第44話 教会③

「それは何故でしょう?」


 白虎の力で味方に勝利をもたらすのは難しい。そう答えると、パドリックから疑問が上がった。相変わらず能面みたいな顔だ。感情が読み取れない。


「それは、その……恥ずかしながら、私の力不足です。白虎様のお力は強力無比ですが、最大6人までしかお力を借りることができません」


 これはゲームの仕様上、仕方のないことだ。白虎の咆哮によるバフは、同じパーティのメンバーにしか効果がない。パーティの最大は6人。つまり、7人以上はバフをかけることができない。己の力不足と言ったのは、それ以外に上手い理由説明が思いつかなかったからだ。下手なこと言うと、白虎を貶めたとして処刑されるかもしれないからな。


「それに、白虎様のお力をお借りできるのは一時のことです。時間の制約があります。時間の制約のある6人で戦局を左右するというのは、難しいと思います」


「なるほど……」


 パドリックが目を瞑り、沈黙する。何か考え事か。


「分かりました」


 良かった、分かってくれたらしい。白虎の力を使っても、攻防戦に必ず勝利できるわけではないのだ。


「ですが、貴方には遠征に参加してもらいます。白虎様が参戦してくださるだけで士気は上がりますからね。そして、白虎様が参戦なさる以上、私達に敗北は許されません」


 分かってくれてないじゃん!さっきと言ってる事変わんないじゃんよ!


「もし、敗北してしまったら…?」


 オレは恐る恐るパドリックに尋ねる。


「先程、私達には二つの意見があると言いましたね。貴方を処刑するべきか否かです。もし、敗北するようなことがあれば、貴方を擁護する声は無くなるでしょう」


 えー…。敗北したらオレ処刑されるの!?


 教会内でオレを擁護している人達は、白虎が望んでオレと契約している場合、白虎の意思を尊重しようという人達だ。決してネクロマンサーに好意的なわけではない。彼らにとって重要なのは、白虎の意思である。


 教会内では、オレの契約している白虎が本物か偽物か、という疑問もあるらしい。そこで、教会は今回のバストレイユ鉱山の奪還戦で白虎の真贋を計ろうとしている。白虎の力で勝てれば本物、負ければ偽物だ。


 白虎が偽物だとなったら、オレを擁護する意味はない。ただのネクロマンサーだ。処刑を迷う必要はなくなる。


「でも、此処はマチルドネリコ連邦です。ネクロマンサーは合法のはずです」


「はい。ですが、貴方には教会を謀った罪ができることになります」


 バストレイユ鉱山の奪還戦に負ければ、オレの契約している白虎は偽物認定される。オレには、白虎を騙った罪と、偽物の白虎で教会を騙した罪ができるらしい。オレに騙した意識なんて無い。教会側が勝手に踊っただけだ。なんでオレの罪になるんだよ!理不尽過ぎるだろ!


 しかも、この二つの罪によって、マチルドネリコ連邦内であってもオレを罪に問えるようになるらしい。マジかよ……。罪に問われることになったら、間違いなく処刑だろ?


「そんな…横暴だ……」


「貴様!口を慎め!」


 パドリックの後ろに控える神殿騎士に怒られる。けどさ、これはいくらなんでも酷いよ……。


「なに、勝てば良いのですよ。勝てば、教会内で貴方を擁護する声も大きくなります」


 パドリックが元の柔和な笑みを浮かべる。今のオレには、その笑みが憎らしくて堪らない。何笑ってんだよクソが!最悪だ。ハメられた。オレが奪還戦で勝つしか道が無いように謀られた!


 教会にとってはどちらでも良いのだ。次の遠征でバストレイユ鉱山を取り戻せればそれが一番だが、負けても目障りなネクロマンサーを消すことができる。しかも、敗戦の責任を全てオレに押し付けることも可能だ。教会は、負けた際の生贄の羊を求めているのかもしれない。


 いっそのこと、此処から逃げちまうか?ダメだな。逃げても状況は悪化するだけだろう。逃げるなら、今後人との接触を避け、一人で生きていく覚悟が必要だ。オレにその覚悟ができるだろうか?


 それならば、教会の案に乗るフリをした方が良いか。バストレイユ鉱山奪還戦に勝てるならそれで良し。負けるようなら敗戦のどさくさに紛れて逃げる。どうせ逃げるなら、逃げれる準備をしつつ、奪還戦の勝利に一縷の望みを賭けた方が良い。


 はぁー…。どうしてこんなことになったんだ…。冒険者や街の人とは上手くいってなかったけど、それなりに生活できるようになってきた途端にコレだ。神様はオレのこと嫌いなのか?そりゃ嫌いか。オレ、ネクロマンサーだもんなぁ……。


 ネクロマンサーの力。死者との会話や死者との契約というのは、本来は『墓守』としての力だと云われている。未練を残した死者を慰め、その魂を女神の元へ、次の輪廻転生へと導くための力。断じて死者を戦場に駆り立てるための力ではない。これが教会の言い分だ。


 だから教会は、ネクロマンサーを女神フォルトゥナへの冒涜者として敵視しているのだ。教会の言い分を信じるなら、女神フォルトゥナにとっても、力の悪用をしているネクロマンサーは許せない存在だろう。くそ!女神像に祈っても効果がないわけだ。

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