第42話 教会
「ついに来ちゃったかぁ……」
目の前の白く、荘厳な感じのする大きな白い建物を前に、オレの足は止まっていた。なにせ此処は教会。反ネクロマンサーの連中の本拠地みたいなものだ。嫌でも警戒心が持ち上がる。
「でも、行くって言っちゃったからなぁ……」
冒険者ギルドのギルド長の説得に、オレは教会に行くことを承諾してしまった。なんで頷いちゃったんだろ?断れば良かったなぁ。今更ながら、後悔する。ギルド長の話では、オレの身の安全は保証されているらしいが、どこまで信じられるか……。
「はぁ、行くか。遅刻したら印象悪いし」
一応早めに出て来たから、時間に余裕はあるはずだ。遅刻ということは無いだろう。それに、早すぎて迷惑という程でもない。今がベストなタイミングだ。
生きて帰れるかな……。いや、ギルド長も言っていたじゃないか。教会もそこまでバカじゃないって。オレは安全。生きて帰れる。そう自分に言い聞かせて、教会に向けて歩き出す。足取りが重いのは、仕方ないだろ。
教会の正面の大きな扉は開かれており、来る者拒まずといった感じだ。中に入ると広い空間に出た。天井が高い。吹き抜けになっている。正面の奥に大きな女神像があり、像の後ろに設けらてた飾り窓から、まるで後光のように光が差している。手前に視線を動かすと、中央に絨毯がひかれており、その左右に大きな長椅子が等間隔に並んでいる。きっとミサとかするんだろう。けっこう参拝客も居る。
オレは絨毯の上を通り、女神像へと向かっていく。どうせだし、参拝していこうと思ったのだ。とりあえず身の安全を祈っておこう。賽銭箱が無いな?賽銭はどうするんだろう?
女神像の前に立ってハッと思い至る。オレ、この世界のお祈りの作法知らないわ。隣で祈っているおじさんを盗み見る。ふむふむなるほど。指を交互に握り合わせるのが正解のようだ。早速真似をする。
(どうか無事に生きて帰れますように)
この世界には本当に女神様が居るみたいだし、是非とも願いを叶えてもらいたいものだ。貴方の信徒に殺されそうなんですよ。助けてください。
女神へのお祈りを終え、周りを見渡す。あの白い格好の人が教会関係者だろうか?あの人に聞いてみるか。
「あのーすみません」
「なにか?」
教会に呼ばれたネクロマンサーだと伝えると、話は聞いていたようで、教会の中へと案内される。すぐ近くの部屋へと通され、此処で待っているようにと言われた。オレを此処まで案内してくれた男は部屋を出ていく。きっと担当者を呼びに行ったのだろう。ネクロマンサーの担当者って何だよ。ひょっとしたら、異端審問官とかそっち系かもしれない。教会の暗部とかな。嫌だなー。できれば会いたくない部類の人間だ。
部屋の中を見渡すと、ソファーが二つ。間にテーブルがあり、他の調度品は絵画ぐらいだった。応接間なんだろうか?座って待つか?いや、座れって言われてないし立ってよう。そうすると絵画を見るぐらいしかやることが無い。絵画はこの世界の宗教画になるんだろうか、女神と四聖獣が描かれていた。教会のシンボル、丸に十字も描かれている。丸から十字がちょっとはみ出るのがポイントだ。丸が女神を表し、十字の先端がそれぞれ四聖獣を表しているらしい。北の玄武に、東の青龍、南の朱雀、西の白虎。この内、生きているのが玄武と朱雀。青龍と白虎は、人魔大戦において命を落としている。玄武と朱雀も深手を負って動けないというのが現状だ。現在、人族は四聖獣の力を借りることができない状態にある。ゲームの時は『へー』としか思わなかったけど、これってけっこうマズイ状態じゃないか…?
コンコンコン
何の気なしに絵画を見て、現状のマズさに恐れおののいていると、ノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
すぐに扉が開き人が入ってくる。オレはその人を見た瞬間、姿勢を正した。だって、すごい偉い人っぽい。見た目は初老のおじいちゃんだ。柔和な笑顔を浮かべていて、好々爺な印象を受ける。だが、その恰好が問題だ。白地に青の服は此処に案内してくれた男と同じものだが、少しデザインが異なっている。白地の部分に、キラキラ虹色に輝く糸で細かな刺繍がされており、首から大きな教会のシンボルをぶら下げている。その教会のシンボルも一見銀に見えるが、虹の様に複雑な色を反射していた。たぶん、刺繍もシンボルもミスリル製だ。貴重品であるミスリルを、こうも惜しげもなく使える。それだけ高い地位に居る人間だ。後ろに付き従うように、神殿騎士が4人も付いているのも、この人物が高位にいることを窺わせる。
「立ってする話でもない。さぁ、君も座ってください」
「はい。失礼します」
なんだか予想外の人が来たな。偉い人との会話は苦手なんだけど……。それに、話とはいったい何なんだろう?さて、鬼が出るか蛇が出るか…。
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