第43話 ようこそラーゼルトへ

「なるほど、最終決戦で倒したエイゼム級が最後ではない可能性があるか。確かに、その情報は最重要事項と言えるだろうな」


 レクサルさん達との交渉で優位性を確保した僕。

 そのおかげで今はこうして話を信じてもらえている。


 それだけでここまで旅して来た甲斐があるってものだよね。

 この情報を有効活用してくれるかどうかは別として。


「話を聞いてくれて助かります。この話を面と向かって聞いてくれる人はほとんどいませんから。皇国兵は誰も耳を貸してくれませんでしたし」

「当たり前の事だろう」「我々は野蛮な皇国兵とは違う」


 ま、皆ちょっと調子いい事を言っている気がしなくも無いけどね。

 さっき問答無用に武器を向けていた事は忘れてあげようと思う。


「……実際の所、皇国からの脱走兵はそう少なくもない。偶然にも内情を知り、祖国に愛想を尽かした亡命希望者はそれなりにいる。だからこそまず話し合う必要があるのだ。先に敵意を向けるのではなく、な」


 それにどうやら僕みたいな存在は他にもいるらしい。

 だから扱いも手馴れているし、受け入れる事も吝かではないみたいだ。

 ただスパイじゃないかを見極める為にあえて厳しく当たっていたのだろう。


 それは国を守る者にとって当たり前の責務だ。

 僕もまがりなりに騎士だったからこそ、その役目はよくわかっているつもりだから責めるなんて事はしない。


「それでも君に向けたのは、君が人ではないと判断したがゆえ。なのでそこはどうか許していただきたい」

「いえ、大事は無かったので平気ですよ」


 レクサルさんもこうして謝罪してくれたしね。

 むしろこうしてヴァルフェルである僕を自由にしたまま話を聞いてくれるだけでもすごいと思う。

 これがきっとラーゼルトの人達の礼儀なんだろう。


 ならその礼儀に対して相応の返礼をしないとね。


「もしよかったら僕の記録映像を見てください。それで真偽がわかるはずです」

「それってもしかして例のレティネ戦も映っていたりしないか?」

「何、なら是非とも見たい所だ」「俺も俺も!」


 口で話しただけでは信憑性が薄いのは当然の事。

 なので信憑性を深める為にもここは一つ、彼等へ僕の記録メモリーを見せる事にした。


 そこで彼等に小さなモニターを借り受け、外部出力端子を繋いで映像を出力してみる。

 すると早速、フェクターさんの村での出来事が映り込んだ。


「おおっ!?」「これはなんという異形だ!?」

「これは確かに……こんなのが地中にいると思うと恐ろしい話だ」


 もちろん音声をカットしての映像だけ。

 下手に音声があるとユニリースの事がバレてしまうからね。


 それで戦闘の所をピックアップして見せると、彼等がこぞって注目する。

 特にレティネ戦の所になるともう興奮は最高潮さ。


「ふむ……この映像があるだけでも信用に値するだろう。できればすべてを見せてもらいたい所だが」

「そ、そこはプライベートの事もあるのでそれは勘弁してください……僕もこれで一応は人のつもりですから」

「ははは、わかっているさ」


 あとは皇国に関して知り得る情報をすべて伝えたり、あとは僕に皇帝を殺す理由は無いという事も付け加えた。

 今の僕には皇国をかばう必要性も愛国心も無いからね、やるなら徹底的にだ。


 そしてその情報も彼等には有効だったみたい。

 まぁ皇国情報に関しては本体情報だから古くて役に立たないと思うけど。


 でもその話のおかげで、僕はどうやら充分な信頼を得られたようだ。


「もし君が本当に皇帝を暗殺したのならば、外交上でも立場上でも許しはしないだろう。だが君にそんな事ができるとは到底思えない。よって私レクサルは聖鱗騎士団団長としてレコ=ミルーイを無罪と認定し、我が国に受け入れる事を許可しようと思う」

「あ、ありがとうございますッ!!」


 それで今ようやく、レクサルさんから入国許可をもらう事ができた。

 話がわかる人で本当に良かったぁ……!


「そこでレコ=ミルーイ、君はこの国に何を望む?」

「そうですね……僕はここに滞在するのではなく、通過許可を頂きたい所です」

「それはなにゆえに?」

「僕が真に望むのは、誰にも干渉されない安住の地です。ヴァルフェルである以上、人里にいれば何かしらのわだかまりが生まれかねませんから」

「理解を得られれば問題無いとは思うが」

「それでも誤解や忌避は避けられません。そういう目をまず避けたいんです」

「そうか……それならば仕方あるまい」


 きっとレクサルさんは僕の事を買ってくれているのだと思う。

 ただしそれは戦力として。

 レティネさんのような強者を退けた力が欲しい、そう思うのは当然の事だから。


 けどすいません、僕はできればもう戦いたくないんです。

 ユニリースを守る為にも、おだやかに成長させる為にも。


 だから僕は今、この国からも出る事を望んだんだ。

 このラーゼルトを抜け、さらに先へと進む為に。

 僕達の事を知らない、アテリアを差別しない場所へ辿り着く為に。


 その為にも、こんな所で立ち止まっている訳にはいかないよね。


「では団長、彼には最後に積み荷の確認をさせていただきましょうかね?」

「――ッ!?」


 けどそう思っていた矢先、騎士の一人が不意にこんな事を言いだした。

 それは余りにも唐突に。


 レクサルさんの一言で僕は油断してしまっていたんだ。

 「ああ、これで旅が続けられる」ってホッとしていたんだろう。


 ゆえに今、僕は大袈裟に反応してしまっていた。

 僕自身の性格があだとなってつい。


 まずいぞ、今の反応は!

 皆に間違いなく見られていた!


 このままではユニリースの存在がバレてしまう!!


「……いや、その必要はないよ。彼には望み通り、好きに旅させてあげるとしよう」

「!? よ、よろしいので?」

「問題は無い。先に進む事が目的なら街を通らないだろうから。ならテロの心配もないだろう。むしろ彼との出会いを、私は天啓だと思っているよ」


 しかし、そこでなんとレクサルさんが荷物の検閲を不要だと言ってくれた。


 何を思ってかはわからない。

 僕の事を信頼してなのか、それとも何か思う所があるのか。


 ただ、そのおかげで助かったのは事実。

 だからこそ表立ってお礼は言えないけれど、心の中で感謝を示したい。

 本当にありがとうございます、レクサルさん。


「ただし国を出るまでは監視を付けさせてもらう。完全に自由とまではいかないからね」

「そ、そうですね……それくらいならまぁ」

「君を案内するのに適した人物を充てるので心配しないでいただきたい」


 その代わり護衛付きと少し面倒だけど、この際だから仕方がないよね。

 これくらいは覚悟していたし、当然な事だとも思うから。




 こうして僕は旅の続きへと戻る事に。

 もちろんレクサルさんの指定通りの監視役を連れて。


 とはいえ、ほぼ自由に行動していいとの事だからとても助かる。

 少しだけエネルギー補給も受けたから申し分も無いくらいさ。


 さぁて、じゃあこのまま安住の地を目指すとしようか!


 ――なんて軽く思っていたんだけども。

 ユニリースがいる以上、やっぱりタダで事が進む訳なんてなかったのだ。


 でもまさかこんな事になるなんて、夢にも思わなかったよ……。

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