第26話 族長は誰に?
集落に入ると、やっと馬から降りることができた。もう足は生まれたての小鹿のようにプルプルだし、ケツがかなり痛い。割れちゃいそうだ。
本当はこのまま地面に寝転んでしまいたいのだが、先程の皆を集めると言っていた人がもう集めて来たのか、多くのルドネ族がオレを遠まきに見ている。無様はさらせないな。なんだか幼稚園の先生になった気分だ。
「おかえりハスティ、アウラ。ネクロマンサーを連れ帰ったって本当かい?もしかしてそっちの?」
「そうよ。彼がネクロマンサーのアルビレオ。昨日、偶然会ったのよ」
「おやまぁ。これも女神さまのお導きかねぇ」
「お母さん、族長の家に報告に行かないと」
「そうね。皆、ちょっと通してちょうだい。さ、アルビレオさんも付いて来て」
ハスティとアウラがルドネ族の中を進んでいく。オレもギクシャクした動きで二人に続いた。ルドネ族って本当に小さいな。大きくてもオレの腰くらいまでしか身長がない。
後ろにルドネ族をぞろぞろ引き連れて族長の家に向かう。族長の家は集落の真ん中にあった。周りのものより大きな家だ。
「入るよー」
ハスティは言うなりドアを開けて族長の家に入っていく。アウラも続いて入っていく。え?そういう感じ?オレは入っていいのだろうか?
「ほら、あなたも入ってきなさい」
入っていいんだ。もっとこう、呼び鈴とかノックとかないのかよ。ルドネ族用の小さなドアを腰をかがめてくぐる。
中に入って分かったが、ルドネ族の家は木の枠組みに天幕を掛けた、まるで頑丈なサーカスのテントのような作りだった。明かりとりの為に屋根の天幕が一部外されていて、中は意外と明るかった。床や壁には緻密な刺繍が施された絨毯が彩を添えている。
「誰かと思えば、ハスティにアウラかい。今戻ったのかい?面倒な役目を任せてしまって悪かったね」
奥の仕切りから一人のルドネ族が姿を現した。
「いえいえ。私達も欲しいものがあったし、丁度良かったよ。あぁそれでね、帰りにネクロマンサーに会っちゃって、もしかしたらと思って連れてきちゃったんだよ」
「ネクロマンサー!?それはなんとも…。旦那は信心深かったから、女神さまが遣わしてくださったのかねぇ。もしかしてそちらが?」
「そう。こちらネクロマンサーのアルビレオさん。アルビレオさん、こちら族長の奥さんのイリエルさん」
このおさげの幼女が人妻。しかも族長の奥さんとか。常識が壊れるなぁ。イリエルさんと挨拶を交わす。じゃあ早速、族長の所へという時、ドアが開いて二人のルドネ族が入ってきた。
「母上、今皆がネクロマンサーが来たと…」
「あぁ、エリザにマリエル。丁度良かった。今二人を呼びに行こうかと思ってたんだよ。こちら、ネクロマンサーのアルビレオさん。もしかしたら、お父さんの言葉が聞けるかもしれないんだよ」
「父の…。確かにそれなら。ですが本当にネクロマンサーなのですか?」
「そうだね、ハスティを疑うわけじゃないけど、何か証のようなものを見せてくれると助かるね」
皆の視線がオレに集まる。これはまた召喚するしかないかな。
「今から英霊を召喚しますね。出でよ、ハインリス」
空間が歪み、青白い半透明の人型、ハインリスが姿を現す。ハインリスは常の様に周囲を油断なく確認し、危険はないと判断したのか剣の柄から手を離した。だが、状況が読めないのか、こちらに何か問いたげな表情を向ける。
「おぉ、これが神兵…!」
「幽霊?」
「アルビレオ、これはどういう状況だ?」
「「「しゃべった!?」」」
ハインリスがこちらに問いかけると、初めて英霊を見た三人が驚いてしまった。気持ちは分かる。
「ネクロマンサーだと証明するために召喚させてもらったんだよ」
「またか。では、もうよいだろう」
「ありがとう、ハインリス。助かったよ」
オレはハインリスを送還する。
「これでネクロマンサーだと認めてもらえますか?」
「あぁ、認めてもいいんじゃないかい?どうだい?エリザ」
