第27話 宴

「じゃあ早速、族長が決まったことを皆に伝えないと。今夜は宴よ!アルビレオさんも、ぜひ参加してくださいね」


 そう言ってイリエルが部屋を出て行った。宴って何やるんだろ?聞けば、新しい族長を祝って宴会をするのが決まりらしい。ハスティとアウラは宴会の為の準備に国境の町まで買い出しに出かけていたようだ。でも、族長亡くなってるんだけど…葬儀とかいいんだろうか?


「葬儀は新しい家長、マリエルが執り行うことになるな。父の遺体は魔法で痛むのを抑制している。まだ大丈夫だ」


 エリザ曰く、家長が決まらないと葬儀も執り行えないようだ。そういった意味でも早く族長を決めたかったらしい。なので先に族長が決まった宴の後、改めて葬儀を執り行うようだ。そういうものなのか。それがルドネ族の決まりだというのなら従っておこう。


「まだお父さんと話せますか?」


 マリエルが話しかけて来たので頷くことで返す。


「お父さん、まだ自信はないけれど、お父さんが私を選んだことを後悔しないように、私がんばるね。がんばっていい族長になる」


「私も誓う。マリエルを支え続けると。そう父に伝えてくれ」


「お二人の言葉はちゃんと届いていますよ」


 族長の方を見ると何度もうなずいていた。


「お父さん…。どうしてこんなに早く…」


「マリエル…」


 マリエルの声に嗚咽が混じる。目には光るものが見えた。そんなマリエルにエリザがそっと肩を寄せる。


「二人とも…すまぬ、すまぬなぁ…」


 しんみりとした雰囲気だ。こういう空気は苦手だ。こっちまで悲しくなる。そんな時、イリエルが部屋に戻ってきた。


「さ、マリエル。皆がマリエルのこと待ってるよ。顔を見せておあげなさい」


「母上、マリエルは今…。」


「お姉ちゃん、もう大丈夫。あんまり泣いてるとお父さんにがっかりされちゃうもん。私、行ってくるね」


 マリエルは服の袖で涙を拭うとイリエルに連れられて外に出て行った。なんていうかマリエルは健気だ。それにしても…イリエルは夫を亡くして悲しくないんだろうか?


「母上…。アルビレオ殿、母上を悪く思わないでくれ。母上は父上を亡くした悲しみのあまり、仕事に打ち込んで悲しみを紛らわそうとしているんだ。夜になると父上の亡骸にすがって泣いているのをよく見る」


 そうなのか…。そりゃ悲しくないわけないよな。家族仲は良好のように見えるし。オレは一瞬でもイリエルのことを疑ってしまった自分の心を恥じた。


「さぁ、これから楽しい宴会だ。そんな悲しそうな顔など、どこかに放ってしまうといい」


 そう言ってエリザは笑った。強いなぁ。エリザは心が強い。そう思った。オレもエリザに負けないように笑顔を浮かべた。



 宴会はなんていうかカオスだった。初めのマリエルの族長就任の挨拶までは厳かな雰囲気だったんだが…。

 場所は族長の家の前、広場の様に開けたところで宴会は行われている。そこに一家族ごとに集まり、大きな円を描くように皆が集まっている。その円の中心で歌ったり、踊ったり、楽器を演奏したり、芸を見せていく。だが、特に順番などは決まっていないようで、時にはバッティングすることもある。その場合、違う歌をお互い大声で歌いあったり、魔法の腕を競い合ったり、時には協力して楽器でセッションしたりいろいろだ。幼稚園のお遊戯会のような、見ていて和むようなものから、見ているこっちがハラハラドキドキするものまで様々だ。意外と楽しい。料理もおいしいしね。


 料理は羊を使った料理がメインだった。独特のクセがあるがうまい。ハスティとアウラにご馳走された朝食も羊肉だったみたいだ。まぁこれだけ大量に羊を飼ってるしね。食べもするか。美味しい料理に楽しい出し物でお酒が進む。お酒はいろいろ用意されていたが、オレはワインを選んで飲んでいた。どうやらこれもハスティとアウラが運んできたもののようだ。久しぶりにお酒を飲んだからかお酒の回りが早い。もうかなり酔っていると自覚できる。ぽーっとしてきた。そんな時。


