第49話 回想と決意

 森の中の道を山に向かって歩いていく。落ち葉が積もっているけれど、余裕で馬車がすれ違えそうな程に道幅は広く、立派な山道だ。魔族達にバストレイユ鉱山を奪われる前までは、この道をミスリルを積んだ馬車が走り、賑わっていたそうだ。そう言えば、森に入る手前に町の跡地のような所があった。きっとバストレイユ鉱山と城塞都市ハーリッシュを結ぶ中間の町として賑わっていたのだろう。結構大きな規模の町跡だった。


 そこに住んでいた人たちは何処に行ったんだろう?魔族から逃げてハーリッシュに行ったのかな?それとも……。


 オレは頭を振って暗い想像を追い出す。日の光が木々に遮られて周りが薄暗いからか、思考が暗い方に進みがちだ。まぁ、周りが薄暗いと言っても、ナルバレンタ大森林のような暗闇ではないだけマシだ。あの時は、日の光が完全に遮られて、昼なのか夜なのかも分からないぐらいだったからなぁ…。いつ暗闇から何か襲ってくるか分からない恐怖と、日に日に少なくなっていく水と食料…。広大な森の中で現在地も分からない不安に押し潰されそうだった。今思えば、よく狂わずにいられたものだ…。


 いかんいかん。また暗い思考になっている。楽しいことを考えよう。楽しい事…何かあったっけ?


 ナルバレンタ大森林と言えば、アントムの家族に会った場所だ。アントムとナヅナ、アナちゃん。3人との暮らしは楽しかった。何も無い家だったけど、全てがあった気がする。人の温もりに久しぶりに触れた気がした。この世界に来て、初めて人として扱ってもらえた気がした。それがすごく嬉しかった。だから何かお返ししたかったんだけど…結局何もできなかったな…。あの母娘、元気に暮らしてると良いんだけど…。


 その後は、ナルバレンタ大森林を彷徨って、やっとの思いで抜け出して、ハスティとアウラ母娘に拾われた。ルドネ族の集落で開かれた宴会は楽しかった。料理も酒も美味しかったし、皆が披露する芸もすごかった。魔法のある世界の宴会芸ってすごい。そう言えば、オレも芸を見せろって言われて困ったっけ。今となっては良い思い出だ。アウラにはまだお礼もできていない。ビックになったら受け取ってもらえるけど、ビックってどうやったらなれるんだろうな。


 ハーリッシュではあまりいい思い出が無いな。冒険者に絡まれたり、店を出禁にされたり…。でも、良い出会いもあった。トカゲの尻尾亭のトムソン。オレがネクロマンサーだと知っても、変わらず客として扱ってくれた。彼のおかげでリザードマンの美味さに気が付けたのも大きい。たまにサービスもしてくれるし、気の良い奴である。後は、羊の串焼きの屋台をしているズンドラ。毎朝の食事の世話になっている。3人の子どもを男手一つで育てるパパさんだ。店を出禁されているオレに代わって買い出しもしてくれるし、何かと世話になっている。鞄に入っている塩の買い付けにも協力してくれたし、無事に帰れたら、今度お礼の品でも渡そう。


 そして、何と言っても外せないのが冒険者ギルドの受付嬢ちゃんだ。彼女の公平な態度にどれだけ救われた事か…。ちっちゃい手足で一生懸命お仕事している姿は、見ているだけで癒される。トムソンやズンドラを紹介してくれたのも彼女だし、ハーリッシュでやってこれたのは、間違い無く彼女のおかげだ。もう愛してると言っても過言じゃないね!実際、受付嬢ちゃんのことを良いなぁと思う瞬間があるし!オレにペドの性癖は無かったはずなんだけどなぁ…。ちょっと自分が信じられない。


 教会に言われて仕方なく参戦している戦争だけど、オレにだって守りたい人やモノがある。オレはその為に戦うのだ。


 バストレイユ鉱山まで奪われているとなると、次の戦場はハーリッシュになってしまう。そうなったらどれ程の被害が出るか…。ハーリッシュは堅牢な城塞都市だが、無敵というわけじゃない。実際、人魔大戦の時は陥落寸前まで追い込まれている。


 それに、ハーリッシュを落とそうと思えば、大兵力が必要だ。それを防ごうと思えば、人族も大兵力を出さざるを得ない。大兵力と大兵力のぶつかり合い。それこそ人魔大戦のような大戦の引き金になってしまうかもしれない。


 絶対に大戦になんてしてはいけない。想像を絶する被害が出るだろうし、何より次も勝てる保証なんて何処にも無いからだ。


 各国の自分本位な思惑と足の引っ張り合い。ゲームを通して見た人族は、必ずしも良好な関係ではなかった。こんなんで勝てるのか?って疑問の方が大きい。


 ハーリッシュを戦場にしない為にも、バストレイユ鉱山は必ず奪還しないと!


 とは言っても、オレにできる事なんて大して無い。『ファイナルクエスト』はMMORPGだった。断じて無双系のゲームじゃなかった。そりゃ弱い敵が相手なら無双も可能だけど、基本は自分よりも強い敵に仲間と力を合わせて挑むゲームだ。オレ一人の力なんて高が知れている。


 ましてや、今回は万単位の敵味方が争う戦争だ。オレの力の及ぶ範囲なんて、かなり限定的だろう。その中でオレにできる事とは何だ?オレに何ができる?


 歩きながら、オレは必死に頭を巡らしていた。

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