第77話 キャラの渋滞
何ていうか…アイリスの過去も悲惨だな…。殺されるまでは分かるけど、食べられるって何だよ…。アイリスが頑なにしゃべらないのも無理はないかもしれない。人間に幻滅しても仕方ないと思うし。そんなアイリスを英霊として使役している自分が酷い鬼畜のように思える。
ただアイリスは自ら望んでオレに力を貸してくれているはずだ。一応確認したし、契約の解除を打診したこともある。その時も頷いたり首を振ったりのコミュニケーションだったけど、確かに英霊として力を貸してくれると了承したはずだ。
……はずなんだけど、こうも頑なにしゃべらないと不安になってくるな。いっそのこと本人に訊いてみるか?なんでしゃべらないのか。でもアイリスのトラウマを抉ったりしたら…。いや、こういう事ははっきりさせといた方が良いよな。アイリスが義理堅い性格で、本当は嫌だけど、契約に縛られて仕方なく従ってるとかだったら申し訳ないし。
よし、アイリスに訊いてみよう。となると後はタイミングか。なんで今?ってタイミングだけど、早い方が良いよな。
「…アイリスは、英霊から解放されたい?」
随分と直球な訊き方になってしまった。尋ねられたアイリスはゆっくりと首を傾げる。その仕草が、背の低さも相まって幼い子どものように見える。そうだね。いきなりこんな事聞かれても訳分かんないよね。
「いや、その…。気を悪くしたらごめん。だけど、アイリスは全然しゃべらないから、本当は英霊として契約しているの嫌なのかなーって…」
どう言ってもアイリスを傷付けてしまいそうで、オレの言葉は力なく枯れる様に小さくなっていく。誰か助けて。
「・・・・・、・・・・」
後悔で押し潰されそうなオレに何か聞こえた。
「え?」
「しゃべるの、めんどう」
何の音か最初は分からなかった。そりゃそうだ。初めて彼女の声を聴いたのだから。なんとも退廃的な魅力のある気だるげな声だ。何故か彼女のお世話をしたくなってしまう。
それにしても、しゃべるの面倒って…。何?アイリスってものぐさキャラなの?もっとこう…冷たく心を閉ざした氷の女みたいなのを想像してたんだけど。よく氷の魔法使ってるし。
「面倒だからしゃべらなかったの?」
アイリスがコクリと頷く。その仕草もアイリスの本性を知ってしまうと、とても気だるげに見えるから不思議だ。
「気分を害していたわけではない?」
アイリスが再びゆっくりと頷く。え?何?オレの気にし過ぎだったの?てっきりアイリスは、その不幸な人生に心を閉ざしているのかと…。
「英霊はどう?辞めたくならない?いつでも解放するけど」
本音を言ってしまえば、アイリスが抜けるのは厳しい。でも嫌々従っているんだとしたら、かなり心苦しい。それはアイリスの為にも、そしてオレの為にもならない。その苦しさが、いつかオレの心を壊すと分かっていたのだ。だから自分の心を守る為に、アイリスに英霊からの解放を打診する。もうちょっと図々しく生きれれば楽なのだろうけど、これがオレなのだから仕方ない。心が弱いのだ。
アイリスはゆっくりと首を横に振る。マジ?
「自分で言うのもアレだけど、本当にいいの?呼び出されて、戦って、はい、さよならの繰り返しだよ?」
酷い環境だと自分でも思うくらいだ。英霊として残ってくれた人達、心広すぎだろ。中にはディアゴラムみたいなのもいるけどさ。
「楽しい」
「…え?」
楽しい?英霊が楽しい?
オレはその言葉を聞いてピンときた。頭の上で豆電球が光りそうだ。この娘もアレだ。マリアドネとディアゴラムの同類だ。嘘だろおい。
「そっか…」
まさかアイリスがちょっとアレな闘志の持ち主だとは思わなかった。人は見かけによらないと言うけれど、よらなすぎるだろ!最初はどこか影のある物静かなミステリアスな女で、実はただのものぐさなだけで、それでいて戦闘狂。キャラが渋滞してるぞおい!
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