「まさか本当にネクロマンサーとは。認めても良いと思います。マリエルはどうだ?」
「えっと…認めます」
認めてもらえて良かった。三人に認めてもらえた後、早速とばかりに族長の元へと案内された。仕切りで作られた一室に族長は安置されていた。その族長の遺体の後ろ、遺体そっくりの青白い半透明の族長が浮かんでいた。居たわ、族長の幽霊。居てくれてよかった。ここまで来ていなかったら、かなり困ったことになっていた。
オレは族長の幽霊に話しかける。
「族長さん、聞こえますか?オレはあなたが見えています」
「うん?誰だったかな、こんな奴と知り合いだったかな?」
「いえ、今日初めてお会いします」
「だよな。こんな怪しい風体の奴、知り合いにいな…、こいつオレの言葉が聞こえてるのか!?」
「聞こえてますし、見えてます。オレはネクロマンサーです」
族長はオレの本当に見えてるのか確かめる為か、左右に反復横飛びしたり、変顔してきたりする。なんだこの族長、面白いな。やがて納得したのか族長の奇行は終わった。
「本当に見えてるみたいだな。ネクロマンサーと言ったか?ワシと契約しに来たのか?」
「いいえ。あなたには次の族長を誰にするか聞きに来ました」
「違ったか…。それにしても次の族長か…」
何で少し残念そうなんだろう。次の族長と聞いて族長は考え込んでしまった。やがて、ポツリポツリと話し出す。
ルドネ族の場合、親の後を継ぐのは長子であることが一般的らしい。それによると長子であるエリザが後を継ぐべきだ。エリザは統率力に優れているらしく、人を引っ張る力がある族長向きな性格らしい。逆にマリエルさんは引っ込み思案で族長向きとは言い難いものがあるようだ。
しかし、次女のマリエルは魔法の才がある。エリザも並み以上の腕前があるが、マリエルは群を抜いているらしい。ルドネ族は体が小さく、身体能力が低いが、魔法に高い適性がある。その分、魔法の腕前が評価されがちらしい。今回の一件もマリエルの魔法の腕前が評価され、マリエルを族長に、という声があがったみたいだ。
それに、人魔大戦に勝利したとはいえ、今の情勢は不安定だ。いつまた魔族が攻め寄せてくるかも分からない。そんな状況だからこそ、人々は強い族長を求めているということだった。肝心の本人たちの意思はというと、エリザもマリエルも族長の座を譲り合っているらしい。それもあって決めかねていたようだ。
「だがもうワシも死んでしまったしな。早急に次の族長を決めねば…。慣例は破ることになる、しかし、皆の声を無視は出来ん。次の族長はマリエルだ。マリエルは思慮深く、芯の強い子だ。必ずや良い族長になってくれる」
「それでいいんですね?」
「ワシはもう決めた!」
族長の意思は固いようだ。オレは固唾を飲んで見守っていたエリザ、マリエルの方を向く。
「次の族長は、マリエルさんです。マリエルさんは思慮深く、芯の強い。必ずや良い族長になってくれると」
「そんな!?族長はお姉ちゃんがなるべきです!」
「そんなことはない。多くの者がマリエルが族長になることを望んでいる」
「でも…」
「マリエルに自信がないのは分かっている。その分、私が傍で支えよう。だから、どうか族長になってくれないか?」
「お姉ちゃん…。お姉ちゃんはそれでいいの?」
「あぁ、もちろんだ」
エリザの説得にマリエルが考え込んでいる。なかなか族長になる決心がつかないようだ。
「やっぱり族長はお姉ちゃんの方があってると思います」
「マリエル…」
ダメか…。マリエルの意思は固いようだ。オレは思わず族長の方を振り向いてしまった。族長もマリエルを見て肩を落としている。
「でも、お姉ちゃんが支えてくれるなら…。私、族長になります」
「よく決心してくれた。マリエル」
エリザがマリエルに抱きついている。マリエルも漸く族長になる決心をしてくれたようだ。族長もウンウンと頷いているし、これで良かったんだよな。
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