第32話 冒険者ギルド本部③
今日でNMを狙って兎狩りを初めて何日目だろ?一週間ぐらいか?この世界も七日で一週間で分かりやすくて助かった。それにしても、出会わねぇなぁ……。初日と同じく、英霊を総動員して捜索しているが、NMは未だ狩れていない。目撃情報も無しだ。
それもこれも草原が広すぎるのが問題だと思う。ゲームだったら10分くらいで探索できるのに、現実では七日経っても探索しきれない程広大だ。やっぱりあの広大な草原の中から、兎一匹を探すのは無理があったか……。ここは諦めて他のNMを探しに行くか?でも他の所も似たようなものな気がするな……。今まで歩いてきたどのフィールドも、ゲームの時に比べれば広大になっていたし、此処ハーリッシュもゲームの面影を残しつつ、より広く複雑になっている。
「はぁ……」
つい、ため息が出てしまった。NM狩りが思うようにいかない苛立ちもあるが、どちらかというと、これから冒険者ギルドの中に入るのが憂鬱なので出てしまったため息だ。
「行くか…!」
自分に気合を入れるために掛け声をかけて、ギルドの中に入る。入った瞬間、無数の視線に晒される。そして、相手がオレだと分かった瞬間に、視線に侮蔑や嘲りの感情が乗る。
「アイツ、毎日毎日、恥ずかしくないのか?」
「あの人、10級なんですって」
「10級冒険者にこの街で仕事なんて無理ってもんだろ」
「今日もハンターが兎狩ってきたぜ」
こそこそと話す声が聞こえる。いや、わざとこちらに聞こえるように話しているのかもしれない。ギルドのルールで直接手が出せないため、こういう陰口が増えた。彼らの中では、冒険者であるにもかかわらず、魔族と戦わずに兎ばかり狩っているオレは恥ずかしい存在らしい。ちなみにハンターというのは冒険者間では蔑称だったりする。魔族とは戦わない臆病者という意味らしい。
「はぁ……」
こちらを転ばせようと出された足を避ける。
「チッ」
避けたら舌打ちされた。今度から踏んで通ろうかな?
「いらっしゃいませ。今日も買い取り?」
ルドネ族の受付嬢が、笑顔で対応してくれるのが唯一の救いだな。他の種族の受付嬢は、なんか冷たい態度だ。オレにロリコンの気は無かったはずだけど、だんだん好きになってきた。可愛いし、見てて癒される。
「買取お願いします。兎を六羽」
「今日は六羽も。査定するからちょっと待っててね。あなたはちゃんと処理して持って来てくれるから評判良いのよ」
そう言って受付嬢がカウンターの奥へ行く。この時間が憂鬱なんだよなぁ。憂鬱というか、単に面倒なだけかもしれない。
「おい、ハンター」
今日も来たか……。
「こっち向けって言ってんだよ!」
肩を掴まれて、無理やり対峙させられる。ヒューマンの男の姿がそこにはあった。年齢は20半ばぐらい、よく日焼けした肌を持つ、筋骨隆々な大男だ。名前はギース。オレがここのギルドを初めて訪れた際、オレを真っ先に斬り殺そうとした奴だ。
「いいか?ハンターってのはおめぇの事だ。俺が呼んだらすぐに返事しろ!」
「毎日毎日…、お前暇なの?」
「言葉遣いに気を付けろよ、三下」
「オレより年下だろ?」
「いいか?俺は三級、お前は十級。格の違いが分かんねぇのか?」
「はぁ……」
面倒だな。三級程度でイキるなよ。冒険者同士の私闘は禁じられているので、手は出してこないが、こちらからも手を出すことができない。それがなんとも、もどかしい。
「なんだぁその態度は!?」
胸ぐらを掴まれる。
「ここじゃあネクロマンサーが合法だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!大罪人が!」
「あなた達何してるの!?」
ルドネ族の受付嬢がカウンターの奥から戻ってきた。ギースを注意してくれるのは彼女くらいだ。後の受付嬢は知らんぷりだもんな。中にはニヤニヤしながら見てくる奴もいるくらいだしな。
「チッ」
ギースが胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に離し、彼の仲間の方へと戻って行く。
「なによあれ。災難だったわね」
受付嬢の優しさが胸にしみる。彼女がいるから、冒険者ギルドで頑張れてる気がするな。
ギルドで兎を売ったら夕食だ。早速とばかりに店に入ろうとしたら、暗い顔のヒューマンの店主に呼び止められてしまった。
「あんた、ネクロマンサーなんだってな。悪ぃが、もう店には来ないでくれ」
もう関わりたくないと言わんばかりに、言うだけ言って店の中に帰っていく店主の後姿を、オレは見送ることしかできなかった。
またか。最近多いな。まだハーリッシュに来て一週間だというのに、オレがネクロマンサーだって広がり過ぎだろ。誰かが広めているんだろうなぁ……。オレがネクロマンサーだと知っているのは、冒険者とギルド関係者くらいだ。たぶん冒険者が広めているんだろうなぁ……。ギースとか。アイツなら嬉々として言いふらしそうだ。
ここが出禁になると、このあたりの飲食店全滅になっちゃうんだよなぁ……。どこで飯食おう?
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