第8話 野宿と冒険者ギルド

 街道はすぐに見つかった。さすがハインリスだ。頼りになる、なりすぎる。


 南に向かって歩いていると、思ったよりも多くの人とすれ違う。みんな集団で移動しており、武装をしている者も多い。この世界、物騒だからね、仕方ないね。昨日も馬車が襲われていたし。


 こうして街道を歩けるのも、あの護衛の男が外套をくれたからだ。彼の優しさに感謝だな。



 夕方近くになると街道から徐々に人が減り始め、夕方には一人もいなくなっていた。どうしたんだろうと思っていたが、どうも皆、野宿の準備をしているらしい。たしかに明るい内に準備したほうが良さそうだ。だが…どうするか?



 オレは考えを決め、街道から逸れ、草原を突っ切っていく。寝ているときは無防備になる、誰か見張りを立てるべし。ハインリスとの約束だ。でも誰を呼ぼう。ハインリス、エバノンは確定だ。ハインリスは盾だし、エバノンには狩りを頼みたい。となると、足りないのは火力かな。昨日は剣士呼んだし、今回は魔導士でいいか。うん、クレハにしよう<火魔導士>クレハ。




 このくらい離れれば良いかな。


「出でよ、ハインリス」「出でよ、エバノン」「出でよ、クレハ」


 ハインリスとエバノンはやっぱり警戒しながら現れた。もはやお家芸と言っても良いかもしれない。そして一番酷いのはクレハだ。もう杖を振り上げて魔法の詠唱に入っている。


「ストップ、ストップ、ストォーップ!!クレハ、敵はいない!!」


「あらそうなの」


 組み立てられていた魔術の暴力的な気配が、詠唱の中断と共に霧散していく。ほっと一息だ。クレハは悪気も無さそうに、片手で自身のツインテールの毛先をいじり始めた。クレハは十代後半の見た目をした美少女だ。そのプロポーションは英霊の青白い体であっても目が引き寄せられていくほど。そんな彼女だが、所謂ツンデレだ。今だって悪気無さそうな態度だが、「あたし何やってるのよ。あたしのバカバカ」と自分を責めてるに違いない。クレハの釣り目がちな目がこちらを向く。


「それで、何の用よ?」


 このぶっきらぼうな態度も後で一人反省会している。なんだこいつかわいいなー。


「ハインリスとクレハには睡眠中の護衛を頼みたい。エバノンさんには食料の確保を」


「もう夜だ。狩るのには時間がかかる。今日のところはクッキーでも食ってろ」


「うぃーす」


 今日は半日も歩き通しだった。流石に体が疲れてきた。今日は早く寝よう。3人は自己紹介をしているらしい。それをぼーっと見ながらクッキーを齧る。


「あんた、何見てんのよ?」


 いつの間にかクレハばかり見ていたようだ。おのれ、おっぱい。


「かわいいなと思って」


「は!?意味分かんないんですけど!?」


 クレハが向こうを向いてしまった。こういった攻撃に弱いところもかわいい、すき。



 さてクッキーも食べ終わったし、そろそろ眠くなってきた。寝よう。横になった後、ハインリスに「あまりからかってやるな」と怒られた。反省。



 ◇



 今日は日が昇りきる前に目が覚めた。こんな早起きしたのいつ以来だ?起き上がってみたら、背中は痛いし、手足は重いしで最悪の気分だ。寝る前より疲れてないか?これ。


「起きたか、アルビレオ」


「ハインリスおはよう、クレハ、エバノンもおはよう」


「おはよーさん、今兎を焼いてやる」


「…おはよ」


 エバノンはまた兎を狩ってきてくれたらしい。めっちゃ助かる。クレハは腕を組んで、こちらを睨み付けている。そんな恰好しても胸が強調されるだけなんだが。これは昨日の「かわいいな」を冗談やからかいだと判断したんだろう。まぁ正解である。昨日のオレはクレハを生で見て舞い上がっていたんだろう。自分でも、なんであんなこと言ったんだか分からない。ハインリスにも言われたし、謝った方がいいのかな?でも、かわいいって言ってごめんってなんか変だよな。


「焼けたぞ」


 いつの間にか結構時間が経ってたらしい。クレハのことは保留だ保留。かわいいものにかわいいと言って何が悪い。


「いただきます」


 兎串に塩をかけてほおばる。うまい!味的にも見た目的にも甘い焼き鳥を食べてる感じだ。酒が欲しい。


 兎もいいけど、そろそろ野菜も取らないとな…栄養バランス偏り過ぎだろうし。でも、野菜を買うにも靴を買うにも鍋を買うにも金が必要だ。金、かね、カネ。冒険者になれば金策ができるけど、それまでどう凌ごうか…。


 まぁ今悩んでも仕方ないか。今日も南を目指そう。目的地は遠いなー。



 朝食後、ハインリス達を送還し街道に戻ってきた。まだ朝の早い時間だというのに、それなりの数の人々が街道を往来している。みんなこんな早くから動いてるのか。オレも彼らに負けないように南への道を急いだ。



 2,3時間歩いていると前方に建物が建っているのに気が付いた。何だろう?ライール高原に建物なんて無かったはずだけど…。ゲーム知識との差異に混乱しつつも、足早に近づいていくと、巨大な牧場を有する結構大きい町だと分かった。なんでこんなところに町が?でも実際に町があるし…。まぁいっか。考えても答えなんて出なそうだし。



 この世界初めての町にちょっとドキドキした。もしかしたら冒険者ギルドもあるんじゃないか?こんだけ大きい町だし。


 町は街道を中心に左右に分かれて広がっているらしい。街道沿いには商店や出店が並び客を呼び込んでいる。道行く人も結構多い。活気があると思った。


 商店を覗いてみたい気持ちをグッとこらえつつ、冒険者ギルドを探す。




 冒険者ギルドは意外とすぐに見つかった。結構大きい建物だ。盾の前で杖と剣が交差しているマークは、間違いなく冒険者ギルドのマーク。ゲームと一緒だ。


 早速中に入ると、予想に反してギルドの中は閑散としていた。カウンターは5つもあるが、受付嬢は1人しかいない。客もオレしかいない。流行ってないのかな?


「すみません。冒険者の証の再発行をお願いしたいのですけど…」


「はい、再発行ですね。ではこちらに手をかざしてください」


 そう言うと、受付嬢さんは横の銀色の玉が浮いているオブジェを指した。これ、只のオブジェじゃなかったのか。こんなの冒険者ギルドにあったっけ?戸惑いながら言われた通り手をかざす。


「うーん。未登録ですね。本当に冒険者をされていましたか?」


 予想はしていたけど、やっぱりダメか。せっかく面倒なクエストとかクリアして、一級まで上げたのに…。仕方ない、次善の策で新規登録だ。


「ごめんなさい。新規登録をお願いします」


「はぁ。分かりました」


 怒らせちゃったかな…?その後も受付嬢さんの指示に従って書類を書いてもらったり、もう一度手をかざしたり、冒険者のルール説明を受ける。この世界の文字を、オレは読むことも、書くことも出来なかった。だから受付嬢さんに代筆してもらう。受付嬢さんの話によれば、読み書き出来ない人は結構多いとのことだった。慰めてくれているのだろうか。



 冒険者への依頼は朝早くに依頼ボードに貼りだされるらしい。朝早くに依頼を受けて、みんな今仕事中みたいだ。流行ってないわけじゃないようだ。


 文字読めないと、依頼を受注できなくないかと思ったが、依頼内容は聞けば教えてくれるようだ。それでも、読み書きはできた方がいいだろう。覚えられるだろうか?英語もまともに覚えられなかったのに、覚えられる気がしないよ…。


 他にも、人の物をとってはいけない、ケンカはしてはいけない等ルール説明が続く。幼稚園かな?



「では最後に、冒険者登録料10000ルピスになります」


 えっ…?????

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る