「ネクロマンサーの技を見てみたいな」


「そうだな。何か芸をやれ、ネクロマンサー」


「「「「「ネクロマンサー、ネクロマンサー、ネクロマンサー、ネクロマンサー」」」」」


 突如として起こったネクロマンサーコールにオレは慌てた。おいおい、オレは芸なんてできないぞ?どうする?アルコールで朦朧としていた頭に冷や水を浴びせられたみたいだ。酔いも吹っ飛んだ。周りに囃し立てられるままに円の中央に立ってしまう。どうしよう。ここまで来たらもう戻れないぞ。アルコールで蕩けた頭で必死に考える。そうだ、オレが芸できないなら、出来る奴を呼べば良い。


「出でよ、アーテナ、リーヨ」


 オレは<吟遊詩人>アーテナと<踊り子>リーヨを召喚した。アーテナは長く尖った耳を持つエルヴィン族の女だ。その恰好は豪華というか装飾過多な派手な衣装を身に纏っている麗人だ。リーヨはヒューマン族の女だ。その恰好を見たとき、オレは思わず二度見してしまった。なんとリーヨの格好は包帯のような細長い布を巻き付けただけの格好だった。なにこれエロい。こんなのいいの?英霊の透き通った青白い身体が、こんなに惜しく思える日が来るとは…。


「これはなにかの宴会かしら?」


「アル、敵はいないみたいだけど…どうしたらいい?踊る?」


「これはルドネ族の族長就任の宴なんだ。二人には何か芸を見せてもらえたらって、お願いできない?」


「そういうことでしたら、構いませんわ」


「いいよー」


 良かった、了承してもらえた。二人はしばし見つめあうと頷きあう。そしてアーテナが持っていた琴を鳴らし始めた。弾むような楽しい感じの曲だ。その音に合わせてリーヨが踊り始める。飛んだり跳ねたり軽やかな踊りだ。おっぱいもぽよんぽよんだ。リーヨの胸から目が離せない。リーヨも気が付いたのかこちらに踊りながら近づいてきた。やばい、怒られる。


「さ、見てないで、アルも一緒に踊りましょ?」


 リーヨがこちらに手を伸ばしてきた。怒られずにすんでよかったが、一緒に踊る?オレが?オレは踊れないぞ。


「いや、でも」


「さあ、こっち」


 まごまごしていると、リーヨに強引に手を引っ張られてしまった。くそっ、こうなったらオレのへたくそなダンスを見せつけてやるぜ!オレはリーヨに手を引かれるままに踊り続ける。リーヨはそんなオレの回りをクルクルと楽し気に踊っていた。なんかだんだん楽しくなってきたな。気が付くとオレたちの回りをルドネ族が踊っていた。アーテナの琴の音に合わさるようにいくつも音が聞こえる。どうやら何人か楽器で一緒に演奏しているようだ。みんな乗ってきたみたいだ。それがなんだか嬉しかった。


「Fooooooo!」


「お、アルも乗ってきたみたいだね」


「リーヨ、おっぱいさわっていい?」


「ダメに決まってんでしょ!」


 ちぇっ、ダメか。でもいいや。なんか気分良いし。オレはその後も羽目を外して踊り続けた。




 その結果。


「うおぉぉぇえ」


「もう、何やってるのよ…」


 アウラに背中をさすられて盛大に吐いていた。気持ち悪い。おえ。アウラは、突然ダンスを止め物陰に走っていったオレを心配して来てくれたようだ。アウラ優しい。


「アウラ、ありが、うぷっ」


「はいはい、いいから吐いちゃいなさい」


 はぁはぁ。漸く落ち着いてきたか。涙目になりながらアウラの肩越しに踊っているリーヨやアーテナ、ルドネ族を見る。


「なんかいいなぁ」


「何も良くないわよ。心配して見に来れば、いきなり吐いてるし」


 その節はお世話になりました。いや、そうじゃなくて。オレは英霊が普通に受け入れられているこの光景がいいなと思ったのだ。今まで出来るだけ英霊を人の目に触れないようにしてきたが、この国でならそんなこと気にしなくてもいいのかもしれない。ネクロマンサーも受け入れられてるみたいだし。それが一番うれしい。


「何笑ってるのよ?」


「いや、ちょっとな」


「どうでもいいけど、早く口の周り拭きなさい。汚いわよ」


 締まらないなぁ…。

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