図は再び人類側に傾いた。


 今では獣魔側が一割以下。

 つい先日、僕達の祖国『魔導皇国ユガンティア』北方山岳部に出現した群勢だけとなっている。


「しかし最後まで気は抜けん。だからこそ、どうか最後まで祖国の為、ひいては世界の為にお前等の力を貸してくれ。それとレコ=ミルーイ二等騎兵は今回初参加で不安もあるだろうが、今はどうにかその不安を取り除いて欲しい。少しでも戦闘効率を上げる為にもな」

「ハッ!」


 そして今日、この日が遂にやって来た。

 奴等を根絶やしにする最後の戦いの時が。


 だから皆、意欲も気迫も充分だ。

 この日まで心と体を鍛え上げて来ただけの事はあるって思えるくらいに。

 もちろん僕だってその気持ちだけは負けていない。


 だから隣から不意に差し出された拳へ、僕も拳で叩いて応えてみせる。

 それで振り向けば、スキンヘッドが自慢なイジーさんがニヤリと笑みを向けてくれて。

 さっきちょっかいを出してきたゴダナさんや二つ上のマイルルさんも、僕の肩を叩いて励ましてくれた。


 同じチームだからかな、きっと喝を入れてくれたんだろう。

 こんな気さくな人達だから、できるなら成果で応えたいよ。


 ――なんて、そう悩んでいた時だった。

 すると突然、一人の兵が通路から飛び出す様にやってきた。


「伝令ッ! これより三〇分後、最終作戦を発動! それまでに各自【転魂てんこん】を済ませたし!」

「了解だ」


 どうやら作戦開始を報せる連絡兵だったみたいだ。

 そんな彼に、アールデュー隊長が軽いハンドサインと微笑みで返す。

 敬礼に敬礼で返さないのもこの人らしい所だから。


 で、その代わりに何が始まるかと言えば。


「聞いたなぁ野郎ども!? 通過儀礼なんてもんはこの際置いておく……最後の狩りの始まりだあッ! 今まで散々喰い荒らしてくれていた大地を奴等自身の血肉で肥えさせるぞおッ!!」

「「「うおおおーーーッ!!!」」」


 こんな風に仲間たちを炊き付けての雄叫びだ。


 隊長はどちらかと言えば騎士よりも荒くれ者って感じに近い。

 いざスイッチが入るとこうやって荒々しくなっちゃうんだ。

 この雰囲気はどうにもまだ馴れないんだよなぁ。


 ま、こうしてテンションを上げた方が戦うにはいいみたいだけどね。

 士気も上がるし、何より戦闘効率が段違いに上がるみたいだから。


「世界を守り切りたい奴は、このアールデュー=ジ=ヴェリオについてきやがれえッ!!」


 そんな感情を煽る様に、アールデュー隊長が赤いマントを跳ね上げて踵を返す。

 皆が揃って踏み出す中で。


 そうして隊長に引き連れられ、基地内を闊歩する。

 戦列に加われなかった幾多の兵士達の敬礼を受けながら。


 そして格納庫へと辿り着いた時、僕達は胸を張って見上げるのだ。




 己の魂を託す事となる、鋼鉄の偽骸を。

 この世界を救う為にと造られた人類の英知へ、各々の希望を秘めて。

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