第82話 アルクルム山地⑤
採掘?つるはしで?カツンカツーンって掘るの?んなの古い古い。今の時代はやっぱ略奪っしょ。りゃ・く・だ・つ!
いやー、オレも最初はつるはしでカツンカツン掘ってたんだけどさ。なにせその為にアルクルム山地まで来たわけだし、誰だって一度は試すよね?鉱石ガッポリを夢見てつるはしを振るってたわけさ。
でもさ、全然鉱石が出ないんだわ。ゲームだったらMiningpointでつるはしを使えば100パーセント何かしらの鉱石が出たってのに、現実世界では出るのはクズ石ばっかりだ。鉱石なんて一つも出ない。
小一時間採掘して思い知らされたね。採掘って楽じゃない。小一時間掘って成果は0だ。泣けてくる。肉体的にも疲れるけど、心も疲れる。自分達のしていることは無駄なんじゃないかって思えてくるのが辛い。
小一時間つるはしで採掘した後の休憩時間は、皆無言だったもんなー。きっとオレを含めて、自分達の見通しの甘さに打ちひしがれていたんだろう。採掘って、もっと鉱石が手に入ると思ったんだけどな…。成果が0ってなんだよ…。
無言の採掘場に、カツーンカツーンという音が小さく響く。きっと別の採掘場で此処みたいにコボルトが採掘をしているのだろう。もしくはトータスが採掘しているかもしれない。此処アルクルム山地はトータスの拠点だしな。
カツーンカツーンという音は絶えず聞こえてくる。こんなに渋い採掘をよく続けられるものだ、と感心した時だった。オレの頭に天啓が降りた。豆電球がピカッと光って閃いちゃったわけよ。鉱石が出ないなら、有る所から奪えば良いじゃない。
今この瞬間もコボルトやトータス達は採掘をしている。彼らを襲って、その成果物を奪ってしまおうって考えだ。討伐報酬も貰えるし、彼らの持っている金目の物も手に入る。一石三鳥の作戦だ。
思い出せば、アメリカのゴールドラッシュでも似たような事件があったらしい。真面目に金を掘るより、金を掘り当てた奴を殺して金を奪った方が効率が良いってね。坑道内なら事故に見せかけて殺すのも容易だ。坑道に事故は付きものだからね。
初めてその事件を聞いた時は、なんて悪辣な考えなんだと思ったものだけど、まさか自分が襲撃者と同じ考えを思いつくなんてなぁ…。世の中分からないものだ。
「……というわけなんだけど、どう思う?」
「よろしいのではないでしょうか!」
「…賛成だ。つるはしを振るうのは老体には堪える」
オレの思いついた一石三鳥の作戦を聞いたマリアドネとホフマンは賛同してくれた。マリアドネは、身を乗り出して、目をキラキラと輝かせて、食い付かんばかりの勢いだった。こいつは戦闘狂だからな。戦闘と言えば食い付くだろう。
いつもは無言のホフマンも珍しく自分の意見を述べる。よほど採掘の作業が堪えたようだ。そりゃ全身鎧を着てつるはし振ってりゃ疲れるよな。脱げば良いじゃんと思うけど、いつ敵襲があるかも分からないから、脱ぐに脱げなかったのだろう。
そんなわけで、オレ達は今、新たな敵を求めて坑道内を移動中だ。正しくは敵の持っているお宝が目当てだが。
エバノンを先頭に、マリアドネとホフマン、オレとアイリス、ハインリスとライエルの順番だ。エバノンが斥候、魔導士を前衛で挟み込むいつもの隊列だ。これなら前から襲われても、後ろから奇襲を受けても、対応できると思う。少なくとも近接戦闘の苦手な魔導士が無防備になることは無い。
待っててね鉱石ちゃん。今会いに行くからね。トータスとコボルトはオレ達の為にもがんばって鉱石を採掘してくれよ。
◇
エバノンの放った矢が、コボルトの喉に突き立ち、最後のコボルトが声も無く崩れ落ちる。これでこの採掘場は占拠できたな。
エバノンの弓の腕は凄い。今のところ百発百中だ。喉なんて小さな的をよく射抜けるものだ。
