第30話 冒険者ギルド本部②

「ま、待ってください。彼は犯罪者ではありません!」


 助けは意外なところからきた。受付嬢のルドネ族の女の子が椅子の上に立ち上がり、手をワタワタと動かして弁明してくれる。こんな状況だが、可愛らしい姿に癒されるな。


「じゃあ、何で警報が鳴るんだよ。誤作動か?」


 受付嬢の言葉に、場の空気が弛緩する。これはなんとかなるっぽい?


「それは…彼がネクロマンサーだから…」


「やっぱり犯罪者じゃねぇか!」


 弛緩していた空気が、また硬化する。下されていた剣が再び突き付けられた。


「でも、この国ではネクロマンサーは合法です!ですので、彼は犯罪者ではありません!」


 ネクロマンサーが合法!やっぱりこの国に来て正解だった。これで怯えて暮らす必要もない。


「そんなバカな…。ネクロマンサーは女神への冒涜だ。大罪人だぞ。なぁ、そうだろ?」


 オレの正面にいる男が、周りの人間を煽る。


「「そうだ!」」


「許されて良いわけがない!」


 ネクロマンサーへの反感強すぎじゃない?ほとんどの人間が男に賛同して、オレを睨み付けてくる。


「とにかく、彼は犯罪者じゃありません!冒険者同士の私闘は罰則がありますよ!」


 受付嬢が俺の無罪を訴えている。だが、冒険者達は信じられないのか、オレへの包囲を解かない。


「もしかして、あの女、ネクロマンサーに魔法で操られてんじゃねぇか?」


「そんな!?私は正常です!」


 なんだか話がおかしな方向に曲がってしまった。オレが受付嬢を魔法で操っているわけがないだろ。ネクロマンサーにそんな魔法は使えねぇよ!


「おかしいと思ったんだ。ネクロマンサーが合法なわけがない!」


「早く殺っちまえ!」


 目の前の男がその声に押されるように剣を振り上げる。クソッ。やっぱりダメ元で白虎を召喚するしか…!


「止まれ!これは何の騒ぎだ!」


 静止の大声を上げ、ギルドのカウンターの奥の扉からヒューマンの男が出て来た。男は50歳ほどだろうか、大柄な男だ。大柄と言っても、太っているわけではない。鍛え上げられた筋肉が、品の良い服を押し上げているのが見て取れる。縦にも横にも大きな男だ。その顔は厳めしく歪められている。


「ギルド長!」


「ギルド長だ…!」


 この男が冒険者ギルドのギルド長?




 ギルド長の登場により、ギルドの中は時間が止まった様に静止していた。目の前のヒューマンの男も剣を振りかぶったまま動かない。助かった?


「誰か、状況説明を」


「はい!」


 オレを擁護してくれた受付嬢が、弾かれた様にギルド長に走って近づき、状況説明をしている。彼女はオレを擁護してくれていたし、もしかしたらこのまま助かるんじゃね?


「ふむ。状況は分かった」


 ギルド長が重苦しく頷き、こちらを向く。なんていうか、目力が強い。思わず姿勢を正してしまった。


「ギース、剣を下ろせ。彼は罪人ではない」


 っしゃ!ギルド長から無罪認定きたこれ!


「そんな!?ネクロマンサーですよ!?」


「信じがたい事かもしれんが、この国では合法なのだ。彼はネクロマンサーであること以外に罪の表記が無かった。彼は罪人ではない。彼を斬れば、罪に問われるのは君になる」


 良かった。ネクロマンサーだからとヤケになって、犯罪を犯さなくて本当に良かった。


「チッ、命拾いしたな」


 ギースが渋々剣を下ろして鞘に納めると、荒い足取りでギルドの外へと出て行ってしまった。


「さぁ、君たちも解散したまえ」


 オレを囲んでいた人垣が崩れていく。だが、彼らの目にはオレへの敵意や侮蔑があった。ネクロマンサーってだけで嫌われ過ぎじゃね?




「先程はありがとうございました」


 包囲から解放されたオレは、受付嬢にお礼を言った。彼女が居なければ、オレはギルド長が来る前に殺されていたかもしれない。そのギルド長だが、騒ぎが収まると早々にギルドの奥へと戻って行ってしまった。ギルド長にもお礼を言いたかったんだが、たぶん忙しいのだろう。


「いえ、いいのよ。あなたは犯罪者じゃないんだし」


 受付嬢が笑いかけてくれる。可愛らしい、癒される笑みだ。


「それで、何だったかしら…たしか登録の確認だったわね。あなたは冒険者ギルドに登録済みよ。等級は10級ね」


 10級か…たしか前に昇級の話が出たような気がするけど、ネクロマンサーとバレて見送られちゃったのかな。


「ついでにこのギルドについて説明もしちゃうわね。あっちに見えるのがクエストボード。依頼はあそこに張り出されるの。あそこで依頼内容を確認して、ここで受付で依頼受注できるわ」


 早速依頼を受けようと、クエストボードに近づく。そうだった。オレこの世界の文字読めないんだった。何て書いてあるかさっぱりだ。依頼書には字が読めない人を考慮してか、絵も描いてあるから、なんとなく分かるが自信が持てない。


「すいません。オレ文字が読めなくて」


「そうなの?えーっと…今出てるのは…」


 そう言って受付嬢はでかいファイルを取り出した。


「今出てるのは、恒常的にある魔族の討伐依頼、薬草の採取依頼ね。ついでに依頼書の見方も教えてあげるわ。依頼書の左上を見て。」


 依頼には5つの種類がある。討伐依頼、採取依頼、狩猟依頼、護衛依頼、調査依頼だ。依頼書の左上には5つの中のどの依頼に相当するか、マークが書いてある。討伐依頼なら剣のマーク、採取依頼なら鎌もマークといった感じだ。依頼書に描いてあるマークと絵で大体の依頼は分かるらしい。分からなければ受付嬢に聞いても良いようだ。




「ありがとうございました」


 受付嬢に礼を言い、オレはギルドの外に出た。そして考える。どうやったら効率よく金が稼げるだろうか。ゲームの知識も総動員して考える。やっぱアレしかねぇかな。

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