第81話 革命

 オレ達はコボルトを倒して採掘場を確保した。コボルトが此処で採掘をしていたという事は、此処で鉱石が出るという事だ。漸くつるはしの出番である。3本しか用意できなかったのは不安だけど、これで鉱石を掘れるだけ掘ろうと思う。


 でもその前に戦闘の後始末だ。コボルトの死体から金目の物を剥ぎ取る。なんだか賊になったみたいだ。実際に殺して奪ってるんだから、コボルトからすればオレ達は質の悪い賊に違いない。ごめんなコボルト。この世界は弱肉強食なんだ。オレの生きる糧になってくれ…。うっひょー!こいつ耳にピアスなんて着けてやがるじゃねぇ―か。臨時収入臨時収入♪


 オレの精神もだいぶ逞しくなってきたな。今では討伐報酬を思って笑顔でコボルトの耳を切り取れるぜ。


「うーん…?」


 オレはコボルト達のズタ袋に入っていた石を見て唸る。これって鉱石なんだろうか?黒に白の模様が入った石だ。こんなの鉱石の見本にあったっけ?


 横を見れば、マリアドネとホフマンも石を見ながら唸っている。


 オレ達は一応事前に冒険者ギルドで、鉱石の見本を見ながら鉱石について勉強してきていたが、いざ石を前にすると、それが鉱石なのか鑑定できないでいた。わざわざコボルト達がズタ袋に入れていたということは鉱石なのだろうか?一応持ち帰ってみるか?でもなー…。これが只の石だったりしたら、骨折り損のくたびれ儲けになりかねない。


 うーん…。わっかんねーな。せめてマリアドネかホフマンが鑑定できれば良いんだけど、二人の様子を見る限り期待薄だ。


「ヌシら何うんうん唸っとるんだ?」


 石を見て唸っているオレ達に、<聖騎士>ライエルが声を掛ける。たしかにある種異様な光景かもしれない。同行者がいきなり石を見て唸りだしたら、どうかしたのかと思うだろう。


「実は…鉱石の見分けがつかないんだ。どれが鉱石なのかさっぱり分からない」


 オレはライエルに事情を説明する。自分の実力不足を打ち明けるみたいで少し恥ずかしい。


「なに?ヌシらは此処には鉱石を掘りに来たんだろう?鉱石の見分けがつかんとは…。何の為に此処まで来たのか分からんぞ」


 ライエルの言う事、御尤もである。ハインリスもライエルの隣で呆れた表情をしていた。


「一応勉強はしてきたんだよ…」


「分からなければ意味があるまい」


 何とかひねり出した弁明も切って捨てられた。その通りなんだけど、もうちょっと優しさが欲しい。


「はぁー。どれ、ワシに見せてみろ」


 ライエルは太い溜息を吐くと、のっしのっしと向かってくる。元々大柄なドガス族の中でもひときわ大きな体躯を誇るライエルだ。壁が迫ってきた様な圧迫感を感じる。


「これなんだけど…」


「どれどれ」


 ライエルがオレの手から石を摘まみ上げた。


「クズ石だな」


 そして、石を一瞥しただけでポイッと後ろに捨てた。ちゃんと見たのかも怪しい早さだ。


「鉱石が分かるの!?」


「何を驚く?我らドガスは錬鉄の民だぞ」


 確かにドガス族は、物語のドワーフみたいに鍛冶に堪能な種族だけど、貴方<聖騎士>ですよね?それも聖騎士隊を率いたお偉いさんでしたよね?なんで鉱石に詳しいんだよ。


「ワシも生前は鎧や剣にこだわっていたからな。鉱石にはちと、うるさいぞ」


 オレの疑問が顔に出ていたのか、ライエルが話し始める。ライエルは生前、鎧や剣のみならず、その原料である鉱石にもこだわっていたらしい。選び抜いた鉱石を、同じく選び抜いた職人の手で、鎧や剣に鍛えてもらっていたようだ。


 そりゃ命を預ける物だからこだわるのは分かるけど、鉱石の段階からこだわるのは行き過ぎているように思うのはオレだけだろうか?


 なんにせよ、ライエルが鉱石に詳しいのは嬉しい誤算だ。そしてこの事実はオレに革命を齎した。


 今までオレは英霊を一個人として尊重はしても、戦力としてしか見ていなかったのだろう。彼らの持つ知識という力に気が付いていなかった。


 英霊は故人だ。その人生で培った武力は元より、知識や知恵があるのは当然だ。そんな当たり前のことに気が付かないなんて、オレはどこかで英霊をゲームや小説の登場人物の様な虚構のモノだと思っていたのかもしれない。彼らには彼らの人生があったのだ。


 これはもう一度英霊全員と話をする必要がありそうだな。彼らの持つ知識について話を聞かないと。



 ◇



「うーむ…この袋はクズ石ばかりだな」


 ライエルがコボルトの持っていたズタ袋を広げて言う。ライエルが鉱石に詳しいようなので、今はコボルトがズタ袋に集めていた石をライエルに鑑定してもらっている最中だ。それにしても中身がクズ石ばかりって…。


「なんでコボルト達はクズ石ばかり集めてたんだ?」


 もうちょっと良い物集めろよ。鉱石とか。オレ達をがっかりさせる為にクズ石ばかり集めていたとか?そんなわけないか。


「そりゃヌシ、掘った分はどこかに捨てんと、石で埋もれちまうだろう」


 ライエルに言われて気付く。確かにそうだ。コボルト達は、どこかに捨てる為にクズ石をズタ袋に集めていたのだろう。


 パンパンにクズ石が詰まったズタ袋を見て、鉱石がこんなにたくさんある!と喜んでいたオレの純情を返してほしいくらいだ。普通、袋にわざわざ入れてるんだから大事な物だと思うだろ?なんだかコボルトに騙されたような気がして面白くないな。


「そうしょげるな。どこかに奴らの成果があるはずだ。これじゃないか?」


 ライエルが一つのズタ袋を手に取る。他のズタ袋に比べて中身が入ってない物だ。


「どれどれ…。おぉ!やっぱりそうだ。銅に亜鉛、鉄…銀まであるぞ!良かったな!」


 どうやらコボルト達は鉱石を一つのズタ袋にまとめていたらしい。ライエルに渡されたズタ袋を手に取ると、見た目に反してズシリと重い。体がバランスを崩して倒れてしまいそうだった。


「質はイマイチだが、売ればそれなりの値で売れるだろう」


 クズ石の量に比べるとあまりにも少ない量だが、オレ達は遂に鉱石を手に入れた。正確には、コボルト達から殺して奪ったのだが。




 なんだか一仕事やり遂げたような気分だが、オレ達の冒険の目的は、ここからがスタートだと言って良い。オレ達は鉱石を掘りに来たのだ。コボルトとの戦闘も、コボルトから奪った鉱石もオマケみたいなものだ。その為に重くて邪魔なつるはしを此処まで運んできたのだ。


 遂にオレのつるはしが火を噴くぜ!鉱石をたんまり掘り当てて、こんな蛮族スタイルの装備とはおさらばするんだ!子どもとかオレを見て泣き出すんだぜ?あれ心にクるんだよなぁ…こっちが泣きてーよ。服なんて贅沢は言わない。せめて体が隠れる外套が欲しい。ついでにパンツも新調したい。最近解れてきたんだよなぁ…。2枚のパンツをヘビロテしてるから傷むのも早い早い。まずはパンツの新調かな。流石にノーパン生活に戻るのは…辛いものがある。よし!パンツの為にもがんばって鉱石掘り当てるぞー!おー!


 オレはつるはしを手に坑道の壁へと挑みかかった。

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