マリアドネはとにかく素早い。ヒュッと駆けて行ってズドンとコボルトを確実に仕留めている。なんていうか、刺客って言葉が浮かんでくるくらいだ。可愛い顔して物騒過ぎるだろ。綺麗な花には棘があるを地でいく女だ。
ホフマンは凄まじい。確かに素早さではマリアドネに劣るものの、その剣技は凄まじいの一言に尽きる。敵を一刀のもとに両断している。どんな腕力してるんだよ。コボルトの持つつるはしごとコボルトを真っ二つにした時は目を疑ったぐらいだ。今度から「凄ま爺」と呼ぼうと思う。勿論心の中でだが。
アイリスの魔法はとても強力だ。その攻撃魔法は一撃で敵を屠る。気が付いたら敵に氷の槍が突き刺さっていて命を奪っている。勿論その攻撃魔法も強力だが、一番強力なのは≪沈黙≫の魔法だと思う。
此処は敵のテリトリーで、オレ達は少数の侵入者でしかない。敵がオレ達の存在に気が付いたら、たちまち数の暴力で押し潰されてしまうだろう。
そんな危険を回避してくれるのが≪沈黙≫の魔法だ。魔法で敵の声を奪い、敵が異常を知らせることを阻止してくれる。隠密行動をしている今のオレ達にはとてもありがたい魔法だ。
もしアイリスの≪沈黙≫の魔法が無ければ、オレも敵を襲って鉱石を奪おうなんて作戦は思いつかなかっただろう。本当は敵の拠点で目立つようなマネは控えるべきなのだ。でも、アイリスの魔法のおかげで、オレ達は大胆に行動できる。それぐらいアイリスの魔法は強力なものだ。
そしてオレは…何もしていない。びっくりするくらい何もしていない。ただ松明を持って、ぼーっと立ってるだけだ。仕方ないんだよ。ネクロマンサーは本体の能力が低いんだから。オレに遠隔攻撃能力なんて無いし、白兵戦に参加しようにも武器すら持ってない。素手だ。そんなオレが戦闘に参加したところで、皆の連携を邪魔するだけだろう。後方で大人しくしているのが、オレにできる一番の貢献なのである。自分で言ってて悲しくなるけどな…。まぁオレも素手でコボルトと殴り合うのなんて勘弁だし、これで良いんだろう。
その代りと言ってはなんだが、戦闘以外では率先して働くつもりだ。戦闘が終わり、前衛が武器の手入れをしている間に、コボルトの死体を漁る。石の類はライエルに鑑定してもらい、オレはコボルトの持ち物をチェックだ。
コボルトは腰に袋を下げていたり、ピアスや腕輪、足輪なんて装飾品を着けてる場合もある。それらを回収していく。袋の中身はよく分からない物が多い。骨製の何かだったり、石製の何かだ。たまに金属製の笛みたいな物が入っているのが共通点だろうか。運が良いと魔族貨を持っている奴も居るので、割と美味しい。
袋の中身を確認して金目の物を回収。装飾品の類も剥ぎ取り、討伐の証としてコボルトの右耳も切り取る。やってる事が完全に賊なんだよなぁ…。しかしこれも生きる為に仕方ないのだ。ごめんなコボルト君。おいおいコイツ鼻輪なんてつけてやがるぜ。コイツのセンスが分からねぇよ。ちょっと薄汚くてバッチィけどこれも回収っと。
コボルト達の身ぐるみを剥ぎ、鉱石を奪ったら撤収だ。次の獲物を求めて坑道内を歩いていく。
獲物を見つけるのは割と簡単だ。なにせ獲物はつるはしを振る音をカツーンカツーンと響かせている。その音を頼りに、エバノンが先導してくれるのだ。オレ達はただエバノンに付いて行けば良い。坑道の地図はアイリスが描いてくれるし、ライエルは鉱石の鑑定をしてくれるし、本当に英霊は頼りになるな。おかげでオレはマリアドネのうなじや尻を見るくらいしかやることがないぜ。
こうしてオレ達は次々と採掘場を攻略していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます