第90話 アルクルム山地⑦

 はい。と言う事で、やって来ましたアルクルム山地。オレ達は休暇明けすぐにアルクルム山地へと冒険に来ていた。オレ達の知る中で一番稼ぎが良い所だからね。そりゃリピーターにもなる。この地の魔族にとっては嫌なリピーターだろうがね。君達を倒すのが一番儲かるんだ。大人しく死んでくれ。


 今日のパーティ編成は前からエバノン、マリアドネとホフマン、オレとアイリスとリリアラ、ライエルとハインリスだ。前のメンバーにリリアラを加えた形である。


 リリアラは久しぶりに臭くない場所に呼ばれて喜んでいたが、ジメジメとした坑道に入ると知ると、急激にテンションが下がった。もう自分の足で歩くことを止め、オレに抱っこを要求してくるくらいだ。子どもかよ!あんた幼女みたいな見た目だけど本当は結構いい年した大人だろ?一族の族長まで務めた女傑のはずだ。なんでオレに抱っこなんて要求するんだよ!かわいーなーもー!


 こちらを見上げて、手を上に突き出し、背伸びまでして抱っこを要求する姿は、保存しておきたいくらい可愛かった。きっと彼女は自分が可愛い事を知っててやっているのだろう。これがあざと可愛いってやつか…。負けたよ。


 流石に抱っこして両手を塞ぐのも危険なので、肩車にした。


「高い高ーい!ハイヨー!」


 リリアラはオレのハゲた頭をぺチぺチと叩いて上機嫌だ。なにがハイヨーだよ、オレは馬じゃないぞ?


 リリアラのむちっとした太ももに頬を挟まれながら思う。英霊の体って不思議だ。柔らかい。しかも僅かに温もりを感じる気がする。いったいどういう原理なんだろう?謎だ。


「はいはい、静かになー」


 オレはリリアラが肩から落ちないように片手で支えつつ、リリアラを注意する。リリアラが居ると忘れそうになるが、一応オレ達は今、隠密行動中である。此処は敵地のど真ん中なのだ。


「はーい…」


 不満があるのかリリアラがオレの頭に抱きつき、ぺチぺチと叩いてくる。あんまり叩かないでくれ、自分がハゲだって自覚させられて悲しくなる……。




 エバノンの案内に従って坑道を移動する。坑道内にはカツーンカツーンという音がいくつも重なって響いていた。これが全て敵の立てる音だとすると、数えるのも億劫になるくらい敵が居ることになる。前回大量に倒したから、敵が残っているか不安だったけど、これなら心配いらなかったな。


 此処アルクルム山地にはまだまだ大量に敵が居るようだ。もしかしたらゲームのように、倒しても時間が経つとリポップするのかもしれない……流石にそんなわけないか。


 ん?エバノンが立ち止まったな。敵を見つけたみたいだ。




 岩陰から顔を半分出し、坑道の向こうを確認する。土埃が舞い、薄いヴェールを掛けた様な視界の奥、ぼんやりと明かりが見える。その明かりに照らされて踊る影が全部で9つ。小さな影、二足歩行の犬の様な姿、コボルトだ。コボルトが坑道の行き止まりに集まってつるはしを振っている。


 だが、敵はコボルトだけじゃない。1つコボルトとは比較できない程大きな影がある。でかい。ドガスの中でも大柄なライエルよりも明らかに大きい影だ。


 影は大きな楕円を描いていた。そのやや青味を帯びた楕円から、極太の茶色い手足と首が生えている。直立した亀の様な姿。トータスだ。


 採掘場にトータスが居るのは初めてだ。コボルトの数も多い。前回はコボルトばかりの4,5匹のグループばかりだった。此処、アルクルム山地はトータスの縄張りだから、トータスが居てもおかしくないけど……前回はたまたま出会わなかっただけか?


 とりあえず敵情を把握し終えたオレは、顔を引っ込めてエバノンの元へと戻る。エバノンの元へと戻ると、皆がしきりに手を動かしていた。きっと誰がトータスの相手をするのか、誰がどのコボルトを倒すかハンドサインで会議しているのだろう。


 オレも参加しようかと思ったけど、足が止まる。オレが参加しても意味無いんだよなぁ……。オレ自身にトータスやコボルトを倒す戦闘能力なんて無い。


 オレはネクロマンサーだ。召喚する英霊は強力な力を持っているが、その分、本体であるオレの性能は低い。オレ自身の戦闘力なんてカスみたいなものだ。


 なんだか仲間外れみたいで悲しくなってくるな。オレに戦闘力が無いのが悪いんだけどさ。あぁ、オレも皆みたいに戦闘能力が欲しいなぁ。


 しょげて俯いていると、ぺチぺチと頭を叩かれた。リリアラだ。そう言えば肩車しっぱなしだった。リリアラはもう一度ぺチぺチとオレの頭を叩くと、今度はなでなでと頭を撫でてくる。ひょっとして、慰めようとしてくれているんだろうか?なんだかリリアラに心中を見抜かれたようで恥ずかしい。顔が一気に熱くなる。


 リリアラのなでなでは続く。子どもっぽいなと思っていたリリアラに慰められるのは、なんだか恥ずかしい。それでも振り払うわけにもいかず、オレは大人しくなでなでされ続けるのだった。


 思えばリリアラもけっこういい年だもんね。亀の甲より年の劫。オレみたいな若造の考える事なんてお見通しなのかもしれない。流石リリアラおばあちゃんだ。


 ぺチ


 叩かれた。流石におばあちゃんはダメだったらしい。

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