第12話 コンテナちゃんと呼ぶ事にします
「旧式のヴァルフェルでもいてくれて助かった。おかげで私は誰にも悟られずに脱走ができたのだから。今ではもうこの一機しかいないけれど、それでも充分に心強い」
皇国の一般兵の実態がフェクターさんから明かされた。
野盗とも変わらない、国民から略奪を企てる横暴な者達なのだと。
その中でフェクターさんのような優しい人が居てくれてよかったと思う。
「そして脱走した私は偶然の巡り合わせか、自然とこの村に辿り着いたんだ。もしかしたら過去の過ちを償いたいと思っていたからかもしれないな」
「そんな、フェクターさんが間違えた訳じゃないのに……」
「いや、止められなかった以上は同罪さ。そして村人が死んだという事実も消えない。だから私は思い切ってこの村に立ち寄り、生き残っていた村人に懇願した。『どうかこの村を守る為に協力させて欲しい』と」
この人は優しいけど、とても強いんだな。
じゃなかったらきっと、今ごろ良心の呵責で押し潰されていたかもしれない。
そうならなくて良かったと心から思う。
この人はそれだけ価値のある人物だと思うから。
「最初は嫌々だったけれど、次第に許されていったよ。賊を何度も追い返したからね。ちなみにその賊の八割が皇国軍兵だ」
「それ、通報とかされたりしないんです?」
「幸いそれはなかったよ。ヴァルフェルのおかげで情勢が安定したからかな。地方搾取が合法的に出来なくなったのかもしれない。そこで下手に報告すれば報告者が処罰されかねないからね」
「それでも搾取しようっていう意識が変わらないのはどうしようもないな」
対して皇国軍の方はもう擁護のしようがない。
これは騎士としてとても見逃せない話だと思う。
騎士位は軍の中でもトップクラスの階級だ。
素質だけで選ばれたとはいえ、僕本体もその一員でそれなりの権限はある。
なので今聞いた話をしっかり説明すれば、本体が絶対に動いてくれるだろう。
……これで戻った時にやる事が増えた。
こうなったらもう何が何でも絶対に帰還しないといけないな。
微力ながらでも、僕もフェクターさんの手助けをしたいから。
「おかげで今は村の一員として認めてもらえている。まだまだ罪を償えたとは言えないがね」
「でもそれ、いつまでこうしているつもりなんです?」
「できる事なら、連行された村人達が帰って来るまで、かな」
連行された人々を強制労働から解放して故郷に返さなきゃ。
皇国は奴隷制も廃止しているから、本来はこんな事があっちゃいけないんだ。
だから僕は決意を胸に、フェクターさんへキリッとした頷きで返す。
「僕、戻ったらこの村の惨状を訴えます! こんな酷い状態なのは絶対におかしいですから!」
「ありがとう。まぁ望みは薄いし、期待しないで待っておくよ」
「ぼ、僕ってそんなに頼りないですかぁ~!?」
「あ、いやそういう意味じゃなくて。皇国側が素直に動くとは思えなくてさ」
「大丈夫です! これでも僕は騎士ですからね!」
こんな事実があろうとも僕は祖国を愛している。
フェクターさんだってきっとそう。
じゃなければもうこの国に居座ってなんていないだろう。
きっと心の奥では変わって欲しいって願っているに違いない。
だから僕は敢えてこう宣言したんだ。
もちろん嘘を付いたつもりは無い。
皇国へ帰ったら、真っ先にこの事実を伝えるつもりさ。
愛する祖国を知ったままの美しい国に戻したいからね。
こうして主題が終わったので、少し雑談を交えてからフェクターさんは場を去った。
「隣の母屋が寝床だから、何かあったら起こしてくれ」と伝言を残して。
ちなみに、真実を話してくれた理由は「僕が誠実だったから」だそうだ。
とても現役軍人に話せるような話じゃないのに、本当に勇気があると思う。
それでも信じて語ってくれた事に感謝したいよ。
そう一人で想いを巡らせて時の事。
すると人がいなくなったからか、少女がやっとコンテナから出てきてくれた。
ただ、僕の身体を器用に伝って降りては納屋の外へ歩いて行ってしまって。
で、ちょっとしたらすぐ戻ってきて、僕をよじ登ってまたコンテナの中へ直行だ。
一体何をしに出て来たのやら。
まるでコンテナの一部みたいな子だなぁ。
ならいっそこの子の事を【コンテナちゃん】とでも呼ぶ事にしようか。
……おや? なんか背中からドンドンと音がするぞ。
中で頭でもぶつけたのかな。
まぁすぐに大人しくなったけれども。
それでまた静かになったので、せっかくだしと静寂を堪能する事にした。
意識を落とせないから退屈ではある。
けど、やりたい事も出来たから嫌ではない。
まるで戦いに赴く時と同じ高揚感があるから。
早く夜が明けて欲しい。
そう待ち遠しく思うだけで意識が加速しそうだよ。
――なんて嬉しく思っていたのだけど。
世界は、僕にそんな無駄な時間なんて与えてくれはしなかったんだ。
『異常振動を検知。
意識内にて突如、警告音が鳴り響いて。
その瞬間、僕は戦慄する。
このコール音は忘れたくても忘れられなくて。
「まさか、そんな馬鹿な……ッ!? こんな事ありえないッ!! エイゼム級はもう、全部倒したはずなのにッ!!」
ゆえに、こう狼狽えずにはいられなかったんだ。
あの脅威がまだ残っているなんて、とても信じられなかったのだから。
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