第97話 大事な話に誇張はいらない
「――以上が事の顛末だ。それで俺はあの日以来、奴を何とかしようとずっと考えていた。そこにお前達が救いの手を差し伸べてくれたって訳だ」
アールデュー隊長の語った話はとても悲惨なものだった。
無駄な血と、余計なしがらみと、そして無実の断罪という悲劇まで起こした発端だったからこそ。
だったのに。
「待ってください。それってつまり、僕はアイドルのプリムちゃんと抱き合ったまま全裸で死んだって事ですよね?」
「そうだ」
「そして全裸で皇帝陛下を殺した罪に問われたって事ですよね?」
「そうなるな」
僕に課せられた事実は、ただ皇帝陛下を暗殺した事にも負けないほど酷かった。
ただ殺されただけならまだしも、状況が状況なだけに誤解さえ生まれかねなくて。
「それ最悪じゃないですかぁぁぁ!!!!! もしかしてそれ、僕プリムちゃんへの暴行容疑とか掛かってません!?」
「……実は掛かってるのだ。ディクオス暗殺の罪に隠れて目立たなかったが、プリム氏を暴行したのち殺害という罪もあって皇国兵の恨みは大きい」
「だから皇都に帰った時、兵士がやたら殺意高めだったのかァァァ!!!!! もぉぉぉ! なんでそういう事になっちゃってるんですかァァァ!!!!! ひどい、ひどすぎますよォォォ!!!!!」
「す、すまん……」
「おまけに与太話が多過ぎて悲壮感が薄れてたまらん。要らんだろう、ツィグがアイドル趣味だったなんて無駄設定」
「いや、あれはだな、本当にそうかなって思ったんだよ。誇張じゃないのよ?」
もう僕はあまりの恥ずかしさにリアクターが熱暴走しそうです。
それと頭部の出力回路がオーバーヒートしているのか、たまらなく覆い隠したい気分で一杯だよ。
どうしてくれるのこの複雑な気持ち。
三日後までに落ち着けなかったら僕もう立ち直れる自信ありません。
「と、ともかく、ディクオスは志半ばでツィグに殺されちまった。俺はその仇討ちと共に、アイツの理想を叶えてやりたいんだ」
「そうだな。ならまずは眠っておけ。疲れ果てた頭だったから余計な話しかできなかったと言い訳する為にも」
「なら今日くらい添い寝してくれてもいいんじゃない?」
「一人で寝ろ。ちゃんと風呂に入ってからな」
そんな僕のサブカメラに写っていたのは、シャーリヤさんに頭を「スパァーン」と叩かれるアールデュー隊長で。
他の皆もとうとう呆れ果て、ぞろぞろと場から去って行った。
アールデュー隊長が失意で項垂れる中でもかまう事無く。
どうやら隊長のカリスマ性は一瞬にして地に堕ちたようです。
で、残ったのは赤面を隠す僕と、残り物を漁るユニリースだけ。
そのユニリースちゃんもピーマンの切れ端を隊長に投げ付けるなどやりたい放題である。
だめでしょーユニリースちゃん、食べ物を粗末にしちゃ。
――そして、それから二日後。
僕達は着実に戦いの準備を整えつつあった。
元々準備もしていたし、戦力状況も申し分なかったからね。
それで今、作戦開始前の最終日の朝を迎える。
皇国との戦いの事はティル達にも伝えた。
明日は忙しくなるから、皆の邪魔をしないようにとね。
とはいえ彼等は彼等で理解しているようで、昨日も戦いの準備を手伝ってくれていたから心配はしていない。
少なくともこのアジトは安全圏だから戦いの余波が及ぶ事はないだろうし。
それで肝心のアールデュー隊長はといえば……今ちょうど僕の家の近くを通りかかった所だ。
どうやら体を慣らす為にと走り込みをしているらしい。
昨日は一日中寝ていたようで、一時は心配もされていた。
だけどこうして走れるまで回復できたみたいだし、もうきっと大丈夫なのだろう。
ただ、その回復とやらは僕が想像していた以上に著しかったみたいだけど。
最初に通りかかった時は隊長一人だった。
だけど次に現れた時は三人になっていたんだ。
それでまた来たと思えば、なんかとんでもない大人数になっていて。
そこで僕は改めてアールデュー隊長のすごさを思い知ったよ。
あの人のカリスマ性は本物で、ただいるだけで人を引き付けるんだって。
これがデュラレンツの求めていた象徴の姿なんだとね。
なので気付けば、僕も彼等が来るのをルート上で待っていた。
ランニングはできないけれど、応援する事はできるかなってさ。
それでしばらく眺め続け、人の数が逆に減り始めた頃。
とうとう先導のアールデュー隊長が僕の前で立ち止まり、息を切らせていて。
「ハァ、ハァ、どうだ、機械的に見て俺のコンディションは?」
「転魂するには申し分ないと思いますよ。その身体、本当にどうなってるんです?」
「一応は俺も英雄級だからな。普通の奴等には負けるつもりねぇよ……フゥー」
それでもすぐに立て直し、僕の前でストレッチまでしてみせる。
さすが昔は実戦もこなしていた隊長だけあって身体の造りが尋常じゃない。
今でもあのレクサルさんにも負けない体付きだし、実はこの人結構強いんじゃ。
「でもあまり無理はしない方がいいですよ、隊長」
「いや、どうせ今回の戦いですべてを出し切らにゃなんねぇから万全にしておかなきゃならん。やっといて損はねぇのよ?」
「そうですか。なら僕にこれ以上言う事は無いですね」
「だが俺の方はある。二つくらいある」
「えっ?」
するとアールデュー隊長は僕へと人差し指をビシッと向けていて。
でも寸後にはユニリースにローキックを食らって嫌がっていた。
「あっちょッ!? おいコラ、クソガキやめろ! あとレコもその『隊長』はもうやめろ!」
「え、なんでです? 隊長は隊長じゃないですか」
「俺はもうお前の隊長じゃねぇ! これからは同志なんだからそのまま呼べ、いいな!? ――あ、いッて、コイツの足いッてェ!」
「……そうですね、わかりました。では、これからよろしくお願いします、アールデューさん!」
「お、おう! あ痛ァァァーーー!!」
どうやらユニリースはアールデューさんの事が嫌いみたい。
というか初対面の人には等しく厳しいよね、君。
以前あれだけ遊んでいた声の人にも厳しいとかひどい話である。
そんな彼女の洗礼で悶え跳ねるアールデューさんだったけれど、持ち直してまた僕の近くへ。
ユニリースがやたら足を構えて警戒しているせいか少し怯え気味だけど。
「それと、お前の
「えっ、僕のを?」
「あぁ。それだけ長く転魂していたなら戦闘記録もだいぶ蓄積しているはずだ。実はその手のデータは貴重でな、皇国軍でさえ一週間以上の転魂記録は無いとされている。だからお前の戦闘記録はヴァルフェルをより精密に動かす為の鍵にもなりうるんだ」
「僕のメモリーが、皆の力になりうる……?」
けどこの時教えられた話は、僕にとって寝耳に水だった。
もしかしたら僕だけでなく、僕の記憶もが皆の助けになるかもしれない。
そうも聞かされたらもう期待するしかないじゃないか。
だから僕はアールデューさんの願いを聞き入れ、一つ実験を行う事にしたのだ。
それが他の機体への、僕のメモリー移植。
戦闘記憶だけを引用しての、反乱軍ヴァルフェル総バージョンアップ計画である。
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