第33話 冒険者ギルド本部④

 その日、オレはイライラしていた。理由は……たくさんだ。兎のNMが見つからない苛立ちだったり、宿を追い出されたことだったり、また店を出禁にされたことだったり、冒険者連中のオレへの態度だったり、街の連中のネクロマンサーへの忌避だったり、一つ一つは大したことじゃなくても、重なれば、積もり積もれば、飲み込めない程の苛立ちになる。だからだろう。いつもなら適応に流しているギースの言葉に反応してしまったのは。


「毎日毎日……ウゼェんだよ。いい加減にしないとはっ倒すぞ」


「言うじゃねぇかハンターの分際で…!」


「毎日ギルドで管巻いてるよりマシだろ。その立派な装備は飾りですかぁ?」


 煽るような、貶す言葉が次々と出てくる。


「ハハッ、ギース言われてるぞ?」


 ギルドの中に居た冒険者達がヤジを飛ばす。てか、コイツ等もムカつくんだよな。毎日飽きもせず、陰口を聞こえるように言ってくるし、たぶんコイツ等の誰かだろ、オレがネクロマンサーだって言いふらしてんの。おかげで宿を追い出されるわ、店を出禁にされるわ、散々な目に遭ってる。


「うるせぇ、黙ってろ」


 珍しく意見が合うじゃねぇか、ギース君。


「陰口叩くしか能のねぇ奴らは黙ってろ、雑魚共が!」


「あ?」


「んだとコラ!」


 オレの言葉に、冒険者たちが剣呑な雰囲気を纏う。


「十級が、随分舐めた口きくじゃなぇか」


「三級程度でイキるなよ、雑魚が。そんなんだから上に行けねぇんじゃねぇか?」


 ギースの目の色が変わる。歯を剝き出しにして、こちらに噛みつかんばかりだ。


「こいつ…!殺してやる…!」


「やってみろよ、返り討ちだ」


 この際だ、全員ぶっ飛ばしてやる。


「ちょっと!あなたたち何してるの!」


 そんな時、受付嬢戻ってきた。言い争いをするオレとギースに、それを取り囲む剣呑な気配の冒険者に、目を白黒させている。いつもとは違う雰囲気に驚いているのだろう。


「いいところに帰ってきた。おい、コイツと訓練だ!」


「えっ!?」


「あれだけ啖呵切ったんだ!逃げねぇよなぁ?」


 ギースが凄んでくる。周りの冒険者もこちらをニヤニヤと見ながら囃し立てているが、訓練って何だろう?なんでギースと訓練しなくちゃいけないんだ?


 聞けば、訓練とは名ばかりのもので、実際は殺し以外は何でもありの試合のことらしい。昔、上位冒険者が下位冒険者を訓練と称してボコボコにしていたのが由来だ。事態を重く見た冒険者ギルドは、訓練は冒険者ギルドで行い、下位冒険者の同意が無ければできない事にした。


 ギースや周りの冒険者が俺に「逃げるな」と言ってるのは、オレの同意が無ければ訓練が行えないからだ。そして、訓練じゃなければ冒険者同士の私闘は行えない。訓練とは、冒険者同士が私闘を行う為の抜け道みたいなものだ。或いはガス抜きの為にわざと開けた穴なのかもしれない。


「やめときなよ!怪我じゃ済まないわ!」


 ルドネ族の受付嬢ちゃんが必死に止めてくれる中申し訳ないが、オレは訓練を受けることにした。いい加減コイツ等にはうんざりしていたところだ。都合よく殴るチャンスがあるなら、殴る。


 別の受付嬢が用意した誓約書に代筆してもらう。要は怪我は自己責任で、殺さないことだ。同意する。このエルヴィン族の受付嬢もオレを見てニヤニヤしてるんだよなぁ。気分が悪い。

 

 誓約書への同意が行われ、エルヴィン族の受付嬢の案内で訓練場に向かう道を、冒険者をぞろぞろと引き連れて歩いていく。その道中、オレはイヤリング、指輪、ネックレス等の装備を外しながら歩いていた。これらの装備はHPや身体能力を犠牲にMPを増やす装備だ。装備を外すごとに体が軽くなり、力が漲るのを感じる。


 感情は高ぶっているが、頭は冷静なつもりだ。冷静にギースに勝つ為に必要なものを計算していく。ギースは、装備から見て剣と盾を使う重戦士だろう。おそらく、主に敵の攻撃を受ける盾役のタンク職。その攻撃力は低いが、その分、防御力が高い。攻撃力が低いとはいえ、それは他の大剣や両手斧なんかを持ってるアタッカー職に比べて低いだけだ。防御力が皆無なネクロマンサーを一撃で倒すくらいの攻撃力は持っていると考えるべきだ。


 ネクロマンサーの主な攻撃手段である英霊の召喚は、発動までに時間が掛かる。ギースの速さがどんなものかは分からないが、間違いなく先手はギースに取られるだろう。今のオレに必要なのは、ギースの一撃に耐えられる防御力だ。一撃耐えて、召喚を行使、そして反撃、こんな感じだろう。


 頭の中で冷静に戦術を練っていく。先手はギースに取られる。なら、後手に回るオレは誰を召喚すればいい?どうすればギースに勝てる?


 なんだかゲームの時みたいだ。


 相手を想定して、戦術を考えて、勝つための道を探る。ゲームで何度もやってきたことだ。訓練場といっても街中だ。それほど広くはないだろう。となると接近戦だな。ネクロマンサーのオレが、前衛職の相手と接近戦?無謀にも程がある。

 でも、なんだかワクワクしている自分もいた。こういう不利な状況をひっくり返すのが面白いんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る