第25話 集落へ
「キャーーーーーーーーーーーッ!」
な、なんだ!?
女の悲鳴が響き渡り、オレは目を覚ました。慌てて上体を起こし、周囲を確認する。なんだ?何が起こっている!?
だが辺りは平穏そのものだ。なんなんだ?オレは傍にいた悲鳴を上げた犯人に目を向ける。アウラはこちらを指さしながら、口をわなわなと動かしていた。
「あ、あな、あな、あな」
「る?」
「違うわよっ!」
そうだな、これはちょっと女性に対して失礼だったかもしれない。よく見るとアウラの指さす方向がこちらから少しずれている。どこだ?指さす方向を辿っていく。そこでは、オレの愚息が腰ミノと外套を掻い潜り、コンニチワしていた。それはもう全力のコンニチワだった。フルバーストである。カッチカチだ。
「のあ!?」
驚きすぎて変な声で出た。オレは急いで外套で息子を隠す。マジかよ。最悪だ。一応弁明しておくか。
「これは朝立ちと言って、男の生理現象だ。決して欲情したわけじゃn」
「聞いてないわよっ!何よそれ!?あなたの服どうなってるのよ!?」
ごめんな、服、着てないんだ。でも、ネクロマンサーであることを受け入れてくれたアウラになら…。
「…見てみるか?」
「嫌よっ!」
断られてしまった。仕方ない。今のは自分でもどうかと思う。
「はぁ、朝から疲れるわ…。ご飯、できたから」
どうやらオレの分も朝食を用意してくれたみたいだ。有り難い。
焚火に着くとハスティさんに「朝から元気ですね」と笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい。座ると硬めのパンを渡され、その上に焼いた肉をどっさり盛ってくれた。朝から豪勢だ。
「いただきます」
パンを少し曲げ、ホットドックの様にして齧り付く。うまい。味付けはシンプルだと思う。幾つかの香草と塩だろうか。その分、肉の味がガツンとくる食べ慣れてない味だ。日本でも、こちらに来てからも食べてない味である。やや独特のクセがある味の肉だ。それを香草が和らげ、豊かな味になっている。結構なボリュームがあったのに、朝からガッツリ食べてしまった。うまかった。久しぶりのまともな食事というのもあるんだろうけど、ハスティさんは料理上手だと思う。
「ご馳走様でした」
「いえいえ、お粗末様でした。お茶もありますよ?」
「いただきます」
お茶の見た目は麦茶の様に茶色だった。飲むとわずかな苦みがあり、強い清涼感があった。口の中がさっぱりする。二人はまだ食べてる途中だった。オレのより小さいサイズの物をチマチマ食べている様子は見ていて和む。
「え!?オレも馬に乗るの?」
朝食を食べ終え、いよいよ出発というところで予想外のことを聞かされた。
「そうよ。せっかく馬がいるんだもの乗らない手はないわ」
「だけど…乗ったことがないんだ」
「大丈夫よ、走るわけじゃないんだし。子供でも乗れるわよ」
正直な話、馬に乗るのは怖い。て言うか馬自体が怖い。馬って間近で見るとかなりでかい。身長もオレと同じくらいあるし、四つん這いでそれだ、立ったらオレよりはるかに大きい。マジで乗るの?振り落とされたりしたら怪我じゃ済まなそうなんだけど…。
オレの葛藤を他所に、出発準備は完了だ。あとはオレが馬に乗るだけ。
「さ、早く乗って。大丈夫よ、その子はおとなしくて賢い子だから」
アウラに促されて恐る恐る馬にまたがる。オレが乗馬初心者だからか、馬が座った状態のまま馬に乗る。
「立つとき揺れるから、しっかり首に抱きついてなさい」
アウラが言うや否や馬が立ち上がる。
「うお!?おぉお、お!」
慌てて首に抱きついた。前後左右に激しい揺れ、まるでロデオだ。馬が立ち上がると視線がかなり高くなった。足が地面についていない、宙ぶらりんですごい不安になる。
「あなた用のあぶみは無いからそのままね。下手に動かなければ落ちたりしないから、安心して」
そう言うとアウラは前に行ってしまった。下手したら落ちるってマジかよ…。1メートルくらい地面から足が離れてるんだけど?かなり怖いんだけど?
「のあ!?」
不安で押しつぶされそうなオレなど気にせず、馬が歩き出した。思ったより速い速度だ。めちゃくちゃ怖い。左右というより前後、上下に揺れる。馬が歩くごとに腰が浮く。そして鞍にケツが打ち付けられる。
馬の身体を挟む様に内腿に力を入れて振り落とされないように踏ん張る。これが結構きつい。まだ歩き始めたばかりだというのに腹、太腿が疲れてきた。ケツもジンジンする。こんな調子でたどり着けるのか?
途中、何度か休憩を挟んで馬に乗り続ける。すると遠くの方に集落が見え始めた。ひょっとしてあれが目的地か?もう下半身は痺れて力が入らないほど消耗していた。ケツも打ち付けられ続け、かなり痛い。
しばらくすると集落に近づき、集落の様子がよく見えるようになった。家は白を基調とした壁や屋根に赤で何かの模様が描いてある、円形の家が多いようだ。集落の傍には大きな柵があり大量の羊が収められている。
集落の中の人影はどれも小さい、きっとルドネ族の集落なのだろう。たしかルドネ族は遊牧民族だったはずだ。草原に大量の羊に、正に遊牧民っぽい。きっとあの家も分解して持ち運べるようになっているんだろう。
集落の方から一頭馬がこちらに向かってくる。馬の背には小さな人影が見えた。いったいなんだろう?
「おぉ、ハスティにアウラか。よくぞ帰った。ん?そいつは誰だ?見たところルドネではないようだが」
「旅の途中で会ったネクロマンサーよ。族長の言葉が聞けるかもしれないと思って連れて来たの」
「なに!?それは真か!?こうしちゃおれん。至急、皆を集めねば」
集落から来た馬が踵を返して集落に戻っていく。皆を集めるって…なんだか大事になっちゃいそうだな。ちょっと不安だ。ちゃんと出来るだろうか。
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