第9話 世知辛い世の中
冒険者の登録ってお金かかるの…!!!!????
今のオレは一文無しだ。お金なんて持って無い。お金が無いから冒険者として稼ぎたかったのだが…。
「払えませんか?」
「はい……」
受付嬢さんの話では、この登録料を払えないことはよくあることらしい。そういう場合は、払い終わるまで報酬から少しずつ天引きされることになる。払えなければ登録できない、とかじゃなくて良かった。
無事に登録を終えて、今度は受付嬢さんに聞きながら依頼を吟味する。
「これはライールシープの狩猟依頼、これはゴブリン、コボルトの討伐依頼です」
狩猟依頼は依頼された部位を、討伐依頼は討伐の証として右耳を持って来れば依頼達成だ。依頼はこの3つだけだった。この3つは恒常的にあるものらしい。
ライールシープは一体10000ルピス、ゴブリン、コボルトは一体1000ルピスの報酬がでる。報酬的には羊一択だけど…狩猟依頼というのが厄介だ。肉や毛皮を持って帰らないと依頼達成にならない。鞄に羊一体入るようなスペースは無いし、これはコボルトかなぁ…巣の場所知ってるし。
問題は池まで戻ることになるけど、いいか、別に急ぐ旅じゃないし。
「ありがとうございました」
受付嬢さんにお礼をしてギルドの外に出る。上を見上げると、太陽がまだ東の方に傾いていた。
まだお昼にもなってないか。今日の内に戻れるだけ戻ろう。少し名残惜しい気持ちになりながら、オレは町から出て来た道を戻っていく。町に居てもやれることないしね。なにせ金が無いからな!
池に戻る途中、日が暮れてきたので、昨日と同じように街道を逸れ、5分ほど歩いたところをキャンプ地にした。今日のメンバーもハインリス、エバノン、クレハだ。
エバノンにはまた食糧調達を頼む。毎度毎度申し訳ない。もうクッキーも残り少ない。エバノンの獲ってくる食料が生命線だ。
クッキーを食べ終えて、少し2人と話をして床に就く。横になると自然と夜空が見える。自分の知っている星座が無くて、自分が今異世界に居る事を強く実感させられた。何故か両親や友達の事ばかり思い出してしまう。もう会えないかもしれないと思うと、自然と涙が溢れてきた。慌てて腕で涙を拭い2人に背を向けた。泣いてるとこ見られるなんて恥ずかしいからな。
◇
次の日も太陽が昇る前に動き始めた。昨日よりも若干早いかもしれない。まだ薄暗い中、エバノンが兎を焼いてくれた。ライール高原には羊が多くいるが、兎も多いのだろうか?
何故獲ってくる獲物が兎ばかりかというと、羊を獲っても食べきれないし、荷物になるからわざわざ兎を探してきているらしい。エバノンの顔に似合わない優しさが心にしみるぜ。
朝食を食べ終わると3人を送還して街道に戻る。街道にはボチボチ人影があった。この世界の人たち、朝早いな。
昨日来た道を戻っていく。この戻るというのが意外と徒労感が大きい。心にくる。目的地がこっちなのだから仕方ないけどさ。
今日は早めに動き出したおかげか、お昼前には池にたどり着いた。池の畔には馬車が数台止まっており、馬に水を与えていた。ここは絶好の休憩スポットになっているらしい。目的地のコボルトの巣はもうちょっと先だ。池を挟んで街道とは反対側にある。
池から歩くこと30分程。漸く目的地に続く目印、大地が裂けたような形の大穴を見つけた。この大穴の底に横穴が開いており、そこが今回の目的地、コボルトの洞窟になっている。早速攻略する前に、まずは腹ごしらえだ。
兎肉に齧りつきながら、大穴の壁を見渡す。ゲームでは降りられる場所があったんだけど…ひょっとしてあれかな?デコボコの岩肌に隠れてスロープの様になっている場所を見つけた。あそこからなら降りられそうだ。
昼食を食べ終え、スロープから大穴の底に降り立つと、ゲームの通り洞窟の入口が見えた。コボルトの姿はまだ見えない。まずは他の冒険者の有無の確認だ。死霊魔術を見られるわけにはいかない。居ないと良いけど…。
出来る限り忍び足で近づいて洞窟の中の様子を探る。何の音も聞こえない。もうちょっとだけ入ってみるか。岩陰からこっそり覗きこむと、床にダランと座っていたコボルトと目が合った。オレ達はそのまま数秒見つめ合った。運命の出会いかもしれない。
「Ahoooooooooooooooooooooooooon」
先に自分を取り戻したのはコボルトの方だった。けたたましい咆哮が洞窟内に響き渡る。
「出でよ、ディアゴラム」
遅れて数瞬、漸くオレの頭が動き出し召喚を唱えた頃には、コボルトが咆哮を上げながら突っ込んできていた。マズイ、完全に出遅れた。立ち位置がオレ、コボルト、ディアゴラムになってしまっている。ディアゴラムが突破されてしまった。
ネクロマンサーの負けパターンの一つだ。どんなに英霊が強力でもネクロマンサー自体は撃たれ弱い貧弱なHPしか持っていない。術者本体を狙われるとネクロマンサーは弱い。
ダメージを覚悟して両腕を上げて防御しようとした。間に合うか?間に合った。目はいつの間にか固く閉じられていた。だって怖いんだもん。
顔の左を何かが高速で通り過ぎる風音が、ブオンと左耳を打つのが分かった。それから前方でドサリと何かが落ちる音が聞こえた。予想していた衝撃は未だ来ない。おかしい。
恐る恐る目を開けると、ディアゴラムがこちらに半身を向けて刀を振りぬいた姿勢で止まっていた。
「コボルトか…」
どこか残念そうな呟きが洞窟に響いた。
え!?え!?ディアゴラムがコボルトを斬ったの?完全に裏をかかれたのに?後ろに目でも付いてるのかよ!?達人かな?達人なのかな!?
首を失ったコボルトの死体が、オレとディアゴラムの中間に転がっていた。顔の横を通り過ぎて飛んで行ったのって、もしかしなくても首か?後ろを振り向くと、地面に転がったコボルトの首と目が合った。よくよく目が合うな。
「「「「「Ahooooooooooon」」」」」
「「「「Ahooooooooooooooon」」」」
洞窟内部はコボルトの遠吠えがいくつも鳴り響いている。きっと侵入者有りの警戒の遠吠えだろう。
ディアゴラムは遠吠えに誘われるように奥へとスタスタと進んで行ってしまった。あの、オレの護衛は?
慌てて追いかけようとして、気が付いて入口に引き返す。耳取ってなかったや。
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