第41話 ギルド長のお話

 オレはいつもの様に冒険者ギルドの受付カウンターでリザードマンの尻尾を買取をしてもらっていると。


「あぁ、そう言えばあなた、ギルド長に呼ばれてるわよ」


 え?


「何の用なんだろ…」


 受付嬢ちゃんの言葉に、思い当たることは…実はある。この間の訓練の事とか、英霊達を引き連れて街中を闊歩した事とか、リザードマンの尻尾をギルドを通さずに横流ししてる事とかだ。こう考えてみると、オレって不良ギルドメンバーなのかもしれない。まさかクビってことは無いよな?


「私は聞いてないけど、あなたまた何かやらかしたの?」


 受付嬢ちゃんがこちらをむっと睨んでくるが、そんな顔しても可愛らしいだけだ。


「何もやってないよ」


 心当たりはあるけど、そんなことはおくびにもシレッと答える。


「そう。案内するわ。付いて来て」


 ギルドのカウンターの奥に通され、階段を昇っていく。それにしても、何で偉い人って上に居るんだろうな。高いところが好きなのか?エレベーターも無い世界でご苦労なことだ。


 ギルド長の部屋は三階にあった。でかい両開きの扉の上には、ギルド長室と書いてある。偉い人と会うのは緊張するな。ちょっと落ち着くための時間が欲しいところだ。しかし、オレの些細な願いは、受付嬢ちゃんのノックと共に砕かれる。


「入ってくれ」


 返事はすぐに来た。受付嬢ちゃんが扉を開けて中に入るので、オレも続いて部屋に入る。ギルド長室は予想に反して質素な空間だった。豪華な装飾や調度品など、飾り気が全くない。部屋にある家具は、本棚にテーブル、ソファー、そして大きな執務机だ。机の上には本や紙束が積まれており、その向こうに大きな窓からの逆光に照らされたギルド長が居る。


「アルビレオさんをお連れしました」


「あぁ、ありがとう。君はもう行って良いよ」


「失礼します」


 受付嬢ちゃんが出て行ってしまった。部屋にはオレとギルド長が残される。


「立ち話もなんだ。掛けてくれ」


「失礼します」


 勧められたのでソファーに座る。背筋を伸ばして、手は軽く握り、膝の上。なんだか気分は面接試験だ。


「単刀直入に言おう。君に来てもらったのは教会から手紙が来たからだ。君に会いたいらしいぞ」


 えー…。教会って、反ネクロマンサーの急先鋒じゃないか。その教会がオレに会いたい?会って殺したいってこと?怖。


「君も教会の騎士達がハーリッシュに駐屯しているのは知っているね?」


 オレは頷く。たまにすれ違うと舌打ちしたり、絡んでくる連中だ。


「教会の戦力は冒険者と同じく、ハーリッシュを守る重要な戦力だ」


 たしかゲームでもそうだった。ゲームのイベントである防衛戦や攻略戦にも、教会の騎士はNPCで戦力として登場していた。


 教会が騎士という武力を持っているということに違和感を覚えるかもしれないが、教会も最初から戦力を持っていたわけでは無い。教会が戦力を持ったのは人魔大戦期のことだ。女神を守るために、もう一度女神を神の座に着けるために、教会は武力を欲したのである。今では教会の戦力はかなりのものだ。


 教会の戦力がハーリッシュに居るのは、此処が教会にとって聖地だからだ。ハーリッシュは女神の滞在した場所であり、人魔大戦の戦勝の地でもある。ハーリッシュが魔族の手に渡る事が無いように、教会は多数の戦力をハーリッシュに駐屯させている。


 また、マチルドネリコ連邦としても、魔族の侵攻を防ぐ為に戦力を必要としているが、他国に無暗に借りを作るわけにもいかない。他国が軍を派遣する代わりに何を要求するか、分かったものではないからだ。その点、教会は聖地を守る為に無償、もしくは少ない対価で軍を派遣する。戦力を欲するマチルドネリコ連邦は、教会の為に土地を用意し、積極的に教会の戦力を呼び込んでいる。教会とマチルドネリコ連邦の思惑は合致し、ハーリッシュには教会の戦力がかなり多く駐屯している。


「バストレイユ鉱山奪還作戦も近い。今、教会との関係を損ねるわけにはいかない。君には是非、教会の求めに応じて欲しい」


「え?」


 オレに教会の求めに応じてほしいって…死ねってことかな?冒険者ギルドとして守ってくれないの?


 しかも、バストレイユ鉱山まで失陥してるのかよ…。バストレイユ鉱山は、ミスリルの産出する重要拠点だ。ミスリルは鉄よりも軽くて丈夫で、おまけに魔力を良く通し、杖や魔法の触媒にもなる万能素材だ。そんな戦略物資の一大生産地が魔族側に取られている。マジかよ。バストレイユ鉱山だけは落としちゃダメってのはゲームの常識なんだが…。


「君の懸念も分かる。だが、ネクロマンサーはこの国では合法だ。教会も手荒な真似はできないだろう」


 そうなんだろうか?


「楽観のし過ぎでは?」


「ふむ、君は少し誤解している。教会がわざわざ我々に知らせてきたということは、君の身は安全だよ。君を呼び出して殺したとなれば、教会の仕業なのは明白だ。人々の信用も失うし、冒険者ギルドとも確執ができる。教会もそこまでバカではない」


 そうかもしれない。


「君を亡き者にしたいなら、教会の仕業とは露見しない形で、闇から闇に葬るだろう。それをしない、わざわざ君を呼び出すというのは、君を害するつもりはないという教会のメッセージだよ」


 マジかよ。教会が冒険者ギルド経由でオレを呼び出すことが、そんな意味になるのかよ。でも、ギルド長の話を聞くと納得できる部分もある。オレが思っている以上に、この呼び出しは安全なのかもしれない。それに、教会がオレを殺すと冒険者ギルドとの間に確執ができると言っていたし、冒険者ギルドはオレを守ってくれる意思はあるようだ。


「行ってくれるね?」


「はい…」


 なんだか、丸め込まれた気がしないでもないけど、オレは頷いてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る