第29話 冒険者ギルド本部

「そこのフードの!止まれッ!」


 さて、これからがんばるぞ!っと城塞都市ハーリッシュに足を踏み入れようとしたら、門番に呼び止められた。周りを確認するが、フードを被っているのはオレだけのようだ。たぶん間違いなくオレのことだ。自分の顔を指さし、門番のルドネ族に確認する。


「そうだ。お前だ」


 やっぱりオレに間違いないらしい。ハーリッシュの西門はかなり人通りが多い。こんなに多くの人が行き来しているのに、呼び止められているのはオレ一人だ。何故だ?


「そこを動くなよ」


 門番のルドネ族がこちらに向かってくる。周りを行き交う人も、どうかしたのかと見てくる。すっごい注目を浴びている。恥ずかしいのと同時に、マズいことになったと危機意識が働く。いくらルドネ族がネクロマンサーを嫌悪しないにしても、ここには他の種族も大勢いる。できればネクロマンサーバレはしたくない。


「フードを取るんだ」


 目の前に来た門番がオレに指示する。できれば取りたくない。でも取らないわけにはいかないだろう。大丈夫、ルドネ族はネクロマンサーを迫害しない。昨日の宴会の風景を思い浮かべながら、自分に言い聞かせる。ネクロマンサーとバレないことを祈りつつ、フードを取った。


「うげっ、なんだその入れ墨は。気持ち悪い奴だな」


 シンプルな悪口が俺の心を傷つける。あーうん、たしかに禍々しい感じだし、気持ちは分かるけど…ひどくないか?


「門はフードや帽子の類は取る決まりだ。覚えておくように。行っていいぞ」


 予想に反して、すぐに解放された。ひょっとするとネクロマンサーだとバレていない?それとも門番がルドネ族だからネクロマンサーだと知っても動じなかっただけだろうか?

 オレは周りの反応も気になって、後ろを振り返った。何人かと目が合ったが慌てて逸らされてしまった。この反応はどう読むべきだ?

 まぁ騒ぎにならなかっただけでも良しとしておくか。オレはフードを被り直し、速足でハーリッシュの中へと足を進めた。



 何をするにも先立つものが必要だ。オレは早速布を服屋で売った。正直、布の売値が適正だったのかは分からない。布の相場なんて知らないし。でも大通りに店を構えていたし、大丈夫だろ。けっこうな額貰ったしな。


 そして、オレはその店でパンツを買った。そう、パンツである。やっと、ノーパン卒業である。長かったな…この世界に来て何日経ったのかは分からないけど、随分長い間ノーパンだった気がする。ついでに服も新調したかったが、お店に置いてある服はどれも高くて買えなかった。ちくしょう。


 次は何をすべきだろうか?早速散財してしまったから、金を稼がないとな。アウラもビックになって欲しいようだったし。ということは冒険者ギルドか。オレの修めているスキル的に冒険者以外に道がない。それとも心機一転、別の道を模索してみるか?でも別の道を行くにもお金がかかるだろう。どうせ最初は資金集めの為に冒険者か。



 そんな訳でやって来ました冒険者ギルド本部。本部と言うだけあって大きい。立地もハーリッシュの中央にあり、大通りにも面している。一等地と言ってもいいのではないだろうか。流石は本部だ。オレは大きく立派な建物に気後れを感じつつ、中に入るために扉を開いた。

 瞬間、中に居た様々な種族の視線が集中する。ここは人族の対魔族最前線。そんな所にいる冒険者だからか、視線に力がある気がする。顔に穴が空いちゃいそうだ。オレに視線が集中したのは一瞬のことだった。今はオレから興味を無くしたように視線は離れていった。ホッと一息つき、カウンターへと歩き出す。前に冒険者ギルドに登録したのは随分前だ。あの後ネクロマンサーだとバレてるし、登録も破棄されているかもしれない。ここは一度確認した方が良い。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


 受付嬢のルドネ族が、こちらに愛想よく語りかけてくれる。なんだか小さい子がごっこ遊びしているみたいでかわいい。


「登録の確認で来ました。破棄されているようなら、新規登録もお願いします」


「破棄?分かりました。確認しますので、こちらに手をお願いします」


 そう言って受付嬢が銀色の球体を示す。銀色の球体はカウンターから浮いており、表面はつるりとしていて、よく磨かれているのか、鏡の様に周囲の景色を映している。オレは言われた通り手を乗せる。


 ビービービービービービー


 突然、警報のような音が大音量で流れ出す。出所は銀色の球体だ。え?オレ何かやっちゃいました?


 ガタッ


 物音が聞こえて後ろを振り返ると、冒険者達が立ち上がり、こちらにゆっくりと距離を詰めてくる。その目は真剣だ。まるで敵と出くわしたかのように険しい表情で、中にはもう剣を抜いている者もいる。彼らの視線はオレに注がれていた。何が起こってるのか分かんないけど、これマズイ状況じゃね?

 彼らはオレから2メートル程の所で止まる。見るとカウンターの奥からも武装した人がぞろぞろと出てくる。完全に囲まれてしまった。オレの目の前にいたヒューマンの男が腰の剣を抜き、言い放つ。


「大人しくお縄につくんだな、犯罪者!」


 犯罪者!?やっぱこの国でもネクロマンサーって犯罪者なの!?

 マジか…ルドネ族の反応からして大丈夫だと思ったんだけど…民間では大目に見られているけど、法的には犯罪とか?やべぇわどうしよう?また白虎で切り抜けるか?でも、こんな近くまで接近されると、召喚の隙に斬り殺されそうだ。相手はもう抜刀しちゃってるし。ヤバイ、いい考えが浮かばない。これは…詰んだ?

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