第4話 ネクロマンサーへの扱いとエバノン
オレは思い切ってハインリスに訊いてみることにした。
「ねぇ、ハインリスさん。この格好で帝都に入れると思う?」
ハインリスが、呆れたような顔をする。やっぱり無理か?
「やはり頭でもぶつけたのではないか?今日の貴様はどこかおかしい。普通に考えれば、入れるわけないだろう。格好もそうだが、その入れ墨はネクロマンサー特有のものだろう?私には分からんが、見る者が見れば、貴様がネクロマンサーだと露見すると思ったほうが良いぞ」
「ちなみに露見した場合は…?」
「尋問…いや、言葉は飾るまい。拷問の上、処刑だろう」
デスヨネー!やべぇじゃん。詰んでんじゃん。
「いや、待てよ。そういえば貴様は度々帝都に侵入していたな。一体どんな手品を使ったんだ?」
ハインリスが不思議そうな顔で聞いてくる。知らねーよ!ゲームだから捕まらなかったんだよ、きっと。
「ハインリスさん、変装とかどうだろう?」
「…隠しきれるとは思えぬが?帝都の警備もそこまでザルではあるまい。あと“さん”はいらん。ハインリスで良い」
ハインリスがこちらの頭の天辺からつま先まで往復して見ながら言ってきた。そうだね…入れ墨、全身に入ってるもんね…。どうすりゃいいんだよ!ついでに言えば、変装できる装備なんて持ってなかったわ。やっぱ詰んでね?これ。
「はぁ…」
思わずため息がこぼれる。
「帝都に用事でもあったのか?」
「そういうわけじゃないけど、食料も水も残り少ないんだ。それに今は情報が欲しい」
そう、情報が欲しい。ハインリスの話が本当なら、この世界は『ファイナルクエスト』と同じような世界らしい。少なくてもライール高原周辺は。それに、人々のネクロマンサーに対する忌避感もゲームの時以上にあるみたいだ。拷問の上、処刑ってなんだよ!
ぶっちゃけ、もう、どうすればいいのか分からない。どうすれば生き残れるのか。何が正解なのか。それを知る為にも情報が欲しい。
「情報?確かに帝都ならば様々な情報が集まるだろうが…。水と食料の調達の方が先ではないか?帝都まで三日はかかるぞ」
確かにそうだ。クッキーとジュースは残り二日分しかない。帝都まで三日って、さっき聞いたわ。なんだか自分が空回ってるような気がする。ちょっと恥ずかしい。
「ハインリスさ…ハインリス、食料の調達の案ってある?誰かから買うのはリスクがある気がするんだけど」
「通報されるリスクはあるだろう。買い付けが出来ないならば、自分で獲ってみてはどうだ?確か、狩人が居ただろう?水ならライール高原には川や池があったはずだ」
ハインリスが頼りになりすぎてヤバイ。オレが女だったら惚れてたかもしんねぇ。顔もいいしなハインリス。
「確かにその通りだわ。流石はハインリスだ」
「どうした急に。やはり今日の貴様はどこか変だ」
確かに変かもしれない。自分でもテンションが安定してないのを感じている。でも、いきなりこんな訳分からん状況に叩き込まれれば、誰しも少なからず混乱するだろうよ。
◇
さて、んじゃ早速<狩人>エバノンを呼びましょうかね。
「来たれ、エバノン」
また体の中から暖かいもの(たぶん魔力)が飛び出ていき、景色が歪む。淡い光に包まれながら現れたのは、目つきの鋭いヒューマンのおっさんだ。彼は辺りを一瞥した後こちらを向き、いつの間にか矢がつがえられた弓をそっと下した。
「アルビレオ、敵はどこだ?」
のっけから好戦的すぎない?いや、オレが悪いのかもしれない。今まで召喚したのは戦闘中がほとんどだったからなぁ。英霊の召喚維持費を節約する為にわざとそうしていたんだけど…。
英霊は、召喚したら5秒ごとにHPの1%を失う。これを通称、召喚維持費と呼んでいた。オレの場合は装備の効果で10%HPを上乗せした状態で召喚できるけど、それでも最大550秒しか召喚し続けることしか出来ない。英霊のHPを回復する方法は無い。普通の回復魔法は英霊には効果が無い。
そういえば、ハインリスを召喚してもう550秒以上経っている気がするけど、なんで召喚解除されないんだろ?まぁ召喚できる時間が長くなるのは悪いことじゃない。このままちょっと実験してみよう。この世界では、何秒召喚を維持できるのか。
「アルビレオ、聞いてっか?おーい!」
「あっと、ごめんごめん。敵はいないよ。エバノンには、えーっと…そう!助けてもらいたくてエバノンを呼んだんだ」
「助けるって、何をすりゃいいんだ…?」
エバノンがなんだか不安そうだ。どんな無茶を言われると思ってるんだよ?
「食料の調達と、川か池までの案内をお願いしたいんだけど、大丈夫かな?」
「そりゃ出来ねぇこともねぇと思うが…」
エバノンが変なものを見るような目でこちらを見ている。今まで戦闘ばかりで、いきなりこんなお願いされたら驚くかもしれないが、そんな目で見なくても良いだろうに。
「狩人殿、今日のアルビレオはどこかおかしいのだ」
今まで黙っていたハインリスも会話に入ってきた。
「殿なんてよしてくれ、騎士の旦那。どうかエバノンと呼んでくだせぇ」
「わかった、エバノン。私もハインリスで良い」
「…良いのかい?」
「死んでまで身分に拘ってもな」
「そりゃ確かにちげぇねぇ」
二人が和やかに笑いあっている。なんだか初めましての空気だが、これまで何度も一緒に召喚したことがあるはずだ。まぁ召喚されて戦闘して送還されての繰り返しで交友を温める暇なんてなかったんだろう。英霊ってなんてブラックなんだ。よく文句言わないなこの二人。これは待遇改善しないといけないかもしれないな…何をすれば良いのか分かんないけどさ。
「っといけねぇ。そろそろ移動しねぇと。いいか、アルビレオ。ハインリスと一緒にオレの後を20歩くらい離れてついてこい」
「了解でーす」
オレの返事にエバノンはハインリスとアイコンタクトを交わし、お互いに肩をすくめると歩き出した。
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