第39話 沼③
「いくわよ!」
<族長>リリアラの持つ杖の先端が光り、凄まじい轟音と共に雷が落ちる。辺りがカッと閃光に包まれ、目も開けていられない。光りが収まり、目を開くと、まだ視界が白く塗りつぶされていた。目の奥がジンジンと痛む。網膜が光りに焼かれたのだろう。しばらくこのままだな。
「リリアラ、敵は?」
「倒したわよ。一撃よ、一撃」
リリアラはまた踊っているのか、ウキウキした声で返してくる。
「ハインリスは?」
「まだ居るわよ。今リザードマンを回収してるわ」
視界が白くぼやけ、良く見えないので、リリアラに状況を尋ねる。どうやら、リザードマンは片付いたらしい。
「じゃあ、俺も手伝ってくるか」
<狩人>エバノンがリザードマンの死体を回収する為に沼へと入っていく。少し、目が見えるようになってきたか。白黒写真の様に、まだ色が曖昧だが、なんとなく見えるようになってきた。目に映りこむのは、どこまでも続く沼地だ。沼地の中央には丘の様な小島が見える。ここはホルスの沼地、リザードマンの拠点だ。オレはまた此処にリザードマンを討伐しに来ていた。
「ハインリスが沈んだわよ」
「ハインリスを送還。出でよ、ハインリス」
この沼は底なし沼だ。沼に飲み込まれたハインリスの召喚を解除し、もう一度召喚し直す。
「やれやれ、英霊遣いの荒い男だ」
「ごめんよ、ハインリス」
「冗談だ。では、行ってくる」
召喚されたハインリスがまた沼の中へと入っていく。いや、本当に英霊遣いが荒いと思うんだよね。ハインリスなんて、リザードマンを呼び寄せる囮もするし、リザードマン諸共魔法で吹っ飛ばされるし、戦闘が終わったらリザードマンの回収もする。改めて考えると、かなり酷い扱いだ。よく文句を言わないものである。ハインリスの広い懐に感謝!
倒したリザードマン2体の死体を陸地まで運び、尻尾をぶった切って回収する。今回は皮は剥がない。時間が掛かるからね。それよりもその時間でリザードマンを倒して、尻尾だけ回収した方が楽だし儲かるのだ。これで回収した尻尾は7本になった。リザードマンの尻尾は大きいので、もう鞄には入りきらない量だ。本来なら、ここで狩りを終了して撤収するのだが、今回は訳あってそのまま狩りを続行することにした。
「じゃあ、場所を変えてもう一度リザードマンを狩ろう」
「良いのか?持ちきれないだろう?」
「我に秘策ありだよ、ハインリス君」
オレは得意げにそうハインリスに返して、次の獲物を求めて歩き出すのだった。
沼沿いに歩いて場所を変え、狩りを開始する。
「ハインリス、頼んだ」
「はぁ、分かった」
ハインリスが沼の中に入っていく。ハインリスの役目はリザードマンをおびきよせる囮だ。リザードマンは沼の中に姿を隠し、獲物が沼に入るのを待ち伏せしているからね。こうして囮で隠れているリザードマンを誘き寄せる作戦だ。
「グッ!」
「かかった!」
そして、沼に入った獲物に一斉に攻撃を仕掛けるのだ。沼の中からいきなり槍が飛び出し、ハインリスに襲いかかる。飛び出した槍は二本。ハインリスは一本を盾で弾き、もう一本を回避しようとするが、右腕に受けてしまった。ハインリスの足元は沼だ。水に、泥に足を取られて、うまく回避ができなかったのだろう。足元はただの沼じゃない、底なし沼だ。ハインリスが動く度に、少し、少しずつ沼に飲まれていく。獲物が沼に入るか、という問題はあるけれど、リザードマンの沼を味方につけた戦法はかなり凶悪だと思う。
「そーれ!」
轟音と閃光が巻き起こり、リリアラの雷の魔法が、ハインリスごとリザードマンを屠る。閃光が晴れた跡には、リザードマンが二匹、ぷかぷかと沼に浮いていた。ハインリスの姿も見える。リリアラの魔法の威力は強力だ。ハインリスでは本来耐えきれないが、ハインリスの食いしばりの能力でHP1で耐えたのだろう。
「じゃあ、行ってくらぁ」
エバノンがリザードマンの死体の回収を手伝う為、沼の中に入っていく。後はリザードマンの尻尾を回収して終了だ。リザードマン狩りは、こんな感じで回している。ハインリスの負担がデカいが、この方法にはハインリスが最適なのだ。適度に防御力があり、リリアラの魔法が完成するまで粘ってくれるし、食いしばりでリリアラの魔法にも耐えられる。召喚の為のMP消費も低いのも魅力的だ。それに、初期から付き合いがあるからか、エバノンと同じく頼みごとがしやすい。なので、ついついハインリスやエバノンを頼りがちだ。彼らの献身に報いたいが、何をすれば良いんだろうな。
その後も同様の方法でリザードマンを狩りまくった。夕暮れ時には、23本のリザードマンの尻尾が集まり、その日のリザードマン狩りは終了した。大漁、大漁!換金が今から楽しみでたまらない。貯まったお金で何を買おうか…。なんてことを考えながら、オレはホルスの沼地を撤収した。
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