第3話 死霊魔術とハインリス
これは死霊魔術を使えるようになるのが一番重要なんじゃない?食料は残り少ないが、二日分はあるし、未知の場所を探索するなら自衛手段の一つや二つは欲しい。
差し迫った危険がない今こそ、いろいろと試すべきではないだろうか?幸いと言って良いのか、今は人目もない。ネクロマンサーとバレる危険も無い。物理攻撃能力を重視して全裸と素手になると、MP最大値が大幅に下がり、死霊魔術を試すには苦労することになるという理由もある。それにできれば全裸になるのは遠慮したい。こんな腰ミノでも有るのと無いのではえらい違いだ。オレの尊厳が懸かってると言っていい。
試すべきだ。そもそも魔法が使える世界なのか分からんが。
死霊魔術を使うにあたって大切なのは、契約と触媒である。契約は今はどうしようもない。ゲーム内でした契約は今でも有効なのだろうか?今は有効だと信じて試すしかないだろう。
後は触媒の方だが、手持ちのアイテムの確認の際に、ちゃんと持っていることを確認した。触媒と言葉を濁しているが…言ってしまえば、契約をした死者の遺体の一部や遺品だ。いやぁ初めて見たときはゾッとしたね、そして、そっと見なかったことにした。
ぶっちゃけ今すぐ捨てたい。いや、ちゃんと供養しないとダメか?下手に捨てたら呪われそうだし。しかし、死霊魔術には触媒は必須だ。嫌だけど持ち続けないといけないだろう。
これは荷物検査とかされたら一発アウト?なんだか不利な点ばっかり増えてくなぁ……なんでネクロマンサーなんて選んじまったんだろ。たしか、ネクロマンサーって響きに、オレの中の中二病が疼いたんだよなぁ……。
とにかく、今は死霊魔術の練習だ。でも、詠唱って何を唱えればいいんだ?さっぱり分からん。召喚とか、出でよとか言えばいいんだろうか?でも一体誰を召喚しようか。
死霊魔術で呼び出せる死者は役割ごとに5つに分けることができる。
盾役(タンク)、物理アタッカー(ダメージディーラー)、魔法アタッカー(ヌーカー)、回復(ヒーラー)、支援(バッファー)の5つだ。オレの召喚できる英霊は、ほぼ全ての役割を網羅しているが、呼び出せる死者の個々の能力は一線級のプレイヤーと比べると一段も二段も劣る。
ネクロマンサーの強みは数の暴力の集中運用にある。同一の死者を複数召喚できない、自分のMPの続く限りにおいては、という但し書きは付くけどね。
今は防御能力に不安があるし、タンクかなぁ。ネクロマンサー含め、後衛職の防御能力はペラッペラなのだ。となると、やっぱり召喚するのは<見習い騎士>ハインリスだろう。
ハインリスは挑発とシールドバッシュしか特技のない下級のタンクだが、1つとても強い能力を持っている。
それが俗にいう食いしばり能力。どんなに大ダメージを受けても、必ず一度だけHP1で耐えることができる。その能力を生かして、ネクロマンサー2人でハインリスを2体召喚して順番にボスにぶつけて盾役にするという荒業『ハインリス回し』なる戦法もあった程だ。特に一撃一撃が重いボス戦に有効だった。
まぁ1人でハインリス回しはリキャストの問題で出来ないけど、どんなモンスターが出てくるか分からない状況で、必ず一撃耐えてくれるのは素直にありがたい。
やっぱり召喚するならハインリスだ。
「出でよ、ハインリス。とか言えばいいのかな?」
口に出した瞬間、オレの体の中から何か暖かい物がほんのちょっと飛び出した気がした。そして、オレの手前の景色が歪んだかと思うと、気が付いたら、肩、肘、膝など体の要所要所に鎧を付け、大きめの盾を持った青白い半透明な青年が淡い光を纏いながら立っていた。
マジかよ!さっきのはゲームで見た召喚のエフェクトじゃん!ってことは成功?まさかの一発成功!?顔も装備もハインリスっぽいしマジで成功した!切り札が復活した!やったぜ!
オレの中を混乱と歓喜が駆け巡っていくのをしり目に、現れたハインリスは腰を落とし、いきなり剣を抜き放った。
は!?な!?へ!?
「おぶし!?」
いきなりのことに驚いて尻もちをついたオレを無視して、ハインリスが素早く周囲を確認している。斬りかかってくるわけじゃなさそう?めっちゃ怖かったんだが!?
やがて何かに納得したのか、ハインリスは構えを解きこちらに顔を向けた。
「何をしている、アルビレオ。何故、私を呼んだ?」
キィエェェェェァァァアアアア!?シャ、シャベッタァァァアアアア!?
エッ!?しゃべる感じ?英霊ってしゃべる感じ!?こいつは予想外だ!!
「いや、え、あの…元気?」
「死者に元気も何もあるまい。嫌味か?」
うおっほう!?いきなりバットコミュニケーション過ぎるんだが!?どうする?どうする!?何話せばいいんだよ!?話題、話題、話題…。
「いい天気ですね…」
「随分久しぶりに呼び出したと思ったら、本当にどうしたのだ?確かにいい天気だが…」
「…」
「…」
終わった…終わっちまった…。ハインリスがこちらを怪訝そうな顔で見ている。話題…そうだ!この世界のことでも聞いてみるか?
「えっと…ハインリス…さん?此処が何処だか分かりますか?」
「アルビレオ、貴様そんな話し方だったか?まぁいい。此処はライール高原だと思うが…。それ、あれはフロストイド山脈だろう。此処から帝都まで三日といったところではないか?」
アルビレオというのはオレのキャラの名前だ。ちょっと呼ばれるのに恥ずかしさがある。そして、やっぱりここはライール高原だったか。雰囲気は似てると思ってたんだよ。フロストイド山脈の帝都というと、エルヴィン種族の国家カルセマイア帝国の帝都カルセマイアだろう。
女神フォルトゥナの作った世界に人族はエルヴィン、ドガス、ヒューマン、ルドネの4種族いる。
エルヴィンは一言で表すなら、脳筋エルフだ。見た目は長身痩躯でまさにエルフ。耳もとんがってる。大陸北部のカルセマイア帝国に多く住んでいる。武器や魔法の扱いに長け、防御性能は低め。攻撃的な種族だ。ちなみに、オレとハインリスの種族もエルヴィンだ。
ドガスは一言で表すなら、大きなドワーフだ。見た目はドワーフをそのまま身長2メートル以上に拡大したような、縦にも横にもでかい種族だ。大陸南部のグッテラスト王国に多く住んでいる。身体能力に優れ、防御性能に定評がある。その代り、魔法は苦手な種族だ。
ヒューマンは一言で表すなら、人間だ。見た目も地球の人間と変わりはない。大陸西部のカナドレイル共和国に多く住んでいる。長所もなければ苦手もない、万能、もしくは器用貧乏な種族といえる。
ルドネは一言で表すなら、魔法特化小人だ。見た目は成人してもエルヴィンの5,6歳の幼児のような小人だ。耳も尖っている。大陸東部のマチルドネリコ連邦に多く住んでいる。魔法の扱いは随一。頭一つどころか二つは抜きんでている。その代り身体能力はかなり低い。舐められそうな見た目だが、その魔力故、侮る者はいないと言っていい。
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