第43話 教会②

「私はパドリック。この教会の責任者です」


 目の前に座る好々爺じみた人がさらっと言ったが、それってすごい偉いんじゃない? だって、この教会はマチルドネリコ連邦の首都ハーリッシュにある一番大きな教会だ。マチルドネリコ連邦に居る聖職者の中で一番偉い人かもしれない。それに此処、城塞都市ハーリッシュは、過去に女神も滞在したこともある人魔大戦の戦勝の地であり、聖地に認定されてもいる。教会にとってはとても大事で特別な土地だ。そこの責任者。オレが思っている以上に偉い人なのかもしれないな……。


 なんか想像よりも数段上のすごい人が出てきちゃった。こんな偉い人がオレに何の用があるのか……。正直、めちゃくちゃ嫌な予感がする。


「私はアルビレオ、ネクロマンサーです。猊下にお会いできて恐悦至極に思います」


 教会関係者って猊下って尊称で合ってただろうか…。咎められないし、たぶん合ってたんだろう。しかし、猊下と呼ばれて否定も謙遜もしなかった。たぶん、そう呼ばれ慣れてる人なんだろう。すっごい偉い人来ちゃったなぁ……。


「ははっ。そんなに固くならずに。もっと柔らかく行きましょう。今日は何を食べましたか?」


 柔和な微笑を湛えてパドリックが訊いてくる。気の良いおじいちゃんのみたいだが、こんな顔して教会のお偉いさんだ。きっと、えげつない出世争いの勝者なのだろう。後ろに神殿騎士を侍らしてるし、下手なことは言わないでおこう。


「今日は串焼きを食べました」


「羊の?」


「はい、羊肉の串焼きです」


「この地ではお肉と言えば羊ですね。私も食べたことがありますが、とても美味しい」


 どうやら最初から本題には入らないようだ。その後も世間話や季節の話など、当たり障りの無い話が続く。そして……。


「ところで、貴方が白虎様を使役しているというのは本当ですか?」


 急にぶっこんでくるなぁ。これが本題か?しかし何て答えよう?否定するか?いや、白虎は人前で召喚してるから、否定するだけ無駄か。


「白虎様に力を貸して頂いているのは本当です」


 こんな偉そうな人が様付けで呼ぶんだ。白虎様と敬っておこう。それに使役という言い方も良くないと思う。オレにとって、白虎はできる限り白虎のことを敬っているフリをしておこう。


「ほう!やはり貴方がそうでしたか。私達は貴方を探していたのですよ」


 教会は、オレがライール高原の町で白虎を召喚して以降、オレの行方を捜していたらしい。そして、先日の訓練で白虎を召喚したことで、オレが此処に居ると特定したようだ。


「私達は貴方に問わねばなりません。白虎様を不当に使役しているのか否かを」


 パドリックの顔から笑顔が消える。まるで能面のような表情だ。目線が鋭い。こちらを見極めんとしているのを感じる。


「白虎様を不当に使役しているわけではありません。ネクロマンサーの死霊術は、死者と術者の双方の同意があって初めて契約ができるのです。私は白虎様の同意を得て、白虎様に力を貸して頂いているだけです」


「ならば、それを証明できますか?」


 証明!?どうやって証明すれば良いんだ?白虎を召喚してしゃべらせる?無理だ。白虎は召喚すると咆哮を上げて消えるだけだ。とても意思の疎通なんてできない。


「……私が白虎様に力を貸して頂ける。それが証明になりませんか?」


「なりません。白虎様が契約に縛られ、不本意ながら力を貸している場合があります」


 ですよねー。どうしよう?証明なんてできないんじゃねぇか、これ。


「難しいですか?」


「はい……」


 オレはパドリックの言葉に頷くしかなかった。


「今、私達の中では二つの意見があります。一つは白虎様を使役するなど不敬とし、今すぐにでも貴方を処刑せよという意見です」


 処刑……分かっていたことだけど、改めて言われると怖い。


「もう一つが、貴方に力を貸すことが白虎様の御意思なら、貴方を処刑するべきではないという意見です」


 ん?流れが変わったぞ。教会内部でオレを擁護する意見があるってことか?


「白虎様の御意思を証明することができない以上、貴方は行動をもって証明するしかありません。自分が白虎様に力を貸して頂くことに値する人物であると」


「行動…」


 つまりどういうことだ?


「近頃の魔族の攻勢には目を覆いたくなるほどです。カナンサの砦に続き、バストレイユ鉱山も奪われてしまいました。次は此処、ハーリッシュが攻められるのではないかと皆が不安に思っています」


 ゲームでも、土地の支配権を賭けた攻防戦というイベントが行われていた。カナンサ砦も、バストレイユ鉱山も攻防戦の舞台だ。攻防戦に勝利し、土地を確保すると、様々な特典があった。負けて土地を奪われると、特典を失う。バストレイユ鉱山まで奪われているということは、かなり押されているみたいだ。


「私達は、バストレイユ鉱山奪還の為に冒険者と協力して兵を挙げます。貴方にはこの遠征参加してもらいます。そして、白虎様のお力で味方に勝利をもたらすのです」


 なんだか勝手に遠征に参加することにされている。でも、白虎の力で勝利をもたらせって言われても…。正直に言うか。


「それは、難しいかもしれません」

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