第12話 買い物といきなり修羅場
一夜経って今日、オレは朝から町に来ていた。もちろん、買い物をするためだ。わくわくする。
昨夜、買い物するにあたって、オレはハインリス、エバノンに相談を持ちかけた。ズバリ、何を買えば良いのかと。
オレはキャンプの経験もないド素人だ。ここ数日も、エバノンにおんぶに抱っこだった。そんなオレが買い物をしても、失敗するのは目に見えている。そもそも旅に必要な物と言われてもパッと出てこない。
オレは二人に言われるがままに、今日買う物を決めてきた。
鍋
調理用ナイフ
火打石と打ち金
水袋
干し肉
腐りにくい野菜
携帯食料
靴
こんなところだ。後は個人的に服が欲しい。流石にそろそろ、この蛮族スタイルを卒業したい。
さて、何から買うか…。街道から店を見渡す。字が読めないので店の名前は分からないが、店が絵の看板を出しているので、何を売っているのかなんとなく分かる。
識字率の低さが影響しているのかもしれない。オレにとってはありがたいことだ。
一軒目は金物屋にした。ここではナイフと鍋を買いたい。
高けぇぇぇえ!この小さなナイフが20000ルピス!!?鍋も一番小さいので15000ルピスもするし、ここでお金が半分飛んじゃうんですけど!!でも、この町に金物屋はここしかない。ここで買うしかないのだが…ボッてんじゃないよな?
泣く泣く買った。ナイフも鍋も背中の大きな鞄にしまう。この鞄もコボルトの血が付いて変な臭いがするんだよなぁ……。はぁ…気を取り直して買い物を続けよう。
その後も買い物を続けた。なんとか目的のものは買い揃えることができた。靴は高くて買えなかったけど、代わりにサンダルを買った。踵もついてるし、コレで良いだろう。
残ったお金は3500ルピス程、当然服なんて買えなかった。蛮族スタイル続行である。泣ける。
オレは今日中にこの町を出ようと思う。理由は冒険者ギルドの支部長だ。彼の不信感がこれ以上育たない内に、この町を出る。彼はオレの話が本当かどうか確認する為、コボルトの洞窟に調査員を派遣すると言っていた。
洞窟のコボルトは、みんな首を刎ねられて死んでいる。オレは剣を持ってないのに。こんなの怪しすぎるだろ。
彼がすぐにオレの正体をネクロマンサーだと気付くことは無いと思う。オレの警戒しすぎかもしれない。でも『警戒して、し過ぎることは無い』とも言う。
それに元々この町は只の通過点、旅に必要な物資も揃ったし、もう此処にいる理由は無い。クエストもしょっぱいのしかないしな。
そんなこと考えながら街の大道りを歩いていると、向こうから白馬に乗ったピカピカの奴が来た。相手は馬に乗ってる。この世界では車みたいなものだろう。轢かれたくないので道を譲ろうと右に避けると、相手も右に動く。
道を譲ろうと避けたら、相手も同じ方向に避けることってあるよね。
オレは再度右に避ける。すると、相手もまた右に避けた。またかよ……。
よくよく気が合うな。運命かな?
白馬に乗った全身ピカピカの鎧を着た男との運命とかどうすりゃいいんだよ。
男と目が合う。男との距離はもう5メートルもない。
「貴様がネクロマンサーだな?」
チガウヨ。
◇
目の前に馬に乗った大柄なエルヴィンの男がいた。羽をモチーフにしたと思われる白銀の全身鎧を身に纏っている。男の目は完全にオレへと注がれていた。
「なんとか言ったらどうだ?ネクロマンサー」
「いえ、人違いです」
男はオレがネクロマンサーだと確信しているようだ。なんでバレた?なんでバレたんだ?支部長か?仕事早すぎんだろあの爺さん。いや、それよりも、この状況をどうする?
「ならば、フードを取ったらどうだ?」
オレは周囲に目を向け、状況を確認する。鎧男の後ろには、黒地に赤の線が入った服を着た男が2人、鎧男に付き従っているように立っていた。あの服どこかで見たな……。
何か前方の方で騒ぎが起こっている。そちらに目を向けると、同じく黒地に赤線の服を着た集団が街道を封鎖するように並んでいた。後方でも騒ぎが起こっているのは同じ理由だろうか?
完全に囲まれている。現状を打破する手段?あるかそんなの?英霊達は戦闘に使えないと思った方が良い。英霊に意思のある世界だ。いきなり人を襲えだなんて命令、拒否されるとみていい。
考えろ、考えろ、考えろ、死にたくなきゃ考えろ。英霊達は戦闘に使えない。……あ、でも、これは使えるのか?
「我ら、第4騎士団!!これよりネクロマンサーを捕縛する!!」
もう時間がない。この方法しかない!イチかバチかだ!
「出でよ、白虎!」
瞬間、街道の真ん中に巨大な青白い虎が現れた。<四聖獣>白虎は、この世界の守護者、四柱いる聖獣の一柱だ。白虎は人魔大戦中に命を落としたが、とあるクエストをクリアすると契約を結び、英霊として召喚できるようになる。
現れた白虎が、驚くほど大きな声で咆哮する。咆哮と同時にオレの体に沸々と力が沸いてくるのが分かった。白虎の咆哮の効果、それは強力なバフだ。短時間の間、全ステータスを500アップしてくれる。
人を襲うのは拒否されても、オレにバフを掛けるのは拒否される可能性は低いと思った。オレは賭けに勝った。バフも拒否されるようじゃ、本当に打つ手がない。
白虎が消えていく。白虎ほど強力な存在を、ネクロマンサーは召喚維持できないということらしい。この辺りはゲームと同じだった。
咆哮が響き渡るとの同時にオレは踵を返し走り出した。横目に白虎の咆哮に驚いた馬が棹立ちになり、落馬している鎧男の姿が見えた。
振り返って見ると、こちらにも黒地に赤線の服を着た集団が街道を封鎖していた。こっちにも居たか。でも想定内だ。オレは第四聖騎士団とかいう連中に突っ込んで行く。白虎のバフの効果は凄まじいものがあった。一歩踏み出すごとにグングン加速していく。
第四騎士団の連中はオレが突っ込んでくると分かると、剣を引き抜いて迎撃態勢を取りだした。錬度たけぇーなおい。嫌になるわ。畜生め!
オレは腕を顔の前でクロスさせると、そのまま集団に突っ込んでいく。白虎のバフを受けた今のオレは並みの前衛よりも固い!
腕に、胸に、腹に何度も金属バットで殴られたような衝撃と、カミソリで切られたような鋭い痛みが襲い掛かってくる。痛みで怯みそうになる足を強引に動かし、なんとか集団を抜けることに成功する。
まだだ!まだ!このまま出来る限り遠くへ!
オレは逃げ出した。
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