第7話 ゲームの設定とこれから
チュンチュンチュン
小鳥のさえずりで目を覚ますなんて優雅かな?久しぶりにゆっくり寝た気がする。日本では寝る間も惜しんで『ファイナルクエスト』やってたからなー。頭が軽いぜ。
優雅な気分に浸りながら、上体を起こす。痛ででででで。背中が凝り固まってる。優雅な気分が台無しだ。まぁ地面で寝てるんだ、優雅もクソもない。
目が覚めたのは日本のマンションではなく、草原だった。これは本格的にこちらでの身の振り方を考えたほうが良いかもしれないな……。
それにはまず、情報が必要だ。オレは『ファイナルクエスト』の設定を思い出せるだけ思い出す。
まず、今のこの世界は、3つ世界が融合した世界だ。
女神フォルトゥナの創ったエルヴィン、ドガス、ヒューマン、ルドネの暮らす人族の世界
邪神アパタルトの創ったリザードマン、ラミア、トードマン、トータスの暮らす魔族の世界
忘れ去られた神の創ったゴブリン、コボルト、フェアリー、オークの暮らす妖精族の世界
元々はそれぞれ別々の世界として存在しており、それぞれ唯一神が世界を治めていたのだが……。
まず、邪神アパタルトの作った世界と忘れ去られた神の作った世界が融合した。
世界の神の座は1つだけ。
魔族を率いた邪神アパタルトと、妖精族を率いた忘れ去られた神の、世界の神の座を賭けた戦争が起こる。勝ったのは邪神アパタルトだった。忘れ去られた神は消滅。妖精族は魔族の支配下に置かれることになる。
次に女神フォルトゥナの作った世界と邪神アパタルトの作った世界が融合した。
世界の神の座は1つだけ。
人族率いたフォルトゥナと、魔族と妖精族を率いた邪神アパタルトの世界の神の座を賭けた戦争が起こる。これを人魔大戦と呼ぶ。
人魔大戦は、長期間に及び世界中を吹き荒らした。これにより、失われた技術や魔法がいくつもあるらしい。
人魔大戦において、人族は緒戦から苦戦を強いられ、やがて防戦一方となる。これにはいくつか理由がある。
兵力の問題。人族よりも魔族・妖精族連合の方が兵力が多かった。
神格の問題。女神フォルトゥナよりも邪神アパタルトの方が、忘れ去られた神の力を吸収した分、力が上だった。それは神の加護という形で現れ、強力な加護を得た魔族に人族は抵抗むなしく敗れていった。
敗戦を重ね、もう後がない人族は、逆転の一手として邪神の暗殺を試みる。
女神フォルトゥナの依代であった聖女を前線に上げて、敵の注目を集め、各国から選ばれた勇者率いる部隊が戦場を迂回。敵部隊後方に居る邪神の依代である魔王を暗殺する計画だ。
暗殺は成功した。
聖女の居る城塞都市ハーリッシュは陥落寸前だったが、なんとか魔王の暗殺が間に合い、女神フォルトゥナは神の座に復活する。
邪神アパタイトの依代であった魔王が暗殺されたことで、邪神アパタイトは、世界に与える影響力を消失。突然、神の加護を失った魔族達は動揺、混乱し兵を引いた。
人魔大戦にて人族は多大なる犠牲を払いつつ、辛くも勝利した。
だが、大きな問題が1つある。
邪神アパタルトの力が大きすぎて消滅しきれず、やむを得ず封印という形になってしまったという点だ。
邪神アパタイトは、忘れ去られた神の力を吸収した分だけ、女神フォルトゥナよりも力が上だったのだ。単純計算でも2倍の差がある。むしろ、よく封印できたなと驚くべき事態かもしれない。
女神フォルトゥナは封印の維持の為に力を割かねばならなくなった。そのため、人族が受ける加護の力は大戦期に比べるとずっと小さくなってしまった。そのことが、人族の魔族への反撃の矛先を鈍らせている。魔族も同じだ。加護を失ったことで慎重になっている。そのことが一種の冷戦のような状態を生みだした。
そんな冷戦期に登場したのが、冒険者の祖アルルマイヤー・パドリックだ。彼は邪神の領域から、「女神の世界には存在していなかった物」を多数持ち帰った。文字通り異世界の産物は、高値で取引され、そのことが冒険者ブームを引き起こした。人族の各国も、兵を派遣するよりも、冒険者に魔族の動向を探らせた方が安上がりとして冒険者を黙認し、ブームは更に広がった。
