第16話 僕はお前達をゆるさない

「しかしいいのか? もし本当に子どもが乗っていたのだとしたら」

「気にするな。子どもなどどうせ他所ですぐ生まれる。それに反逆者の連れ子など生きていても何の得も無いだろう」

「その通りだ。よし、状況報告の為に一度駐留所に帰るぞ」


 を破壊した三人組が踵を返して去っていく。

 連行していたヴァルフェル二機と共に。


 その顔からは未だ罪悪感の一つさえ感じない。

 フェクターさんから聞いていた通り、もはやその在り方に皇国の誇りなどありはしなかったんだ。


 子どもがいるかもしれないと知って撃ってきて。

 僕自身も敵意を示さなかったのに、容赦しなかった。

 事情さえ確認もせず、自分達の判断だけで処理してしまったんだ。


 これは到底ありえない事である。

 本来なら上長に判断を仰いだり、最低でも無力化した上で捕獲連行するはずなのだから。


 ――いや、きっと上長もまともじゃないんだろう。

 反乱分子は即排除、とでも教わっているに違いない。

 そんな皇国が誇り高いだなんて、どの口が言えるのだろうか。


 言える訳がない。

 少なくとも僕の知る皇国の在り方とはかけ離れている。

 そんなもの、騎士たる僕だけは絶対に認める訳にいかないぞ……!


 ゆえに今、僕は立ち上がった。

 精霊機銃を携えたまま、無数の部品を跳ね上げて。


 壊されたが運んでいた台車の上から、勢いよく。


「なあッ!?」

「んだとおッ!?」


 そう、僕は最初から<二体>いたんだ。

 コンテナちゃんの策に乗り、レコ・ワンの魂をコピーしてもう一機に移してね。


 彼女が「皇国兵の出方を伺う為にも、保険を掛けておこう」って提案したから。


 だから今の僕は今までのどのレコでもない。

 敢えて名乗るなら、【レコ・アウトローナイト】だッ!


 左胸に、愛する皇国のエンブレムを輝かせ。

 右胸に、ナイツオブライゼスのエンブレムを抱いて。


 更に左腕・左脚にはツィグ系の重武装仕様を換装。

 右肩にもレティネ系の複幹式フォールディング重光波砲フォトナカノンを備えた。

 そして背部には硬質ブレードを二本搭載。

 アールデュー機たる軽装右脚部と右腕部が高速戦闘さえ可能とさせる!


「僕はもう怒っているぞッ! 完全武装フルアーマーだあッッッ!!!!!」 


 その僕は既に、ヴァルフェル二機へ狙いを定めていた。

 例え気付いたとしても、もう遅いッ!


 振り返る間さえ与えはしなかった。

 一機目、二機目の胴体部を精霊機銃で即座に撃ち抜いた事で。


 狙いを定めた確実な一発だ、お前達雑兵如きじゃ真似できはしない!


「う、うわあっ!」

「ぞ、増援を!」

「だだ大丈夫だ、もう既に来ているぅぅぅ!」

「ッ!?」


 ただ、どうやらそれだけでは済まなかったらしい。

 兵達の声を聴いて景色の彼方を見れば、確かに増援の姿が。

 ヴァルフェルが三機、こちらに向けて走って来ていたんだ。


 けれど僕は冷静に、まず兵達の足元を左腕のアームバルカンで撃つ。

 あくまで足を止める為の威嚇射撃だ。


 そうしたら案の定、兵達は怯えて転び、後ずさりを始めていて。


 同時に、大型砲を右肩へと変形させ始める。

 それで完成したのは、身丈以上の長さを誇る砲身で。


 そんな砲身側部にあるトリガーハンドルを掴み、狙いを定めた。


「レティネさん程の狙撃能力は無いけどね、この距離なら外す訳が無いでしょッ!」


 そして即座にトリガーを引く。

 するとたちまち砲身から強烈な光が迸った。


 光属性の連続的波状光線――詰まる所のレーザーが。


 そんな光を絶えず放つ砲身を思うがまま、水平に振り切る。

 そうすれば光がまるで巨剣の如く、大気を真横に切り裂く事となる。


 遥か先にいる敵三機ごと、一閃の下に。


 しかもそれだけじゃ済まさない。

 追撃で左肩から着弾式爆裂砲弾ソリッドボンバーを撃ち出す。

 エイゼム級の脚を速攻で破壊するほどの威力を誇る弾をなッ!


 ならもはや結末は決まった様なものさ。

 間も無く増援ヴァルフェルが大爆発に巻き込まれ、業炎の中で消し炭と化す。

 

 で、唖然とする兵達の前へ速攻で回り込み、硬質ブレードと銃口を突き付けた。


「お前達は皇国兵としてあるまじき行為を行った! その罪は重い!」

「な、な、な……!?」

「皇国軍・誇訓八条項! 武器を持たぬ者に武力を行使する事は恥と知るべし! このルールを重んじないお前達にもはや皇国兵を名乗る資格は無い!」


 けど殺すつもりは無い。

 例え歪んでいても、彼等もまた皇国市民だからこそ。

 僕は祖国のルールに則り、正々堂々と罰を下すだけだ。


「だ、だが貴様は犯罪者で――」

「痴れ者はどちらか! 皇国軍・誇訓十一条項! 罪人を罰せしは兵に非ず、刑法に則り厳正な処置を行うものとせよ! お前達は私刑を行う立場に無いッ!」

「う、ああ……!?」


 僕にも罪はあるのかもしれない。

 だがそれを決めるのは奴等じゃない、司法だ!

 私怨・暴論で下した刃はもはや凶刃と変わりはしない!


「そしてお前達はあろう事か子どもを射殺しようとした! これは皇国憲法第二条に違反する! 『民の命は国の宝である、ゆえに皇国は国民の為にあれ! 皇帝は国の為にあれ! さすれば皇帝は国・国民より敬られるであろう!』と。忘れたとは言わさないぞッ!」


 こう説き伏せる中で、僕の背中からコンテナちゃんが姿を晒す。

 兵達を見下すかの如く、片足で僕の肩に乗り上げながら。


 爆炎によって巻き上げられた彼女の髪はまるで、怒りを彷彿とさせるかのよう。


 となれば「本当に居たのか!?」と兵達が狼狽え、慄くのは必然だった。

 やはり僕の言う事を信じていなかったらしい。不愉快だ。


「それらを違反したお前達は皇国民ですらない! 犯罪者が誰かなど、もはや明確だろうッ! ゆえに、騎士としてお前達を罰するッ! その権限が今の僕にはあるのだからッ!」

「ひ、ひいいいッ!?」


 そんな不愉快な奴等を罰するのが上位兵たる騎士の役目。

 なら僕は例えその立場を乱用しようとも、彼等を正さなければならない。


 この国を少しでも正しい形に戻す為にも。


 だから僕は今、彼等に精霊機銃を解き放っていた。

 ただし、地上にいる相手には極端に効果が薄れるライトニングバレットでね。


 とはいえ、人間が受ければ卒倒は免れない。


 ゆえにバリバリと解き放てば、三人揃って叫びを上げておねんねだ。

 ちょっとやり過ぎ感もあるが、これも罰だと思って受け止めてもらうとしよう。


 この三人が事後、矯正される事を祈って。


「よし、ここまででいいか。ひとまず逃げるとしよう」


 そこで僕は踵を返し、元来た道を戻る事にした。

 間も無く異変を感じた別の兵士達がこぞってやってくるだろうし。

 大暴れしてしまったし、爆炎でのろしみたいになっているからね。




 もしかしたら僕はもう永久に祖国へ帰れないかもしれない。

 いや、帰る所なんてもう残っていないのだろう。


 だったらどこへ行けばいいのだろうか。

 僕達を受け入れてくれる所なんてあるのだろうか。

 悩みや疑問は幾らでも噴出してくる。


 だけど考えても仕方ないって事もわかりきっている。


 だから今は進むしか無いんだ。

 例えそれが誤った道程を踏む事になるのだとしても。


 いつか「こうすればよかった」と後悔しないために。

 そして、背中のコンテナ少女を平和な地へ送り届けるためにも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る