第78話 アイリス視点 楽しい
「自分で言うのもアレだけど、本当にいいの?呼び出されて、戦って、はい、さよならの繰り返しだよ?」
なんとも偽悪的な物言いをする人だ。久しぶりに話したアルビレオは、情けない顔を浮かべ、こちらを心配そうに見ていた。禿げ上がった頭もいつもの輝きが無い。少しくすんでいるように見える。
どうやらアルビレオは本気で私を心配しているようだ。もう死んだ身である私の何を心配しているのだろう?私の感情、心だろうか?
だとしたら心配いらないのに。今の私はとても充実している。この感情を一言で表すなら…。
「楽しい」
「…え?」
そう。楽しい。魔法を実践するのはとても楽しい。
生前は魔法の理論ばかり研究していたけど、魔法を実際に意のままに操るのはとても楽しい。学院では自粛していた大規模魔法も、今なら撃ち放題だ。
的に撃つのではなく、生物が相手ではこちらも創意工夫が要求される。状況や相手によって使う魔法を取捨選択したり、魔法のタイミングを計るというのは、案外奥が深くて興味深い。
生前に身に付けた知識、死後に得た魔法の実践を通して、私の魔法の腕は飛躍的に上昇しているのが分かる。
煩わしい人間関係が解消されたのも大きい。生前は人間関係でかなり苦労した。全然言う事を聞いてくれない王子に、嫉妬に狂ったその婚約者。私を妬む貴族達。私は魔法の研究がしたいだけだったのに、何故放っておいてくれなかったのだろう。彼らが関わってこなければ、もっと魔法の研究ができたのに。
思い出したらイライラしてきた。生前は身分の差で吐き出すことができなかったこのイライラも、魔法を使ってスカッと解消できる現状は、とても充実していると言って良い。
「そっか…」
アルビレオが何とも言えない顔で頷いた。どうしたんだろう?私は首を傾げることで疑問を表す。
私は口下手だ。元々話すのは得意じゃないし、私の言葉は相手に伝わらなかったり、誤解されることが多い。ならばいっそと思い、私は口を噤むことを選んだ。実際に口を噤んでみると、とても楽な事に気が付いた。煩わしい会話からの脱却である。どんなに言葉を尽くしても、自分の意思が100パーセント相手に伝わるという事は無い。ならば必要最低限、肯定と否定が伝わるのならばそれで良い。誤解の余地がない分、私にとっては優れたコミュニケーションツールだ。
「いや、なんでもないよ……まさかディアゴラムタイプとは…」
アルビレオがボソッとしゃべった後半部分が微かに聞こえた。ディアゴラムタイプとは何だろう?ディアゴラムは確か剣士の英霊の名前だ。ディアゴラムは剣士、私は魔導士。ドガスとエルヴィン。男と女。どこにも共通点など無いと思うのだけど?
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