第61話 教会⑥

 それから三日、オレは大神殿に滞在した。魔力欠乏症の経過観察の為である。と言うのは建前で、パドリックと現状の確認や、今後の事を話し合ったりしたのだ。パドリックは忙しい人なので、合間合間の隙間時間を使ってだけどな。


 大筋は、目覚めた初日に聞いた通りだ。戦争に参加し、活躍して、オレを擁護してくれる派閥の人間を増やす事。そして、オレを処刑したい派閥にも、オレを処刑するより生かして使った方が得だと思わせる事だ。


 戦争で活躍って何すればいいのって思ったけど、白虎や青龍を召喚するだけで良いそうだ。とりあえず召喚するだけでも味方の士気は上がる。それはオレの貢献、活躍とみなされるようだ。そんな簡単なことで良いのかと思ったけど、味方の士気というのは、戦争において重要らしい。手っ取り早く士気を上げる手段があるというのは助かるそうだ。


 今のオレは、処刑に待ったが掛かった執行猶予のような状態だ。今の内に功績を積み上げて、処刑そのものを回避したい。しかし、それには色々と問題がある。


 まずは、そもそも戦争が起こせないという問題だ。今回の遠征で大勢の死者が出た。戦死者を弔ったり、戦死者の家族への見舞金の用意したり、兵の補充、訓練、部隊の再編とやることが山積みらしい。それに失ったのは人だけじゃない。物資もだ。今回の遠征では、逃げるのに精いっぱいだったため、大量の物資を放棄したらしい。物資の運搬は人馬で行うので、補充には時間が掛かるし、金も掛かる。兵を揃えても、水や食料、武器が無ければとても戦えない。ゲームのように負けたからすぐに次の戦争をというわけにはいかないのだ。次に遠征ができるようになるまで、かなり準備に時間が掛かると言われた。


 次に、パドリックが神殿長から外されるかもしれないという問題だ。パドリック。一度はオレを騙したけど、謝罪してもらったし、本人は白虎の姿を見てオレを擁護する派閥に転身したと言っている。話してみた感じ、信じても良いのではと思っている。まぁパドリックは老獪な人物なので、オレを騙すことなんて朝飯前かもしれないけどさ。掌の上で転がされないように注意は必要だけど、味方として扱おうと思っている。色々と便宜を図ってくれたし、情報もくれた。これからもパドリックが協力してくれるのは、素直に有り難い。


 そんなパドリックが神殿長を外されるかもしれない。理由は、今回の遠征の失敗だ。本来、敗戦の責任はオレに被せて処刑という予定だったけど、オレを処刑するわけにはいかないとパドリックが自ら敗戦の責任を被ってくれた形だ。そのおかげでオレは生きてるんだけど、今回の遠征の失敗はパドリックの失点となってしまった。


 パドリックはオレを擁護してくれる派閥のトップでもある。オレを処刑したい派閥からすれば、目障りな人間だ。神殿長の座から引き摺り落としたくなるだろう。そうでなくても、神殿長の座は激しい競争があるみたいだ。失点のあるパドリックが神殿長の座に留まれるかどうか…。


 もし、パドリックが神殿長から外されれば、次の神殿長は処刑派の人間になるだろうと言っていた。擁護派も増えたとはいえ、まだまだ教会の大多数は処刑派だ。処刑派は、擁護派が一気に増えたことに警戒心を持っているらしい。まず間違いなく処刑派の神殿長を送り込み、調査と統制の回復をするだろうと言っていた。


 パドリックは神殿長の座を保てるように頑張ると言っていたが、はたしてどうなるか…。


 最後に、これは問題と言うか、オレが注意しないといけないことを伝えられた。処刑派が何らかのアクションを取ってくる場合があるので気を付けねばならないらしい。何らかのアクションって随分ふんわりした言い方だけど、具体的に何をしてくるのかは分からないから、こんな言い方になってしまうそうだ。直接的な襲撃も考えられるし、搦め手も考えられると言っていた。その全てを防げるのか分からないので、オレ自身が迂闊な行動を取らないように、気を付ける必要があるそうだ。


 でも、迂闊な行動って何だろうと疑問だったのだけど、要はマチルドネリコ連邦から出ないことが重要だと言われた。他国では、ネクロマンサーは犯罪者なので処刑できるが、マチルドネリコ連邦では合法なので、処刑派も派手な行動は取れないらしい。


「それでも気を付ける必要はあるって言ってたけど…」


 いったいどんな手を使ってくるのか見当もつかない。


「はぁ…」


 憂鬱だ。


「おい、あれ…」


「うわぁ…」


「何あれ…」


 とても憂鬱だ!畜生め!


 今のオレは街中の視線を独り占めしていた。理由はもちろんオレの格好が原因だ。今のオレは、ミニ丈の腰ミノ一つしか身に付けていない。後は体中を骨のアクセサリーで飾ってるくらいだ。紛れもなく蛮族スタイルである。しかもお子様が泣く感じの悪い感じの蛮族だ。事実泣かれた。胸が痛かった。


 オレがこんな格好で街を歩いている理由。それは、今までオレの身を隠してくれていた外套を失くしたからである。撤退時にトータスの集団へと突っこんだ結果、タコ殴りに遭い、外套はもう着れないほどボロボロになってしまった。これが失って初めて気づく大切さってやつか…。外套が恋しくて堪らない。


 そんなに恋しいなら買えば良いじゃんって?そんな金ねぇーよ!全財産を塩と水袋に換えちまったんだよ!くそっ!鬱だ…。

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