プレイヤーは冒険者に憧れて各国の首都に上京してきたおのぼりさんという設定だ。そこからは冒険者として冒険してもよし、職人として物作りに従事してもよしと、比較的自由度の高いゲームだった。
オレは『ファイナルクエスト』の設定を思い出しながら考える。
やっぱり冒険者が一番手っ取り早いか、もしかしたら冒険者の証も再発行してもらえるかもしれないし。ゲームの中でオレは冒険者の最高峰、一級冒険者だった。もしかしたら、その記録が残っているかもしれない。
一級冒険者なら多少は社会的信用もあるんじゃないか?殺すには惜しいと思わせれば、もしかしたら処刑も回避できるかもしれない。
この路線でいくか?物作りのクラフト系は儲かるらしいが、オレのクラフトスキルは木工の2が最高だった気がする。999でカンストしている死霊魔術と比べるのも烏滸がましい程の差がある。というか、オレのスキル構成は死霊魔術特化だ。他のスキルはみんな0か一桁だ。
…冒険者以外道がないような気がしてきたなぁ。
となると、やっぱり冒険者の聖地、城塞都市ハーリッシュに行ったほうが良いのだろうか?近場の都市、帝都カルセマイアには検問があって入れないみたいだし。
城塞都市ハーリッシュはここよりずっと東だ。その東には緩衝地帯になっているマチルドネリコ連邦東部領、そのまた東には邪神領となっている。城塞都市ハーリッシュは、いわば人族の対魔族最前線だ。その分、要求されるレベルは高いが、戦利品も相応に高くなっている。その中でも低めのやつを狙って、無理をしない程度でも十分稼げるだろう。それに城塞都市ハーリッシュは、自由と実力主義な気風だ。実力を示せば、ネクロマンサーも受け入れてもらえるかもしれない。
よし、こんなところか。とりあえず城塞都市ハーリッシュを目指そう。
考えがまとまりようやく頭を上げた。辺りを見渡すとハインリスとエバノンの姿はなかった。眠ってる途中で召喚維持費でHPが切れちゃったのかな。
昨日焼いた兎の肉に塩をかけて食べる。おぉパサついてるけど結構いける。塩って偉大だ!食べながらどうしようか考える。城塞都市ハーリッシュに向かうと決めたはいいが道がわからない。
ここはもう、困った時のハインリスだ。
「出でよ、ハインリス」
空間の歪みから出てきたハインリスは即座に腰を落とし、戦闘態勢をとる。相変わらず好戦的だね、ハインリス。戦闘ではないと気付いたのかハインリスがこちらを向く。
「やっと起きたのか。送還前に貴様を起こそうとしたのに全く起きなかったぞ」
うげ、そうだったのか。それは悪いことをした。
「私達が送還された後もしばらく寝ていたようだし、図太いといえばいいのか、阿呆といえばいいのか」
「ごめんなさい」
「眠っている時間は無防備だ。誰かに警戒を頼んだほうが良いだろう
「そうするよ。ところでなんだけど、これから城塞都市ハーリッシュに向かいたいんだけど道は分かる?」
「ハーリッシュか。途中までならば。まずは街道に出て南に進めばいいだろう」
「街道ってどこにあるの?」
「昨日、跨いたんだがな…。いいか、ここから、こちらの方向に進むと、草の生えていない一本道に出る、そこが街道だ。そのあとはその道に沿ってフロストイド山脈を背に向けて歩いていけばいい」
懇切丁寧に説明してくれた。
「いいか、アルビレオ。街道では人の往来がある。死霊魔術は使えんと思ったほうが良い。せいぜい、気を付けることだ」
確かにそうだ。人前では死霊魔術は使わないほうが良い。お尋ね者はごめんだ。
「忠告ありがとう、ハインリス」
「別に構わない、もう行くなら私を送還してから行けよ」
「分かった。行ってくる。ハインリス、送還」
よし、行くか! 準備はバッチリだ。いざ、街道デビュー!!
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