第75話 アルクルム山地②

 カツーンカツーンと硬い物同士がぶつかるような甲高い音が坑道内に幾重にも響いている。坑道内の壁に反響して何処が音源かも分からないほどだ。右から聞こえたと思ったら、後ろから聞こえたりして、混乱してしまう。


 オレ達はエバノンの案内で坑道の中を進んでいる。エバノン、マリアドネとホフマン、オレとアイリス、ハインリスとライエルの順番だ。エバノンが先導し、魔導士を戦士でサンドする形だ。


 もう幾つも分かれ道を通り過ぎたけど、エバノンに迷う素振りは無かった。適当に決めてるんじゃないかって不安になるくらい即決である。それでもカツーンカツーンという音がだんだんと大きくなっているということは、音源に近づいているということだろう。すごいな、流石エバノンだ。


 エバノンが居れば必要ないかもしれないけど、一応マッピングもしている。マッピングはアイリスにお願いした。戦士達は手を空けておかないといけないし、オレは…ほら、松明持ってるし。アイリスの魔法の光の玉の前では松明なんて無意味な物になってしまってるけどさ…。ずっと松明持ってて腕がだるいし、もういらないんじゃね?松明。


 チラッと見たら、アイリスの描く地図は整然としていて分かりやすかった。フリーハンドで歩きながらだというのに、線がブレてない。なんかもう描きかけの地図からでも知性が窺える。コイツ頭良いなって分からされてしまう感じだ。そりゃ<大魔導士>様だもんな、頭は良いか。今度から地図を描く時はアイリスにお願いしたいくらいである。


 それにしても…。オレはアイリスをまじまじと見つめる。アイリスはいつも通りフードを目深に被り、その表情は窺い知れない。かろうじて口元が少し見えるくらいだ。アイリスの身長はオレの胸くらいまでしかないので、高低差で余計に見えない。オレはアイリスの顔が見てみたくなった。たしかゲームでもいつもフードを被っていて顔を見た事は無いはずだ。


「アイリス、フード取らない?見づらいっしょ?」


 流石に顔を見せてとストレートに言うのはどうかと思ったので、ちょっと変化球で攻めてみた。


 アイリスはこちらを向くとゆるゆるとゆっくり首を横に振った。どうやらノーらしい。フードを取る気はないようだ。残念。


 そう言えば、ふと思ったんだけど、オレってアイリスの顔を見るどころか、声も聞いた事無いんじゃね?


 記憶を遡ってみるけど、アイリスの声を思い出せない。いつも頷いたり首を振ったりで意思表示をして、話したところは見たこと無いかもしれない。アイリスってどんな声なんだ?


 気になるな。アイリスの顔も声も。


 でも無理やり見たり聞き出したりってのはなんか抵抗があるな。アイリスはミステリアスで、その秘密を暴くのはいけない事のように思えた。


「地図、すごく綺麗だね。見やすくて助かるよ」


 結果当たり障りない物言いになってしまった。無理強いはしたくないけど、せめて声くらいは聞きたくて話しかけてしまう。これでワンチャン声が聞けたら良いなという気持ちだ。


 アイリスはコクリと頷く事で返してきた。どうやらしゃべる気は無いようだ。ガード硬すぎない?鉄壁なんだけど?


 しゃべる気の無い相手にこれ以上話しかけるのも迷惑かなーと思い、アイリスとの会話を打ち切った。アイリスの声が聞けなかったのは残念だ。と言うか、ここまでくると嫌われてるのでは?という説も浮上してくるレベルだ。オレ、何かやっちゃいました?


 でもアイリスは誰にでもこういう態度だし…オレだけ特別嫌われているわけではないと思う。と言うか思いたい。


 アイリスの気に障ることをしてしまったとか?思い返してみるけど、思い当たる節は無い。アイリスはこっちの世界に来て初めて召喚した時から一貫して無口だった。ゲームの時も無口なキャラだった気がする。オレはゲームで知ったアイリスの過去について記憶を遡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る